第24話 幼年期が終わり、最期の審判が始まる
「り、利益って……」
「あら、そんなに意外な事かしら? 戦争なんて大抵利益を求めてするものよ。それこそ、どれだけの死人が出ようともね」
瞠目するカケルに対し、フレイヤは実にあっさりとした口調で言葉を紡いでいく。まるで心底くだらない事実を唾棄するかのように。
確かにフレイヤの
しかしながらこの世界での戦争──魔族と人間の争いに関しては、そういった欲にまみれた事情とは無縁だと思っていたのだ。
それは、今まで出逢ってきた人達が皆一様にして魔族こそ全ての元凶であると口をそろえていたせいもあって、そこに浅ましい欲望などありはしないと思い込んでいたせいでもあるのだが。
けど、実際はどうだ。いざ蓋を開けてみれば、元いた世界の戦争と何も変わらない──否。それどころか、自分でさえ都合良く利用されていた立場にあったときたものだ。これを滑稽と言わずとして何と呼ぶと言うのか。
「どう? 少しは自分のとりまく状況が把握できたかしら?」
「っ…………」
フレイヤの嘲笑を含んだ問いについ口が出そうになってしまったが、カケルはぐっと言葉を呑み込んで堪えた。
ここで感情的に反論したところで、事態は何も変わりはしない。それよりも、今はほんの少しでも情報を得るのが先決だ。無知なカケルと違って、この場の主導権を握っているフレイヤの方が、ずっと先を見据えているのだろうから──
「……ひとまず、この戦争が単なる憎悪などで続いているというわけではないという事だけは分かりました」
と、そこで気持ちを落ち着ける為に深く息を吐いた後、じっとフレイヤを直視してカケルは続ける。
「でも、魔王城を攻める事に何のメリットがあると言うんですか? 日照りもあまり無いし、
「確かにここらは年中薄雲が張ってるから、農業面では苦労を強いられるでしょうけれど、だからと言って全く育たないというわけでもないし、瘴気にしたって、精々が多少気分が悪くなるという程度でしかないと思うわよ」
現に、ここから離れた一部の地域には、人間の住む集落がいくつかあるくらいだし、とフレイヤ。
「もっとも、食糧事情に関しては魔法の応用で飢える事のないだけの生産方法をあたし達は確立しているし、瘴気にしても、魔族にしてみれば元から耐性があるから気にもならないのよね。ようするに、こちら側にしてみれば何も問題ないという事になるのよ」
「いや、そちらにしたら憂慮するほどの事でもないかもしれませんけど、オレ達人間にとっては住みたいと思えるような環境じゃないですよ」
「カケル君が言いたいのは、つまり領地にするにしては悪条件ではないかという事なんでしょう?」
「ええ、まあ……」
「だったら領地だけじゃなく、それ以外にも目的があるとしたら?」
言っている意味が理解できず、首を傾げるカケルに、しかしながらフレイヤは構う事なく言葉を畳み掛ける。
「この土地そのものでなく、そこに眠る鉱石に興味があるのだとしたら?」
「鉱石……?」
フレイヤの言葉を反復して呟きながら、眉をひそめて考え込むカケル。
この地に眠る鉱石。ここにそんな値打ちのする物などあっただろうか。今まで魔王城一帯には何度も足を運んだ事があるが、そんな話は全く聞いた事が無い。ただ単に目や耳に入ってこなかっただけで、実際はどこかで掘り起こされたり活用されていたのかもしれないが。
「鉱石……ですか。でもそれって、そんなに値打ちのする物なんですか? オリハルコンとかミスリルみたいな」
「いえ、そんな伝説級の代物じゃないわよ。ただこっちじゃ稀にしか見つけられないし、まして人間達のいる大陸じゃあ滅多に発掘できないしょうね。だからこそ、アイツらもそれが目当てでこっちに人を送ってるんでしょうけど」
「そこまでするだけの価値がその鉱石に……。それって一体──」
「グリーンリバーライト──という名の鉱石よ」
クールな声で「ド阿保」と罵られそうな名称だった。
「……グ、グリーンリバーライトっすか?」
「そう。グリーンリバーライト。向こうじゃ宝剣なんかで使われているみたいだけど、中でも黄金の射手座と呼ばれる匠が生み出した作品、『
何故だろう。本人は至って真面目な口調なのに、それ絶対ギャグだろと突っ込みたくなるのは(というか、黄金の射手座って何だ)。
「ちなみにその作品には逸話があるみたいでね、何でも『セイヤッ!』と何度も気合いを注入しながらその剣を打ったそうよ」
「あのー、その辺の下りはもういいので、話を先に進めませんか?」
これ以上グリリバ(長いので省略)繋がりの話をしたところで、何かを得られるとは思えないし。シリアス仕事しろや。
「あら、ごめんなさい。うっかり脱線してしまったわ。あたし、剣には少々うるさいところがあるのよ。体が剣で出来てるんじゃないかってぐらいに」
「はあ……。いやそれよりさっきの話を聞いてふと思ったんですけど、そんなに人間側がその鉱石を欲しているなら、いっそあげちゃえば侵略されずに済むんじゃないですか?」
「バカね。そんな事してごらんなさいな。奴らどんどん付け上がって、どんな厚かましい事を言うか分かったもんじゃないわよ」
「だったらせめて、交渉材料に……」
「力づくで奪おうとしている連中に、そんな話に応じると思う?」
「…………」
応じるとは──とてもじゃないけど思えなかった。
「それに狙っているのは何も鉱石だけってわけじゃないわよ」
「鉱石だけじゃあ、ない?」
思わず驚いてフレイヤの言葉を繰り返すカケル。
鉱石以外の価値ある物なんて、一体どこに──
「あるじゃない。目の前に」
カケルの心中をまたあっさりと見抜いたフレイヤが、射抜くような瞳と酷薄な笑みをこちらに向けて、意味の分からない事を呟く。
目の前と言われても、視界に映るのは豪奢な玉座に腰掛けているグラマーな銀髪美女ぐらいしか……。
「分からない? あるじゃないの。鉱石のような手探りで見つけなきゃいけないものじゃなくて──」
そこまで言って。
フレイヤはスッと自分を指差し。
「あたし達魔族という、すぐにお金に変えられる格好の獲物がね」
「なっ────!?」
驚愕のあまり、声もまともに上げられずにいるカケルに、
「あらあら。よっぽど予想外だったみたいねー。ちょっと考えればすぐ分かりそうな事なのに」
と、チェシャ猫じみた卑しい笑みを浮かべて、フレイヤは言う。
「そこまで驚くような事じゃないと思うわよ。だって伝説の英雄とやらも、昔そこらにいた魔族達を狩って得た財産で、潰れかけた国々を再建していったって言うじゃない。今でもそれを真似て生計を立てているハンターもたくさんいるみたいだし」
確かに、それは英雄譚としても数多くの人に語り継がれているし、魔物を狩って生活しているハンターにも実際に会った事がある。
しかし、あくまでもそれは個人レベルの話で、国が総出を上げて魔族を狩ろうとしているだなんて考えもしなかったのだ。
それも、こんな
「で、でもそれならわざわざこんな遠方まで足を運ばなくても、獣型の魔物なら人間の大陸にもうじゃうじゃ生息しているし、それを狩れば済むはずじゃあせ」
「魔族だからこそ、でしょ。伝説の英雄様のせいで昔に比べて数も少なくなってしまってるし、それだけ稀少価値が高まってきているのよ。反面、ここじゃあ魔族が集中していて選り取り見取りだし、多少命も張らなきゃいけないリスクもあるけれど、何でも中には強力な武器の材料にもなる物もあるみたいだし、それなりのお金になるらしいわ。というより──」
フッ、とフレイヤは不意に乾いた笑みを零し、
「カケル君なら、こんな説明する必要もなかったかもしれないわね。この魔王城まで来られるほどの資金を持っていた、勇者である君ならね」
「──────っっ」
フレイヤが言わんとしている事を察して、カケルは苦虫を噛み潰したような苦々しい顔で押し黙った。
フレイヤはこう言いたいのだ。『お前も魔族を殺して金を得た事があるのだろう?』と──。
事実か否かで言えば、事実だ。まだこの大陸に来てからは一度もないが、
だが一つ弁明をさせてもらえば、魔族だけは人に危害を与えていた者だけを狙っていたし、それにあくまで捕まえた魔族を村や国の役所まで連れて行っただけで、直接手を下した事はほとんど無いのだ。
それは何故かと問われれば、自分と似たような姿をした者を斬るのに躊躇うものがあったせいもあるのだが、さりとて、役所まで届けたのも金の為にやった事には変わらないし、私欲で魔族を斬った事が無いと言えば、それはそれで嘘になる。
詰まる所、フレイヤにしてみれば自分は他の人間達と何も変わらないように映って見えるのだろう。
そしてそれは、どう言い繕っても弁明できない事実だった。
「無論」
と。
黙したままのカケルにそのまま言い聞かせるように、フレイヤは流暢に口を開く。
「鉱石にしても魔族云々にしても、あたし達の戦争に勝てたらの話で、今すぐどうこうしようと思っているわけじゃあないでしょうけどね。なんせ今のアイツら、それどころじゃあない状態みたいだし」
「……人間同士の争い、ですか?」
カケルの返しに「あら。今回は妙に察しが良いわね」とフレイヤにしては珍しく驚いたように眉を上げ、
「そう。カケル君の言う通り、向こうじゃ国同士であちこち諍いが起きているようなのよねー。スパイに送らせた子から聞いた話じゃあ、既に戦争状態に入っている所も多いみたいだし」
バカよねー。散々あたし達を目の敵にしておきながら、自分達は同族で争っているんだから。
そう可笑しそうに口角を吊りあげるフレイヤに、カケルは何も返答できずに立ち尽くすしかなかった。
人間の──あらゆる国で不穏な空気が漂っている事は、実はカケルも魔王城へと到る道中で、旅人や村人達から嫌というほど耳に入ってきてはいた。中には、旅の途中にとある二つの国が大規模な戦闘を行っている場面を、実際に遠目から見た事すらあるくらいである。
その度にカケルは「魔王が世界を征服するかもしれないって時に、何やってんだか」と心底呆れた事を、今でも鮮明に覚えている。
故に、カケルはフレイヤの言葉に何も答える事が出来なかった。
だってそれは、同じ人間であるはずのカケルでさえ思わず頷いてしまいかねない、どうしたって同意せずにはいられない意見だったのだから……。
「ずっと不思議に思っていたんです。全ての国が手を取り合って魔王城を攻めれば、いくら無敵と言われている奴らでもどうにか出来たんじゃないかって。それはしなかったのは単に国同士の折り合いが悪いせいだと思い込んでいましたが、まさかさっき話に上がっていた利権絡みが原因だったりするんですか?」
「さあね。カケル君の言う通り、元々いがみ合っていただけかもしれないし、この辺り一帯を手にした時の取り分で揉めたのかもしれない。人間達が何がきっかけで戦争したかは分からないけれど、あたし達魔族は一切無関係という事は、おそらく無いでしょうね」
「……………………」
カケルは。
何も言葉を返せずに、ただ悲痛な表情で俯くしか出来なかった。
結局のところ、この戦いに正義だなんて崇高な理由なんて、皆無だったのだ。
あるのは、歪んだ欲望だけ。
どれだけ年月を得ようとも──例え世界が違ったとしても、変わらない業という名の負の連鎖。
本当に、こう痛感せずにはいられない。
自分達は、一体何の為に戦っていたのだろうと──
「何でみんな、互いに歩み寄る事が出来ないんだ。もっと話し合えさえすれば、今からでも戦争を止められるかもしれないのに……!」
「そんな叶いもしない理想を抱くのはよしなさい。でないと自分はおろか、周りをも巻き込んで溺れ死ぬ事になるわよ」
歯を剥いて言葉を発するカケルに、フレイヤがぴしゃりと諌める。
「そりゃあ、話し合いで済むならそれに越した事はないのでしょうけど、話し合いで解決できた戦争なんてそうそう無いわよ。殆どの場合、どちらかが続行不可能になるまで終わらないものだし、終わりを迎えたその先でも、多かれ少なかれ遺恨を残してしまうものなんだから」
だいたい──
とフレイヤはそこで一拍置き、冷え切った視線をカケルに送りながら続ける。
「戦争を自ら進んでやろうとしている国が、他人の言葉をまともに聞き入れるとでも本気で思っているの? そういう奴らはね、大概『全はオレ、一は世界』とでも思い込んでいる連中ばかりよ。自分達の為なら、世界なんて二の次にできちゃうような人間ばかりなのよ。そんな奴らに、平和的解決を望む余地なんて、一体どれだけあるものなのかしらね」
少なくとも、あたしには皆無としか思えないわ。
一切の配慮も遠慮なく、そう断言するフレイヤに、カケルは終始口を閉ざすしかなかった。
自分だって、所詮は理想論でしかないとは分かっているつもりだ。聞けばカケルがこの世界に招かれるずっと以前から、既に戦争をやっている国々も少なくなかったそうだ。中には修復不可能ほど拗れに拗れた地域もあると聞く。
そんな国が、今更話し合いだけでどうにか解決できるだなんて、確かに希望的観測もいいところだろう。人によっては一笑に付すかもしれない。
それでも。
たとえ夢物語だと嘲笑されても、カケルは人間の持つ僅かな光を信じていたかった。
同じ人間だからこそ──『言葉』という優れた力を持つ彼ら彼女だからこそ、他の動物や魔物には出来ない和解という可能性に……。
そんな複雑な表情を浮かべるカケルを見て、何か思う所があったのか、
「……まあ、無理に考えを変えろとまでは言わないけどね」
と、フレイヤはどこか嘆息混じりに呟く。
「カケル君は、なんだかんだ言っても人間だものね。『人間は美しくない。そして、それ故に美しい』なんて妄言を信じ込んでいたとしても、何も不思議じゃないわ。だって、カケル君は〝人間〟なんだから。人間の仲間なんだから。話し合いなんて鼻から考慮に入れず、一度は魔王であるルーちゃんを討とうとしたぐらいだし。そりゃあ〝
「そ、それは……!」
キンっ──
とその刹那、世界そのものが凍り付いたような錯覚がした。
──黙りなさい。
カケルが反論──いや、向こうにしてみれば言い訳でしかないと思っているのかもしれないが──兎に角にも言葉を返そうとしたその時、フレイヤの双眸が言外にそう語っていたような気がしたのだ。
口答えなど許さない。
そんな剣呑な雰囲気を纏って。
「…………」
だからカケルは、黙ってしまった。
それはきっと、自分が何を言っても戯言にしかならないと思ってしまってからだ。
あの頃のカケルは、魔王に人間の言葉は通じないと身勝手に決めつけ、そしてフレイヤの言う通り、ルトをこの手で屠ろうとしていたのだから……。
「結局、最終的にはそこに収束しちゃうのよね
──あたしが、ルーちゃんと別れろと言ったのは、さ」
「え……?」
「〝魔族〟と〝人間〟。これって、何をどうしたって相入れる関係じゃないと思うのよね。一個人のせそれも平民レベルならまだあり得たかもしれないけれど、それが〝勇者〟と〝魔王〟となったら絶望的ね。もうどうにかなるようなものじゃないわ。最高に最悪な物語の始まりって感じね」
「ま、待って下さい!」
「今までの話から、魔王がオレなんかに構ってる場合じゃないというのは分かりましたけど、でもだからって、それだけの事情でお腹の子を
「……カケル君は、ちゃんと話を聞いていたのかしら?」
憤慨するカケルとは対象的に、フレイヤは泰然とした態度を変えず、むしろどこか冷めた面持ちでしれっと答える。
「さっきまでの話、あくまであたし個人の見解だけだと思った? 言わせてもらうけどこれ、ルーちゃんと二人で散々話し合った内容でもあるのよ。それを今に到るまでルーちゃんがカケル君に黙り続けた理由が分かる?」
「魔王、が……?」
確かにフレイヤからこの話を聞かされるまで、カケルは何も知らなかったと言っていい状態だった。話す機会ならいくらでもあったというのにだ。
なのに何故、ルトはこの話をせず、敢えて素知らぬ振りまでしてカケルと接していたのか。
何故か。何故なのか──
「それはね、カケル君を
カケル君が何者かに体良く利用されて──最悪、最後は使い捨てられる可能性もあるかもしれないから、ずっと黙っていたのよ。すべてを話してしまったら、カケル君が傷付くかもしれないから」
言われて、振り返ってもみれば──
魔王城へと赴く事を代わりに、恐れ多くも姫様との婚約を条件にしたカケルではあったが、今にして思えば、王がああもあっさりと了承したのも、何かしら裏があっての事だとしたら。
自分は、単なる操り人形でしかなかったのだとしたら──……?
「まあ、すべて話して仲間に引き込むって策も考えていたみたいだけれど、さすがにそれはやめたらしいわ。一度魔族側に付いてしまったら、もう二度と人間側には戻れなくなるからって。きっとカケル君の身を案じたのでしょうね。
それくらい、ルーちゃんは君にご熱心なのよ。それこそ、カケル君の為なら命すら投げ出しかねないほどに。でもね、それじゃあ駄目なのよ。一人の少女としてなら、単なる美談で終わる話なんでしょうけど、ルーちゃんの場合はそういうワケにはいかないのよ」
「どうして……」
「だってルーちゃんは、魔族の王だから」
フレイヤは神妙な口調でそう言う。
それはまるで、ルトだけの事ではなく、フレイヤ自身の過去も重ねているかのような、そんな憂いた表情を見せて。
「炎で闇を焼きつくし、光で魔族の心を照らし続ける。魔王というのは──魔族の頂点でいるという事は、そうあり続けなければならないものなのよ。たった一人の──それも敵である男の為に全てを投げ出すかもしれない王なんて言語道断よ。そんな王が治める国なんて、きっと破滅しか待っていないわ。あたしはもう隠居した身だけれども、だからと言ってこのまま黙って見過ごすワケにはいかないの」
愛する者の為に、自国を滅ぼしかねない王。
国を治めるとして、確かにそれではいけないのだろう。カケルとて、それは間違えているとも思う。
だけど。
だけど、それは──
「魔王城は今、かなり危うい状況に立たされているのよ。世界中が戦争をしているからこそ、下手に軍を魔王城に出して自国を手薄にする事はない。その間に他の国や魔物の群れに襲われるかもしれないし、加えて、勝てるかどうかも分からない魔族との戦闘に兵を割く真似なんて出来るはずないでしょうから。
でも、カケル君の存在を知られたら話は別。カケル君という弱味を人間達が知ったら、きっとあの手この手でルーちゃんを倒しに来るわよ。カケル君を仲間に引き入れようとするか、それとも人質に取るか。どちらか、どうなるかは分からないけれど、カケル君の身に何かあった時、きっとルーちゃんは平静でいられなくなるわ。妊娠している分、この先精神的にも不安定になっていく時期でしょうしね。
故に、カケル君とルーちゃんは一緒にいるべきじゃないわ。魔族の将来を思うならね」
こちらが一方的に重荷にしかならない関係。
もしそれが事実だとしたら、フレイヤの言葉通り、カケルはルトから離れるべきなのだろう。
そんな関係、きっと互いに不幸にしかならないのだろうから……。
だが。
だがしかし、だ。
「けどオレには、ルトを妊娠させた責任が──子供を立派に成長させる義務が……」
「君、まだそんなふざけた事をほざくつもりなの?」
改めて自分の気持ちを吐露しようとしたその時。
フレイヤの剣の籠った一言が、そんなカケルの決意を容易く遮った。
「いや、ふざけるだなんて、オレはそんなつもりは微塵も──」
「この際だから言わせてもらうけど、いっそ口にするのも馬鹿馬鹿しいくらい、根本的に根柢的かつ根源的なほど至極当たり前な事を訊かせてもらうけれど──」
突然の言いがかりに動揺するカケルに対し。
フレイヤは。
先代魔王は。
ルトの母親は──
今まで全く露わにしなかった怒りの感情を見せつけるかの如く、苛烈な視線をカケルにぶつけて、こう問うた。
「カケル君は、ルーちゃんの事が本当に好きなの?」
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