2-2.竜崎たくみの秘密

 

 

 家に帰りたい。



 心の底からそう思ったのは何年振りだろう。



「ここだ。入れ」



「......え?」



 嘘、だよね?



 ここに来て今日1番の膝の震え。


 立っているのがやっとだ。心臓の鼓動が早過ぎて痛いし、緊張で吐きそう。



 ここに、入れ? 冗談だろ。



「竜崎君、本当にここに入るの?」



「おう。早くしろ」



 日本風の家屋。重厚感のある屋根付きの馬鹿でかい門。


 その重厚な門の横に立て付けた表札には『龍鳴会りゅうめいかい』の三文字。


 ここは、この辺りのヤクザを取り仕切っている事で有名な本部だ。



「おい、何やってる? 早く入れ」



「へ、い、いや......こんなとこ入ったらタダじゃーー」



「グズグズすんなっ!」



 怒声と共に竜崎君に背中を蹴られた身体は、膝が笑ってる事もあってか、フラフラと龍鳴会の門の中へと吸い込まれていく。



「ひっ......!?」



 瞬間、息が止まった。



 門をくぐった先にいたのは屈強なスーツ姿の男が十数人。


 

 膝に手をついて自分と竜崎君を睨んで出迎えたのだ。



『お帰んなさいまし! お嬢!』


 

「お嬢?」



「テメェバカヤロォ! よく周り見やがれぇ! ご友人いるだろうがぁ!」



「す、すんません! 若頭!」



 顔面に無数の傷を持った周りの方々よりも人一倍イカつい方が、動けず固まる自分に近づいてくる。



「さて。あんた、お嬢のご友人かい?」



 手には木刀。


 タバコの匂いが感じられる程の超至近距離。



「運が悪かったな。お嬢の夢のためだ。あんたには申し訳ないが、消えてもらう」



 掴まれた胸倉。振り上げられる木刀。


 もう、助からない。


 覚悟を決めて目を固く閉じる。



「待て。たつ、お前は下がってろ」


 

「......へい」



 竜崎君に辰と呼ばれた強面のお兄さんが、舌打ちを1つ残して胸倉を離した。



「鹿山」


「は、はいっ!」



 振り向いた先にいた竜崎くんと目が合う。



「そういえばさっきのお前の質問に答えてなかったな」



 心なしか目が潤み、顔が赤いように見える。



「そうだ。お前の言う通り、オレは、女だっ!」

 


 改めて辺りを見渡してみる。



 龍鳴会。屈強な男達。瞳を潤ませる竜崎君もとい、お嬢こと竜崎さん。



 雰囲気から察するに竜崎さんは龍鳴会の関係者で、自分はそんな竜崎さんの『アレ』を事故とはいえ揉みしだいてしまった、と。



 ......うん、ダメだ。どう考えても死んだな、自分。

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