10.不死川茜




「ふざけた事抜かしてんじゃねぇ! こいつはオレの舎弟だ!」



 弾けるように飛び出たたくみの蹴りが不死川の顔面に襲いかかる。



 が、折り畳まれた傘に阻まれて届かない。




「突然襲いかかるなんて品の無い方ですわね」



「チッ!」



 拳と蹴りの乱舞。


 不死川がそれをまるで踊るように軽やかにかわわす。



「ちょこまかと逃げ回りやがって!」



「逃げるだけではありませんわ」



 躱しながら今度は傘で反撃。


 先端が頬をかすめたのか、たくみの白い頬から一筋、血が滴る。



「おや? 目玉を串刺しにしたと思いましたのに。寸前で身をひねられてしまいました。いい反応速度ですわね」



「ヤロォ......」



 たくみの息が荒い。


 不死川はケロッとしてるのに。



「うーん、このまま遊んでもいいんですけど、目立つのも嫌ですし、仕方ないですわね」



 不死川が指を鳴らす。


 それを合図に茂みから黒いスーツ姿の男達がわらわらと集まってきた。



「お遊びはこれでおしまいよ」



「......勇人。逃げろ」



「えっ!?」



「お前がいると戦いにくいって言ってんだ!」



「でも......」



「無駄な抵抗はやめなさい。この状況、何やっても無駄ですわ」



 不死川の手が上がる。



「全員、2人を拘束しなさい」



「待ちやがれぇえええっ!」



 手が下ろされるのと同時、背後から上がったのは聞き覚えのある声。



「テメェら、この2人に手ェ出すってんなら、このオレ様が相手だ」



「辰さん!」



「......ふぅん。龍鳴会の辰、ねぇ。龍鳴会に逃げ込んだって噂は本当のようですわね」



「で、やんのかい?」



「やめときますわ。今日はあいさつに来ただけ。戦争しに来たわけではないですもの」



 不死川と目が合う。



「今日はこれで失礼しますわ。鹿山かやま君、あなたが相手にしてるのはこういう組織。決してお遊びじゃない」



 温度を感じさせない声が、視線が、身体を芯から震えさせる。




「それをよーく、肝に銘じるておく事。それじゃあまた、近い将来」




 

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