2023-12-13怠惰な食糧事情

十二月十三日


 今日も野菜を煮込んだシチューが提供された。日本によくあるような牛乳でとろみをつけたものではなく、欧風の原始的な煮込み野菜だ。特にワインで煮るなどの工夫もなく、スパイスやハーブも入っていないため、味がほとんどしない。


 ひとかけらだけ、肉のようなものが入っている。白くてぶよぶよした肉で、こりこりとした食感がしてこれも味がしない。


 これはひどい。


 フィ姉さんに了解を取って、キッチンを調べてみたが三種類の野菜しかストックされていないし、調味料はほとんど存在しなかった。


「この世界の食事水準ってこのくらいなんですか?」


 と、俺が問うとフィ姉さんは気まずそうな表情をした。


「はは。長く生きていて、それも怠惰に歳を重ねていると食事が面倒になってきてね。いやあ、恥ずかしい恥ずかしい」


 この怠惰で博識なエルフが住んでいるのは大きな街から歩いて半日ほどの場所にある山の中であるそうだ。歩いて半日、の基準が魔法を使った身体強化を施した後の計算であるため、俺が普通に行ける距離ではないらしい。


「街に行ったら色々あるよ。週に一回行くからついてくるかい? ちょうど明日だ。お金は使いすぎちゃダメだよ。私、そんなに金持ってないから」


 具体的に何があるかを聞くと、地球で聞いたことのあるような料理はほとんどが存在するようだ。香辛料は魔法で保存して輸送されてくるため想像より種類が豊富になっている。この日記では、地球の料理に様子が似ているものは、地球の名前で記すことにする。


 どうもフィ姉さんは料理をする技術はあるがやる気がない。この世界で食事にこだわるなら俺が何とかする必要があるのかもしれない。


「ちなみになんですけど」


「はは、何?」


「このぶよぶよした肉って何の肉ですか?」


「あっ、それね。うん。それは海魔の肉だよ。この世界じゃめったに手に入らない高級品なんだ。君がせっかくこの世界に来たわけだから、歓迎しないといけないと思って奮発したんだ。そう、そういうことだから。うん」


 その日は大人しく海魔肉をもにゅもにゅと食べた。薪を上手に割れるようになってフィ姉さんに褒められた。


 十二月十五日追記:市場で同様の肉を見かける。安値で叩き売られていた。外来種で生態系を壊すため駆除対象らしい。

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