4-1.会長の願い事 〜その1〜





「すまんね、勇人君。ま、楽にしてくれや」



「は、はい」



 うながされて畳に正座すると、おじいさんもとい、会長が深々と頭を下げた。



「突然舎弟だなんて、孫が大変失礼した!」



「や、そ、そんな謝らないで下さい!」



「門下に入るってのは当然方便ほうべんだ。に受けなくていいからね」



「あっ......よ、よかったぁ......」



 会長の笑顔で緊張が解けて、正していた姿勢が崩れる。



「ははっ。その様子、本気で心配してたようだね。君には悪いことをした。変なことに巻き込んでしまって申し訳ない」



「まあ、びっくりはしましたけど、竜崎さん、本気なんだなって思いましたし、別にそんな悪い気はしてないです」



「そうか。よかった。たくは良い友達に出会えたようだ」



「良いだなんてそんな......」



「あの子には本当に申し訳ないことをしていると思ってるんだ。家もこんなんだから、今まで友達1人出来なくてね。息子夫婦がいれば不便な想いをさせずに済んだのかもしれんがね」



 天をあおいで大きなため息を付く会長に、胸がチクリと痛む。



「日本一のヤクザになるって夢、本当は反対なんだ。わかるだろう?」



 会長の問いかけに首を縦に振る。



「この世界はたくみが思っている以上に厳しい。女ってことを理由に遠ざけようとしたら、今度は男になるって聞かなくてね。本当、親に似て、一度そう思ったら意地でも意見曲げねぇのよ」



 会長は竜崎さんのこと、本当に大切に思ってるんだろうな。この顔を見れば誰でもわかる。



「勇人君、君にお願いがある。この際、面倒事ついでに聞いてくれないだろうか?」



「は、はい!」



「たくの舎弟と言うより、友達になってやってくれないだろうか?」




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