3-2.龍鳴会会長





「バカヤロォ! 辰! これ以上オレに恥の上塗りすんじゃねぇ!」



「す、すんませんお頭ぁ!」



「もういい! お前はここから出ていけ!」



「へい! すんませんでした!」



 頭を下げた辰さんは逃げるように部屋を後にした。



「ふー。やれやれ。本当にすまんね勇人君」



 ため息を付きながらゆったりと立ち上がったおじいさんが畳に刺さった刀を引っこ抜いてさやに収める。



「その様子だと、勇人君はたくの正体がわかってるってことかな?」



「......おー......」



 自分の代わりに答えたのはそっぽを向いた竜崎さんだ。



 わかりやすい、ふて腐れた横顔。


 おじいさんのため息がさっきから止まらない。



「だから言ったろ。男っていつわって通学するのは無理だって。今からでも遅くねぇ。素直に女として学校にーー」



「嫌だ!」



「おい、たく......」



「嫌だ嫌だ嫌だ! オレは男として生きるって決めたんだ! 日本一のヤクザになるんだっ!」



「.........なんで男にこだわる?」



「オレだってバカじゃねぇ。女で極道やってくのは難しいってわかってる!」



「でもよぉ......」



「頼むよじいちゃん! もうちょっとだけ男として学校に通わせてくれ!」




 日本一のヤクザ。




 言ってることは無茶苦茶だけど、なんだろ。胸が騒つく。



 真剣な声と表情。



 竜崎さんは本気で叶えようとしている。


 それがわかる。なんていうか、美しいと感じてしまった。



「.........くそ、わぁったよ。だが勇人君にバレちまった分はどうすんだ?」



「こいつはオレの舎弟にして管理する」



 竜崎さんの夢を応援したい......って、



 えっ、今なんて?



「だから大丈夫だよじいちゃん! 絶対口割らせねぇから! おい勇人! テメェ、もしバラしたらわかってるよな?」



「わ、わかってるというと......」



「海に沈める」



 目がマジ過ぎて怖い。



「わかった。お前の好きにしな。一度言い出したら聞きやしねぇ。そうだ。最後にちょいと勇太くんと二人っきりにしてくれねぇか?」



「へ? 自分ですか?」



「たくの舎弟、つまりうちの門下に入るんだ。会長のオレが話すってのが筋ってもんだろ?」



 笑うおじいさん。


 ヤクザの会長の孫娘の舎弟。


 門下に、入る。


 ......えーっと。整理すると、自分、ヤクザになっちゃった、のかな?



「......あはっ、あはは.........」

 

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