2023-12-16カラスの羽はなぜ黒い

 十二月十六日


 山に帰った俺たちは、日がな一日だらだらと過ごしていた。特に本を読むでもなく、川から最低限水をくむなどの活動しかしなかった。これは、フィ姉さんの一般的な一日の過ごし方らしい。


 怠惰な一日で、昼に眠りすぎた。なかなか寝付けなくて、家を出て星を眺めていると、フィ姉さんが起き出してきて隣に座る。


「危ないよ、少年。野生動物とかいるからね」


 自分が平和ボケしていたことを実感した。ここは人の手のあまり入っていない山奥で、狼に襲われても文句は言えない。


「私が居たら守ってあげるから、夜更かしするときは呼んでね。どうせ暇だし」


「ありがとうございます」


 フィ姉さんは俺と自分用に毛布を二つ持ってきて、肩にはおって地面に座る。毛布は暖かく、俺は安心感で少し眠たくなる。


「せっかくだから夜空に関する話をしようか。ほら、あそこ。あれはカラス座っていうんだ。カラスは分かるね? 町にいた黒い鳥のこと」


 フィ姉さんの話は異世界雑学に移行する。


「カラスの羽が黒いのには理由があってね、どうも昔は黒くなかったそうなんだ。じゃあ何色だったのかというと誰も知らないんだけど。私が生まれた頃にはすでに黒かったと思うけどなぁ」


「じゃあ最初から黒いんじゃないですか」


「まあまあ、これはおとぎ話だから。それでね、カラスは一時期神の使いだったことがあるみたいなんだ。賢い鳥だから、神様のことを手伝っていて、褒美に夜空に上げられて星座になった」


 地球でも時々ある話だ。オリオン座とか。


「でもね、カラスってそそっかしいでしょ。空に上げられた後も地上が恋しくて、戻ってきちゃったんだそうな。だからカラスの羽は黒い。あれは、夜空の色なんだね」


 カラスの羽は夜空の色。俺はその日、カラスの夢を見ながら、いつの間にか眠ってしまったようだった。


 次の日目を醒ましたら家の中だったので、どうやらフィ姉さんが運んでくれたらしい。

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