2023-12-14魔法に殴られる

 十二月十四日


 今日はフィ姉さんの週に一度の街に行く日だ。街で一泊して次の日に帰る予定を立てていて、その間に必要な資材を買い込むことになっている。俺はそれについていって、荷物持ちをしながら異世界の暮らしを見定めようと思っている。


「じゃあ、魔法かけるから……」


 と言って、フィ姉さんが大上段に杖を振りかぶったので、思わず逃げた。山歩き用を兼ねたかなり太い杖だ。


「待った待った、殴らないでください。どうしたんですか急に」


「え? 魔法かけるなら殴った方が楽じゃん」


 どうやら山を下りるために俺に身体強化の魔法をかけようとしてくれていたらしい。接触したほうが魔法の使用が楽なのだとか。まあ、地球でもワイヤレス給電は手間がかかる割に効率も悪いし、そういうことなのだろう。


「普通に、その杖に俺が触れるんじゃだめですか?」


「あー、これはもう完全に流派なんだけど、魔法使う人の系統によって杖の使い方が違うんだよね」


「というと?」


「神官さんとかの神職は杖を上に掲げて魔法を使うし、ドルイド系の自然派は杖を地面に打ち付けることでトリガーを引くんだ。私は一般的な魔法使い系の流派で学んだから、振らないと魔法使えなくてさ」


「振った後で接触したいから、殴る行為になるんですね」


「修行続けたら魔法の本質とかに近づいていって、何しても魔法使えるようになるんだけどね。私、修行してないから。同い年のエルフたちに取り残されていく……」


 しょぼしょぼした顔のフィ姉さんがこつんと俺の頭を小突くと身体強化の魔法が発動して確かに体が軽く、力が強くなったような気がした。


「その流派周りの話だと、神官系が杖を掲げるのは神と接触して効率を高めているかららしいよ。本人たちが言っているだけだから本当のところは分からないけどね。とにかく、掲げた杖に人が集まって触れて、恩恵をいただくっていうのは街ではよく見かける光景かな。君も怪我をしたらお世話になるかもね」


 下山は魔法のおかげもあってかなり快適だった。


 野生の林檎を見かけたので食べてみたら、水気がなくもそもそしてとても食べられたものではなかった。品種改良の概念はこの世界にはないが、魔法で生育を手助けするから、売られている果実の方がはるかに美味しいのだとか。


 杖の使い方の変わり種として、魔法を習いたての時や特に魔法が苦手な人は、つまようじ大の小型の杖を『折る』ことで発動するケースもあるらしい。俺に魔法を学ばせるために、その杖を買い込むことも今回の下山の目的だ。

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