8.会長の願い事 その2
「勇人君がうちに来てもう1週間か。どうだい、不便はないかい?」
「はい。組員の皆さんみんな親切で。ありがとうございます会長」
龍鳴会。会長の部屋。
香ばしい畳の匂いが鼻を抜ける。
物心ついた頃から住んでいたオンボロアパートから必要最低の荷物を持って龍鳴会に転がり込んで早1週間。
退学になると思った学校も会長が学費を全額払ってくれたので、今も普通に通う事ができている。
「困ったら助ける。人として当然の事をしたまでだ。こっちだって毎日美味しい飯を朝夕作ってくれて本当に感謝してる。お互い様ってやつだ」
「ありがとうございます」
「でだ、早速勇人君をここに呼んだ本題なんだが、いいか?」
「はい」
「実はこれなんだ」
着物の袖から出したのは2枚のカード。
「映画のギフトカードですか?」
「そう。うちの者に頼んで手配させた。前に言ったよな? たくにカタギの世界を教えてやって欲しいって」
「はい。覚えてます」
「でよ、明日学校休みだろ? 早速なんだがこいつを上手く使って、たくを映画に連れてってやってくんねぇか?」
「いいですけど、たくみ予定空いてるんですかね?」
「そこは心配せんでいい! その辺りも調査済みだ!」
バシンと叩かれた背中がジンジン痛む。
「たくのやつ、いい年こいて映画も見た事ねぇからよ。世間知らずもいいとこなんだよ」
世間知らず、か。
ある意味、小説や漫画に出てくるお嬢様みたいだ。全然違うけど。
「わかりました。明日、たくみのこと楽しませてきます!」
「おう! 頼んだぞ!」
「お任せ下さい!」
これは、チャンスだ。
あの一件から、たくみには感謝してもしきれない。ここに自分が居れるのもたくみのおかげだし。
明日楽しんでもらえば、少しは恩返しが出来るかもしれない。
ちゃんと下調べして楽しんでもらおう。
笑顔の会長に頭を下げて部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます