第15話 男は大抵ク◯ニ好き



「ふえぇ!? し、下の口って……!」

 卑しい笑みと共に発せられたカケルの言葉に、顔を極限まで紅潮させて動揺を露わにするルト。そんな彼女の反応に、カケルはより一層笑みを深くして先を続ける。

「なーにをこれぐらいの事で恥ずかしがってんだよ。一度は雄しべと雌しべをビビッドにドッキングさせてんだし、下の口でキスぐらい、今更大した事でもねぇだろうよ」

「で、でも。し、ししし下の口でキスだなんて……っ」

 計画通り。

 見ていて愉快なまでにあわあわと取り乱すルトの反応に、邪悪な笑みを心中で浮かべながら、カケルは満足げに頷く。

 前々から思っていた事ではあるが、やはり彼女はこうやってからかって遊ぶには打ってつけの存在だ。ルトが羞恥に悶える姿を見ているだけで、愉悦が全身をかけ巡る。それにルトが想像以上のリアクションを見せてくれるせいもあって、カケルの悪戯心により拍車を掛けていた。

 こんなふざけた真似、ルトと出会った当初ならば考えもしなかった事だろう。これもそれも、ルトがカケルに恋慕の情を抱いているからこそであり、もしこれが何の情も寄せていない相手だったら、今頃ハラワタをぶち撒けられていた事だろう。想像だにするだけでゾッとする話だ。

 それにしても──と。

 未だ返答に困って狼狽するルトの様子をぼんやりと静観しながら、カケルは物思いに耽る。

 奇妙な縁で魔王であるルトとこんな風に親密な関係になってしまったが、これが世間に知れ渡れば、自分は魔族側に寝返った裏切り者の勇者として、大衆から侮蔑の視線にさらされるのだろうなと思う。

 今でこそルトの人柄に触れ、そして図らずも魔族側の内情を知り、向こうに人間達を滅ぼそうとする意思が無い事は重々承知してはいるが、しかしそれはあくまでもカケルだけが把握しているのであって、全ての人間がこの事実を知っているワケではないのだ。

 それはつまり、いくらカケルがルト達に理解を示したとしても、人間達が魔族側の事情を知らない限りは、いつまでもこの敵対関係は変わらないという事に他ならない。

 いや、以前にミランから耳に挟んだ事ではあるが、魔族側に人間達をどうこうする意思は無いという説明を、それこそ気が遠くなるほど幾度となく伝達してきたはずなのである。

 しかしながら、それを人間達が虚言だと決め付け、今に至るまでまともに受け取ってもらえない事が問題なのだ。これでは話が平行線のまま何も進展しないのは当然である。

 とは言え、だ。人間達が魔族に不信感を抱くのも無理からぬ話だとも思うのだ。

 初代魔王の妻が人間の野盗に襲われた事が発端で始まった悲劇──その境遇自体には同情するし、復讐に走るのもわかろうというものだが、しかしいくら何でもやり過ぎた。

 犯人である野盗のみを殺しただけならまだ話は丸く収まっていたかもしれないが、人間そのものを滅ぼそうとするなど以ての外。これでは身内から乱心したと捉えられても致し方ない。

 この時に少しでも初代魔王を諫められていたら話も変わっていたかもしれないが、仮にも魔族の頂点に立つとされる魔王。その絶大なる力の前に──何より、初代魔王の鬼気迫る剣幕に、さしもの臣下達も怯えながら従うしか他なかったそうだ。

 まあ中には、元より人間達に悪印象しか抱いていなかった者も少なくなかったとも聞いたし、喜び勇んで戦争に荷担した輩もいたらしいが。

 それより何より、だ。元を正せば、初代魔王の妻がろくに護衛を付けず、侍女数名だけで人間達の住む地域に足を運んでしまった愚行こそが、全ての始まりとも言えるのだ。

 いくら今ほど諍いがなかった頃とはいえ、無闇に相手側の流域に立ち入ればどんな迫害を受けるか分かったものではなかった時代──更に言えば、互いに相背反する種族の元の所へ赴くなど、自ら危険を冒す行為にも等しい。

 おそらく、初代魔王に匹敵するだけの力がある彼女の驕りと一見は人間の女性と変わらない姿という油断が隙を生み、そこを野盗達に付け入れられたのだろう。話を聞くに、妊娠中で存分に力が発揮できなかったと言うのだから、尚の事である。無論、だからと言って野盗達の罪が消えるわけではないが。

 しかるに、よくよく冷静になって考えてみると、ここまで泥沼化した大戦の原因は、主に魔族側に方こそあったのではないかと、カケルはそう思えてならなかった。

 ミランが語っていた通り、確かに戦争のきっかけを作ってしまったのは人間側の方かもしれない。しかし、それを意図的では無かったにせよ、きっかけを誘発してしまったのもまた魔族であると言えるのだ。

 野盗達の犯した罪など、無関係な一般市民にしてみれば預かり知らぬ事であったのに違いなく、まして見境無く虐殺される謂われなど毛頭ない。故に、非があるのは魔族側だと言っても決して過言ではないのだ。

 これでは復讐心に駆られて、全ての魔族を滅ぼそうと考える人間が現れるのも宜なるかな──後に魔族共を掃討せんと多くの勇者達が野に放たれるようになったのも、ごく自然の流れだったと言えよう。



 そう──もしもこれが、初代魔王が討伐されて終結したとされる戦争から、千年近く経っていなかったら……だ。



 さすがに千年近くも経過すれば、先の大戦の経験者などもはや生存しているはずもなく、せいぜい親から子へと聞き継がれた話を子孫達がにわかに把握している程度のものだ。

 にも関わらず、今日まで魔王城を攻め入ようとする者が絶えないのは、親から子へと語り継がれていった話が時代と共に誇張と歪曲を経て根も葉もない風評と化し、今となっては侵略する気など微塵も無い現魔王の印象を悪くしているからなのだろう。

 これではどれだけ魔族側に戦闘の意思は無く、休戦を幾度となく交わそうとしても、馬耳東風と鼻から聞き入れてもらえないはずである。

 現状、どうにか魔王を倒さんとする勇者達(カケル含む)を退けてはいるが、今後も同じように済むかどうかは不確定そのもの。

 それに魔王城やその他の地域に住む魔族も被害が増えていく一方であるし、その内溜め込んでいた不満が爆発し、いつ一部の魔族がルトに反旗を起こすか分かったものではない。

 今のところ、ルトの人望と統率力のおかげもあって反乱も無く落ち着いているようではあるが、これからもそうなっていくとは限らないのだ。

 もしもまた、人間と魔族の全面戦争が始まりでもしたら、今度こそ互いのどちらかが滅ぶまで血の雨が降り続けるかもしれない。

 仮にそうなってしまった時、カケルは──



「──ル。カケル……?」



 不意に呼ばれた自分の名に、カケルは思索を中断して声の主前提心配げにこちらを見つめるルトと視線を重ねた。

「お、おう。どうした?」

「いや、急に遠い目をするものだから……。どこか具合でも悪いのか?」

「な、何でもない何でもない! つーか、お前こそ何か言いたい事でもあったんじゃないのか?」

「う、うむ……」

 カケルの言葉に、ぎこちなく頷くルト。そうして次の言葉を待つも「あの、その……」と俯きながら両手の指を絡ませるだけで、話が一向に進みそうになかった。

 焦れったく思うあまり、こちらから無理やり訊き出したくなる衝動に駆られつつも、必死に自分の気持ちを口にしようとしているルトを黙して見守っていると、

「カ、カケルは、普通にキスを交わすより、わ、私の下の口とやらで唇に触れた方が嬉しいのか?」

 と、ややあって、上目遣いでカケルをチラチラ見やりながら、ルトがそう訊ねてきた。

「えっ? そ、そりゃ、まあな」

 ルトの質問に戸惑いを覚えつつも、カケルは素直に首肯した。

 というか、嫌いな奴なんてこの世にいるのだろうか。男として生を受けた者なら、女性の秘部に触れてみたいと思うのは極々当たり前の事だ。それもより敏感な感触を得られる舌で──率直かつ下品な表現で表すならば、いわゆるク○ニという行為で興奮を味わいたいと思うのは、男子として当然の発想である。

 よって、ク○ニを嫌う男など存在しない。それは誰もが認める黄金の真実──言わば、世界の真理そのものだ。この理屈だけは、何があろうとも覆す事は出来ない。

 そうだろう? 世の男共よ。

「そ、そうか。カケルは、そっちの方が嬉しいのか。するとやはりここは……いや、でも…………っ」

 と、カケルの返答に対し、何やらしきりに頷いたり首を振ったりしながら、ぶつぶつと意味不明な事を呟くルト。

 しかし、元はカケルの冗談から始まった話ではあるが、まさかここまで引っ張ってくるとは思わなかった。ていうかルトもルトで、顔を真っ赤にするほど恥ずかしいくらいなら、無理に続けなくてもいいものを。相変わらず、変な所でバカ正直な娘だ。

「──……ルが」

「ん? 何か言ったか?」

 ふと何事か呟いたルトに、カケルは首を傾げて訊ね返す。

「その……カケルがどうしてもって言うなら、させてあげても、いいんだぞ……?」

「…………は?」

 思わぬ言葉に、カケル口をあんぐりと開けて呆けた。

 させてあげる? 何を? そりゃ言わずもがな、ク○ニであろう。

 いやしかし、あれは単にルトをからかって言っただけで、そもそもこんな冗談を真に受けるハズが──

 などと動揺している間にも、ルトはやにわに立ち上がり、スカートの中に手を入れて、スッと下着を下ろしていた。

 ちなみに驚きの白さ、もとい純白でした。

「いやいやいやいや! ちょっと待て魔王っ! あれはオレの悪ふざけで──」

 突然のルトの挙動に、慌ててストップを入れるカケルだったが、当の本人には聞こえていないのか、はたまた耳に入れるつもりがさらさら無いのか──スカートの端に手を掛けたルトが、時折躊躇するように身をよじらせながらも、カケルの目の前で徐々にたくし上げていく。

 そして太腿の付け根付近までスカートが捲られ、ついには約一週間ぶりのお見えとなる──



 パ イ ○ ン 様 の お 姿 が !



「(パンパンッ)ありがたやありがたや……」

「(ビクッ)き、急にどうしたのだカケル!?」

「あ。いや、すまん。何かつい……」

 あまりの神々しさに思わず手を合わせて拝んでしまったカケルであったが、すぐさま正気を取り戻して佇まいを直し、改めてルトの太腿付近を見やる。

 いつ見ても毛穴一つ見当たらない、シルクのように白く瑞々しい肌。何かしら花の香料のする石鹸でも使っているのか、ユリにも似た甘い匂いが鼻腔を攫う。

 つい一週間ほど前に、この美しい肌に自分の肌を重ねたのだと思うと、罪悪感にも似た感情が胸に去来した。まあ、だからと言って今更後悔の念は湧いてこないが。

 それよりも、ほんのお遊びで始めたつもりが、まさかこんな展開になろうとは。好きな人にはどこまでも従順になるというのがミランの弁ではあったが、まさかルトがここまで尽くすタイプとは思ってもみなかった。

 男にとっては実に好都合な女の子とも言えるが、ある意味将来が不安でもあった。その内、好感度のゲージが振り切って、五分置きに意中の男の行動を日記で綴るほどヤンデレ化したりするのだろうか。

「あ、あんまりジロジロ見るな。恥ずかしい……」

「アッハイ……」

 顔をこれ以上なく紅潮させながら漏らしたルトの言葉に、それまでずっと直視していた秘部から目線を逸らして、生返事で答えるカケル。

 とは言いつつもこの状況、一体どう対応すればいいのだろう。せっかくルトがここまでしてくれているのだから、その期待に応えるべきとは思うが、だがしかし、それでは本能のままに生きる野獣と同列であるとも言え──



『ククク……。我が半身よ、何をそこまで惑う必要がある……?』



 とその時、天啓のように何者かがカケルの心に囁き掛けてきた。カケルの中に潜む邪な部分──言うなれば、カケルの姿を模した悪魔の声だ。

 そんな唐突に語りかけてきた悪魔に驚きつつも、カケルは静かに耳を澄ませる。

『こうして魔王が股を見せつけてくれているのだぞ。こんな股なだけにまたとない機会に、飛びつかずにして何とするのだ……』

 そ、そうか……?

『そうなのだ。女が恥を忍んで男を誘ってくれているのだぞ。貴様は本能に命じるまま、舐めつくせば良いのだ!』

 そ、そうか……!

『待ってもう一人の私! 悪魔の話を鵜呑みしちゃダメよ!』

 と今度は、カケルの中に潜む天使が、慌てた様子で話し掛けてきた。

『気をしっかり持つのよカケル! 今貴方がしなければならない事は何っ!?』

 天使に問われ、カケルはハッと我に返った。

 そうだ。今自分がすべき事は前提

『ククク。天使よ、何を言っても無駄だ。もはや我らを止める事など、何者にも叶わぬわ!』

『……止める? 何をわけの分からない事を言っているの? 私はね、悪魔。貴方のやり方では生ぬるいと言っているのよ!』

『えっ』

 えっ。

 天使のとんでも発言に、カケルと悪魔は揃って青天の霹靂と言わんばかりに放心した。

『さっきから聞いてれば何!? こんな可愛い少女がせっかく美パイ○ンを晒してくれてるのにク○ニだけで済ますつもりなの!? もっと熱くなりなさいよ!』

『ククク……え、ちょっと待って意味分かんない。止めようとしてたんじゃないの? 何で天使のくせして我ら煽っての?』

 動揺のあまりか、悪魔のキャラが思いっきりブレていた。先ほどまでの尊大な態度はどこへ行った。

『さあ、もう一人の私よ! 今こそ貴方の性欲という名のコスモを爆発させなさい! そして眼前の美パイ○ンにしゃぶり付いて、外はクリ○○スから中のアワビまでク○ニしつつ、ま○ぐ○返しからの潮○き、果てはシ○クス○イ○まで思う存分やっちゃうのよ〜ッ!』

 こっちはこっちで酷い規制の嵐だった。こいつ、本当に天使か。

『天使……。お前って奴は。お前って奴は……』

 さすがの悪魔もこれには呆れ返ったのだろう。その気持ちはカケルにもよく分か──

『お前って奴は…………ほんま男の中の男やでぇ〜ッ!!』

 悪魔、お前もか。

『もう一人の私よ。悪魔の賛同も得ました。これで何も恐れる必要などありません。貴方は貴方の思うままに、為すべき事を為せばいいのです』

 天使が慈愛に満ちた表情と穏やかな口調でカケルを説く。その後光すら差し込んできそうな温かさに、それまで必死に自制していた決心がぐらつき始める。

『さあさ、思い出してご覧なさい。貴方の本性を。内に秘めたる増大なリビドーを。そして彼の偉人──結城リトの数々の勇姿を……!』



 ──その時、カケルの中のSEEDが閃光のように一瞬にして弾けた。



 そうだ。今まで自分は何を迷っていたんだ。あのラッキースケベの王者とも言える結城リト師匠も、幾多のToLOVEるを巻き起こしておきながら──ともすれば、ヒロイン達の色相がダークネスに染まっていても何らおかしくないはずなのにも関わらず、誰一人として憎悪(表面上は嫌がって見せているが)を抱いていないではないか。

 つまり結論付けると、自分に想いを寄せている相手ならば、どんなハレンチでもまいっちんぐでも許される──それをあの偉大なるマンガが教えてくれたのだ。



 ありがとう、長谷見沙貴先生。

 ありがとう、矢吹健太郎先生。

 ありがとう。そして、ありがとう……!



 ようやく決心は固まった。ならば、為すべき事を為すだけだ。

 そんな決意に満ちた瞳で、未だスカートを捲り上げたままのルトへと視線を移し、ジッと見据える。

 あれやこれやカケルが思惟を巡らせていた間にも、ずっと同じ体勢で待ってくれていたようだ。小刻みに体を震わすほど恥ずかしいくせに、何といじらしい事か。その健気さに、何とも言えない愛しさに溢れた。

 ゴクリ、と生唾を飲み込む。そうして、プルプルと震えるその細くて綺麗な太腿に、そっと両の指を添える。

 瞬間、怯えるようにビクッと反応を示すルト。その眼はぎゅっと硬く閉じられ、しかし拒絶する事は一切無く、されるがままに全身をカケルに委ねていた。

 ドクンドクンと胸を突き破りそうなほど力強く脈打つ心臓。つう、と不意に背中から垂れる冷たい汗。荒くなる息遣い──どうやら自分は、この状況に相当緊張しているらしい。

 ふぅー、とそこでひとまず深呼吸を一つ。乱れた息を静かに整えつつ、亀よりも遅い動作でゆっくり唇をルトの股へと近付けていく。

 かあっ、と指からルトの体温が急激に上昇していくのを、指の腹から直に感じる。おそらく、視界は閉じていても気配だけでカケルが徐々に近寄って来るのを感じ取っているのだろう。ルトもまた、自分と同じく緊張しているのだ。



 同調するように。

 追随するように。



 そんな当たり前の事実を滲み出る唾と一緒に飲み込む。噛み締める。実感する。

 そうして目と鼻の距離まで接近し、ついにカケルの舌先がルトの最も敏感な部分に触れ────



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