第31話 名もなき小さな恋のうた



 その日の早朝、魔王城の正門前で守衛をしていたガーゴイルは、槍を片手に欠伸を噛み殺しながら直立していた。

 今日もどんよりとした雲が広がり、その隙間を縫うように朝日の光が僅かながらに零れている。まだ早朝だからか、吐く息が微かに白く、少しだけ肌寒い。ここら一帯は比較的温暖な気候なのだが、朝や夜になると昼とは打って変わって気温が下がり、こうして冷気が増すのだ。

 もっとも、自分は悪魔を模した石像に過ぎないので、凍死の心配をする必要は微塵もありはしない。石像の魔族なのに、なんで寒気や眠気まであるのだという話でもあるが。しかも朝に弱いという意味不明なオマケ付きだ。

 そのせいもあってか、一向に目が覚めた気がしない。太陽の光を浴びれば少しは違うのだろうが、如何せん陽当たりは悪く、まだ空に昇り始めた淡い橙色の光では、覚醒を促すには心許なかった。

「今日も一日、何にもなく終わりそうだなぁ」

 ぼんやりとした頭で、そんな事を呟く。

 こうして守衛こそ任されてはいるが、不審者がやって来る事なんて滅多にない。大体はその前のホーフの森で待ち構えているライガー隊長率いる部隊に追い返されるか、森の中で迷って野垂れ死ぬのが殆どだからだ。

 最近だと、とある風変わりな勇者が単身で魔王城に乗り込んで来た事がちょくちょくあったが、あれは例外中の例外だ。魔王様ほどにないにせよ、あんなデタラメな奴(しかも、やたらすばしっこい)に敵う気なんてしない。命があるだけ御の字だ。

 そんなわけで、きっと今日も景色を眺めるだけで一日が終わってしまうのだろう──そんな風に高を括っていた。

「おーい。交代の時間に来たぜ~」

 もう何度目になるか分からない欠伸をしていると、遠くの方からガーゴイルを呼ぶ声が聞こえてきた。

 見ると声の主はゴブリンで、今日も顔色が窺えない全身の緑色の肌に、とんがった耳と窪んだ瞳をしていた。相変わらず、見た目では誰だか判断できない様相だ(自分が言えた台詞ではないが)。

 いつもなら城内からやって来るはずなのに、何故だか今回は外側から声を掛けてきた事に訝しみながらも、まあ多分見回りでもしていたのだろうと勝手に当たりを付けて「よお。今日はやけに早いんだな」と、こちらの方へと歩むゴブリンにそう言葉を返した。

「たまには早く交代するのも良いかと思ってさ」

「お前がそれでいいのなら、俺は一向に構わねぇけどな。寒いし」

 寒さでブルっと身震いしつつ、「じゃあ、後はよろしく~」と城内に向かおうとして──



 ふと、とある違和感に気づいた。



「なあ、お前のその剣──そんな高価そうな物、いつ支給されたんだ?」

 ゴブリンが腰に携えていた剣──それは兵士達に与えられている支給品とは違い、宝石や何かの紋章かと思われる装飾が鞘や柄といった部分に施されていた。

 階級の高い者ならまだしも、ただの兵士が持つにしては分不相応な代物に思えてならない。少なくとも、ゴブリンがあんな剣を持ち歩いているのを見たのは、これが初めてだ。

「いや、なに──」

 と。

 ガーゴイルがしかめ面をしている間に、それまでゆっくり歩を進めていたゴブリンが途端に小走りになり、一気に距離を狭めてきた。

 突然の肉薄にワケが分からず呆気に取られているガーゴイルに、ゴブリンは素早く鞘から剣を抜き取り、頭上高く振り上げた。



「すぐに、気にならなくなるさ」



 まるで着ぐるみでも剥ぎ取ったかのように、ゴブリンの姿が一瞬にして別の者へと移り変わる。

 そうして、最期にガーゴイルが目にしたものは──



 ゴブリンとは似ても似つかぬ──金色の髪に蒼い瞳をした、人間の男の姿だった。



 ◇◆◇◆◇



 そよ風が吹き、草花が揺れる。近くに蒲公英たんぽぽでもあるのか、白い綿毛と共に小さな種子が風に乗って一斉に舞い上がっていた。きっとあの種がどこかの土地で花を咲かせ、また綿毛を飛ばして子孫を増やしていくのだろう。

 そんな穏やかな情景とは裏腹に、カケルの心はさながら曇天の如く、まるで晴れてなどいなかった。

 だが、それもむべなるかな。

 何故ならば、今日は──



「今日でとうとう勇者さんともお別れデスね」



 と。

 そんな何気ない──しかしながら注意深く聞いてみると、どことなく沈んだ口調で声を掛けてきたミランに、カケルも感化されたように「そう、だな」と覇気のない声で返した。

 魔王城の裏門(普段は魔法によって隠されている)──正確にはその外側の更地にて、カケルとミランは互いに視線を合わさないまま、二人で静々と話し込んでいた。

 その他に人影──もとい魔族がいる様子はない。それも当然の話で、敵であるカケルが魔王城の──それもミランと共にいる所を他の者に見られた日には、きっと魔族達の手によって血祭りに上げられる事だろう。

 まあ、カケルなら無事に逃げおおせる自信があるが、ミランはそうもいかない。だからこそ、魔族の目を忍んでこうして裏門に出て話をしているのである。

 いや、話し込むほど長話しはしていないか。そもそも此処にはまだ来たばかりだし、話なら昨日で全て語り尽くしたつもりだ。今更ながら、悩みや愚痴を零す気にはならない。

 それ以前に、未だ迷いを断ち切れてなどいないのだから……。

「まだ、決心は付いていませんカ?」

 カケルの心中を察してか、そんな気遣うかのような口調で訊ねるミラン。その問いに対しカケルは、

「そんな簡単に付くかよ……」

 と苦心に満ちた顔で返す。

「今だってまだ、これで本当に良かったのかって自問自答を繰り返しているのに……」

 ギュッとミランから餞別として貰った剣(魔族兵がよく所持しているありふれた剣だ)の柄を握りしめ、カケルは表情を隠すように目線を伏せた。

 そうして、暫しの沈黙。ミランからの返事を待ってみるも、一瞬だけ気遣うかのような視線をこちらに向けた程度で、口を開く事はなかった。

 実際、掛ける言葉が見つからなかったのだろう──カケルとて似た立場の人を前にしたら、はっきり言って困惑するしかないと思う。むしろヘタレと罵られても何も反論できない側だ。

 ミランがそれを口にしないのはひとえにルトの想いを知っているからであり──そしてカケルの心境をおもんぱかってくれているからに他ならない。昨日の話を聞く限り、だいぶ無力感を抱いていたようだし、ミランもミランで複雑な所なのだろう。

 いつまでそうしていたのだろう──気が付けば、頭上を飛び交っていた小鳥達が、門の上で横一列に並びながらさえずっていた。道理で小鳥達の鳴き声がよく聞こえていたワケだ。

 まだ陽も昇ったばかりの時間帯なせいか、魔族達が目覚める気配はない。守衛や食事係などは起きているかもしれないが、大半の魔族は寝床に付いたままだろう。もしくは、そろそろ起きて各仕事に出始める頃か。どちらにせよ、騒がしくなる前になるべく早く此処を発たねば。

「それにしても、遅いなアイツ……」

 出発前に準備した荷物を背負い直して、チラッと後方を気にするカケル。野鳥や虫の鳴き声が響くだけで、誰かが訪れる気配は以前として無い。いつ他の魔族に遭遇するとも限らないので警戒しているという理由もあるが、決してそれだけではない。

 カケルは人──正確に言うと魔族なのだが──を待っているのだ。

 最強の魔王にして、初めてこんな自分に対して恋心を抱いてくれた少女。



 ルト。



 今となっては、カケルの中で大きな存在になりつつあるそ彼女を──ずっとこうして待っているのだ。

 一応、出発する時間帯は伝えてあるので行き違いになるような事は無いと思うが、いつまでも此処に留まっているわけにもいかないので、なるだけ早く来てもらいたいものだ。もっとも、身だしなみの準備とかで遅れるそうなので、もう少しばかり時間が掛かるかもしれないが。

「女の子の準備というものは、総じて手間暇が掛かるものなんデスよ」

 それを待つのも、男の甲斐性というものデスよ勇者さん。

 言って、ミランは少し呆れたように溜息を漏らした。小さく呟いたつもりだが、耳聡く聞かれていたらしい。この地獄耳め。

「いや、分かるよ。オレも母さんや姉ちゃんによく待たされていたからさ。でも手持ち無沙汰っていうか、何かしていないと落ち着かないんだよなあ」

「ああ、それなら飴でも食べまス?」

 飴? と聞き返すカケルに、ミランは無言でポケットから小瓶を取り出した。

 その中には、色とりどりの飴玉が所狭しと入っていた。赤や青というポピュラーなものから、銀や虹という珍しい色まである。大体の味は色で予想が付きそうだが、ここは無難な色を選んで味を確認したい所だ。

 それはそうと。

「なあ、おい。これってまた前みたいにSAN値が下がるようなヤバい物じゃなかろうな?」

「いやいや、普通の飴デスよ。なんの変哲もない、文字通りただの飴デス」

「じゃあ商品名を言ってみろよ」

「不思議な飴デス」

「は?」

「だから、不思議な飴デス」

「……………………試しに、食べるとどうなるか言ってみろよ」

「食べるとレベルが1ランクだけ上がったり、幼女からキューティーでハニーな女性へと変身できたりしまス」

「不思議を通り越して、もはや不気味でしかねぇわ!」

 一体何のレベルが上がるのか、そもそも男であるカケルがどうやって大人の女性に変われるというのか──色々と疑問が尽きない効能だった。

 ていうか、やっぱり変哲あったんじゃねぇか。

「いいよ。やめておく。このまま普通に待ってるよ」

「そうデスか。魔法マジカルバナナという食べ物もあったんデスが」

「どうしてそうお前はそうオレに妙な物を食わせたがるんだ」

 ひょっとしてコイツ、単なるウケ狙いで適当な事を吐かしているんじゃなかろうか。元が芸人気質なだけに、ありえない話ではなかった。

 あるいは、ミランなりに陰鬱としているカケルを励まそうとしてくれたのだろうか。

 などと、いまいち真意が図れないミランにもやもやしていると──



「カケル」



 ──そんな囁きにも近い声が、風に乗ってカケルの耳朶に届いた。

 もはや忘れようもない──忘れられるはずもない、今となっては片時も頭から離れられない少女の姿。瞬時にその顔が浮かび、カケルはすぐさま背後を振り返った。

「魔────」

 王、と言おうとして、カケルはそのまま言葉を呑み込んだ。



 そこには見目麗しい少女が──普段よりも一層美しく見えるルトが、目の前に立っていたのだ。




「すまない。少し遅れてしまった」

 言って、靡く黒髪を手で抑えながら微苦笑するルト。その顔にはいつもならしない化粧が薄っすらと施されており、元から整った顔立ちが一層綺麗に見える。服は清楚な外見に合う白いワンピースを着ており、様々な花が色鮮やかに刺繍されていた。

 ふと足元に目を向けると、ワンピースに合わせたかのような白いパンプスを履いており、あまり履き慣れていないのだろう──少々覚束ない足取りでこちらへと向かってきていた。

 その姿は、いつかの日に見た夢の姿そのままで。

 一言も発する事すら出来ないまま、カケルは茫然とした面持ちでルトに見惚れていた。

「ようやく来ましたかルト様。まあでも、とても似合っていますヨ」

「う、うむ。これもミランが私に着飾り方を教えてくれたおかげだ。本当にありがとう」

「いえいえ。これくらいお安い御用デス」

「だが、このパンプスというものはどうにも履き心地が良くないな。つまづいてしまいそうだ」

 つんつん。

 とその時、不意にミランから肘で小突かれた。そこでカケルはハッと我に返り、ミランへと視線を向ける。

 見ると、何故かミランは物言いたげに目を眇めてこちらを凝視していた。というより、いっそ睨んでいると表現した方が正しいのかもしれない。何か気に障るような事でもしただろうか?

 意図が読めず、はてなと眉をひそめているカケルに業を煮やしたのか、ミランはこれ見よがしに溜息を漏らした後、こう耳元で囁いた。

「いつまでボーッとしているんデスか勇者さん。ルト様に何か言う事があるでしょウ?」

 ミランの言葉に、うっと声を詰まらせるカケル。

 ミランの言わんとしている事がようやく分かった。

 とどのつまり、彼女はこう言いたいわけだ。

 こうしてわざわざよそおってくれたルトに、何か褒める言葉は無いのかと。

 しかし、何と言って褒めたら良いのだ。今までろくに女性経験を積んでこなかったカケルには、かなり難題な要求だった。

 いっそこのまま笑って誤魔化してやろうかと思ったが、さすがにそれは不誠実な気がした。おそらくはカケルの為にここまで着飾ってくれた彼女に、何かしら言葉を掛けるべきではないだろうか。現にルトも、何かを期待するようにもじもじと上目遣いでこちらを見つめているし。

 どうしよう。雰囲気的にも絶対褒めなきゃいけない感じだ。いや、カケルとしても褒めるのはやぶさかではないが、とは言え日本男児たるもの軽々しく女性を褒めるべきではないと『いい加減はよ言えヤ』こりゃあかん。ついにミランが視線だけで殺意の波動を放ってきた。次には直接脳内に呪詛を吹き込みかねない。

 こうなったら、勢いで何とかするしかない。少し──いや、相当気恥ずかしいものがあるが、そこはぐっと我慢の子。男を見せるのだ、勇者カケル。



「まあ、なんつーか、その…………かかか、可愛い、よ?」



 少々どもってしまったが、どうにか言葉に出来た。あまりの恥ずかしさに体中が火照って蒸発しそうだ。

 対するルトはと言うと、

「しょ、しょうか…………」

 思いっきり噛んでいた。

 というか、カケル以上に全身を真っ赤にして俯いていた。

 何なんだ、この可愛い過ぎる生き物は。力の限り抱きしめてやりたい。

「で、でも急にどうしたんだ? そんな格好してまで」

「だって、これが最後だから……」

 照れ隠しであさっての方向に目線をやりながら問うたカケルに、ルトはぎゅっとワンピースの裾を掴んで、細々しく言葉を紡ぐ。



「カケルと会うのはきっともうこれが最後だから、せめてカケルに今まで一番綺麗な私を見てほしかったんだ」



「魔王……」

 ルトは。

 一体何を思いながら、この日が来るのを待っていたのだろう。

 カケルが考えているよりずっとずっと──それこそ時に涙で頬を濡らすような日々を過ごしていたのではないだろうか。

 どちらにせよ、こちらの想像以上に悲しんでいたに違いない。



 だってこんなにも──こんなにも、寂しげな表情をしているのだから。



「……ごめん」

 それしか言えなかった。

 今のルトを前に、激励するでもなく慰めるでもなく、ただ謝る事しかできなかった。

「カケルは何も悪くない」

 程なくして、ルトは首を緩く横に振りながら、そう優しげに答えた。

 自分の感情を悟られまいと、気丈にも必死に笑みを作りながら。

「前にも話したろう? カケルは何も悪くないって。だからカケルは、私達の事は忘れて元気に過ごしてくれ。それが私の、何よりの願いだから」

 私なら、大丈夫だから──。

 言って、ルトはカケルの両手を取って微笑んだ。

 その笑顔は、やはりどこか無理をしているようにしか見えなくて。

 握られたその手は、小刻みに震えていて。

 全然、大丈夫には見えなくて。

 このまま別れる事なんて、カケルにはできなかった。

「魔王。や、やっぱりオレ──」

 と。

 もうしばらく、此処に残る──そう口にしようとした瞬間。



 熱く柔らかな感触が、不意にカケルの唇に押し当てられた。



「──────────」

 それがルトからのキスだと気付くのに、そう時間は掛からなかった。

 だがカケルの頭の中は、何も描かれていないキャンバスのように真っ白だった。

 すぐ目の前には、ルトの綺麗な顔が迫っていて。

 少しでも身長差を埋めようと必死に背伸びをしているルトがいて。

 もう何度も交わした口付けのはずなのに、重ねられた唇が灼けるように熱くて。



 まるでそれが今生の別れだと言わんばかりの──とても情熱的なキスだった。



 ややあって、愛おしそうに──そして名残り惜しそうに暫しカケルの頬に手を添えた後、ルトはゆっくり数歩だけ離れた。

 所謂デジャヴというやつだろう。こんな光景を、いつかどこかで見た事があるような気がした。

 そうだ。この後ルトは、こんな今にも泣きそうな──見ているだけで胸が締め付けられる痛切な笑みで、こう告げるのだ。



「バイバイ。カケル──……」



「ル────」

 と。

 その濡れた瞳で見つめられて、久方ぶりにルトの名前を呼びかけた──そんな時だった。



 爆音。



 耳をつんざくような爆音が、突如として魔王城から響き渡った。

「な、なんだ今の!?」

 驚愕と共に、音の出処へと視線を向ける。

 そこは魔王城の上階──高さにして十階辺りだろうか。何かが爆発したかのように城壁が吹き飛ばされており、そこから黒煙が濛々と上がっていた。

「あの爆発は……ひょっとして侵入者のものでしょうカ?」

 パラパラと舞い散る城壁の埃から白衣の袖で口元を塞ぎながら、珍しく目を白黒させて言葉を発するミラン。同様に、カケルも息を呑んで空へと昇っていく煙を見つめていた。

 これが侵入者の仕業だとしたら、一体いつの間に城内へと忍び込んでいたのだろう。いやそもそも、何故爆発が起こる前に兵士達が騒ぎ立てなかったのだろう。カケルが突入した時は、あんなにもぞろぞろ魔族達が湧いて出てきたと言うのに。

「──────っ!」

 茫然と破壊された城壁を見上げているミランとカケルとは対象的に、ルトの反応は迅速なものだった。

 爆音が響いた当初は、カケルやミランと同じく驚愕に瞬いていたが、すぐさま顔相を険しくして、目を見張る速さで駆け出したのだ。

「あ、おい魔王!?」

 突然疾走した魔王を呼び止めようとして──いきなり肩を掴まれた。

「いけませんよ勇者さん」

 肩を掴んだのはミランだった。そのまま指に力を込め、射抜くような鋭い眼光でカケルを睨みつけながら、ミランは先を続ける。

「アナタはもうこちら側に関与してはならない身──これ以上、ルト様に負担をお掛けになるつもりデスか?」

「でも……!」

「でもじゃありませン。ここでアナタが突っ込んだら、何の為にルト様はアナタを庇った事になるんデスか」

 ──あの騒動の渦中には、アナタと同じニンゲンが関与しているのかもしれないんデスよ。

 ミランの厳しい口調に、歯噛みして言葉を詰まらせるカケル。

 ミランの言う通りだ。ひょっとしなくても、人間──それも勇者が来ている可能性が高い。

 そうなった場合、きっとカケルは戦えない──同じ人間に刃を向けるなんて自分には無理だ。そんな心構えで行った所で、ルトの足手まといにしかなりそうにない。



 結局自分には、何も出来る事はないのだろうか……?



「勇者さんは早く此処から離れてくださイ。ルト様のそばには、ワタシが付いていますから」

 それだけ言い残して、ルトを追うように城内へと向かうミラン。

 その背中を、カケルはただ黙って見送る事しかできなかった。

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