4-2.会長の願い事 〜その1〜

「友達ですか?」



「そう友達。あの子は極道の世界しか知らないからあんな夢を語ってしまう。そんなか気がしてね」



「は、はぁ」



「別に特別な事をして欲しい訳じゃない。少しカタギの世界を知って欲しいだけだ」



 会長の大きな手が肩に触れる。


 激しい眼力。気迫の表情。


 てか、掴まれた肩が痛い。



「ま、まあそれぐらいなら......」



「おお! そうかそうか! ありがとう勇人君!」



 上機嫌そうな表情で両肩をバンバン叩かれて痛い。


 あの迫力を跳ね除けて断れる人間がいるなら会ってみたい。いや、やっぱいいや。



「ま、それでもあいつが日本一のヤクザになりたいってんなら、オレも覚悟決めてやる。すまねぇ、初対面でこんな情けない話をしちまって」



「全然情けなくなんてないです。ただ、竜崎さんを満足させる自信はそんな無いですけど」



「構わねぇ! 構わねぇ! やー、よかった! よかった! 断られたらどうしてやろうかと思ったよ。改めて鹿山勇人君、龍鳴会へようこそ。これからいつでも遊びに来てくれ。たくみの友人として」



「よろしくお願いします」



 豪快に笑うおじいさんに一礼して部屋を後にした。



 ーー断られたらどうしてやろうかと思ったよ。



 おじいさんの発した言葉がフラッシュバックして身体が震える。




 忘れかけてた。

 ここはヤクザの総本山。



 あの問いかけーーそもそも自分には『イエス』か『はい』の2択以外に選択肢はなかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る