11.破門




「たくみ、まだ出てこないんですか?」



 腕を組んで部屋の前の廊下に座っていた辰さんが首を縦に振る。



「それ、お嬢の夜食か?」



「はい。ただのおにぎりですけどね」



「ありがとよ。だがこの様子だと今日は出てこねぇかもな」



 大きなあくびをかます辰さん。



 それもそのはず。



 今は深夜2時。


 

 映画館から帰って来て8時間。


 龍鳴会に戻ってすぐこの鍛錬場に篭ったたくみはあれから外に出てこない。


 そう言えば辰さんにお礼を言っていなかった事を思い出す。



「辰さん、今日は助けて頂いてありがとうございました」



「んん!? オ、オウ! あれぐらい良いってもんよ!」



「てか辰さん、どうしてあんな所に?」



「へぇ!? やあ、ぐーぜんだ! 偶然! 偶然クレープを食おうと思ってなぁ!」



「クレープ? あのクレープ屋さんキッチンカーみたいだったですけど、毎日居るんですか?」



「.........す、すまねぇ! 実はおまえとお嬢のこと付けてたんだ!」



 突然土下座した辰さんが再び小刀を抜き放つ。



「この落とし前はこの指でーー」



「や、やめてください! 辰さんが付けてたおかげで助かったんですから!」



「けどよぉ.........」



「本当に気にしないでください! それよりたくみ、大丈夫ですかね?」



 渋々みたいな感じで小刀をしまう辰さんがうなる。




「重症かもしんねぇ。今日の『アレ』はさすがにこたえたろうなぁ」



「不死川茜ですか?」



「ああ。ふざけた成りだが、実力はあった。負けたのはショックだったろうな」



「負けって......」



「お嬢、ケンカだけは強えからな。自信あったと思うぜ? それが同年代の、しかも女にやられたとなりゃこうもなるさ」



「でもあいつ武器持ってたし! それに......」



 自分を、かばってたし......



「おい、なんて顔してんだ? オレ達の世界は生き残ったもん勝ち。武器やお前のことは勝負には関係ぇねぇ」



「辰の言う通りだ」



 開いた襖。


 いつものアンバンヘアーに戻ったたくみがお盆に乗せていたおにぎりを押し込むように口に頬張って飲み下す。



「たくみ......その、ごめん」



「......そりゃ、なんの謝罪だ?」



「えっ、それは......自分のせいでたくみに迷惑を......」



 身体に走る強い衝撃。


 たくみに、突き飛ばされた。

 


「たくみ?」



「......けんな」



「え?」



「ざけんなっ! 二度とその面オレに見せんなっ! テメェは破門だ!」



 鬼の形相。


 激しく閉まる襖。



 ただただそれを見つめることしかできなかった。



 それから数日間、たくみと話すことはなかった。



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