第4話 召喚とか詠唱とか厨二病の基本ですよね
「
「────!?」
そんな物騒な言葉と共に、力任せに剣を振り下ろすカケル。直後、ハッとした様子でカケルの動向に気付いたルトが、すぐさま片手を突き上げた。
刹那、ルトの周囲を半透明の膜が包み込み、前方に振り抜いたハズの剣は見えない壁によって阻まれ、空中で静止させられていた。
バチバチと雷を帯びたその膜は、外界からの接触を拒絶するかのように次第に膨張し始め、それに伴って雷も激しさを増していく。
「っ!
「くははッ。甘いわ勇者よ! その程度の斬撃でやられる私ではないわっ!」
先ほどまでの乙女じみた反応などまるで無かったかのごとく邪悪に哄笑してみせるルト。その小憎たらしい顔に少しでも近付けんと剣に力を込めるカケルではあるが、逆に離される一方でルトに触れられる気配すら無い。
だが、そんな簡単に離されるつもりは無い。これでも──魔王ほどに無いにせよ──数々の強敵と出会い、まさに死闘と呼ぶに相応しい荒波を越えて来たのだ。この程度の魔法なら、今まで幾度となく相対し、その度に打ち破ってきた。
これしきの魔法障壁で、今の
「おんどりゃあああっ!!」
「なっ……!?」
獣の咆哮にも似たカケルの気合いの一声が響き渡る。その大声量に怯んだかのように、ルトの張った魔法障壁が徐々に押し返されていた。
雷によってその身を傷つけられようとも、構う事なく一歩ずつ足を踏みしめて接近してくるカケルに、ルトは一瞬瞠目して驚愕して見せるも、すぐに「クククっ」と平静を取り戻し、意味有りげに笑みを口に含ませる。
「なかなかやるではないか勇者よ。さすがはこの私の所まで辿り着いただけの事はある。だが──!」
そこで、勇者の追撃は唐突に終わりを告げた。
ルトの最後の言葉に呼応するように一気に激しさを増した雷が、不意にカケル一点を狙って密集し、カケルを吹っ飛ばしたのだ。
「ぬおおおぉぉぉ!?」
猛然と襲いかかってきた雷に為す
問題はそれだけではない。地から宙へと身を投げ出せられ、圧倒的な力によってその衝撃が今もカケルを襲う中、その先に待ち受けているのは──
そのまま衝突すればただでは済まないであろう、煉瓦で出来た分厚い壁。
「…………っ!?」
このままだと壁にブチ当たっててしまう──そう危険を感じ取ったカケルは、宙へと投げ出された体勢のまま、とっさに絶対に離すまいと力強く握り締めていた剣を床へと思い切り突き刺した。
ガガガガガ──ッ! と床へと突き立てた剣が砂塵を撒き散らしながら荒々しく溝を掘っていく。その甲斐あってか、先ほどの時より衝撃が弱まり、徐々にスピードを落としていく。
そして後僅かで壁が──というギリギリ手前の所で勢いは止まり、埃が舞う中でカケルは再び床へと足を付けた。そして全身から力が抜け切ったかのように床へと片膝を着き、突き刺さったままの剣に体重を預けた。
ま、まじで死ぬかと思った──!!
と、胸中で叫びつつ、ホッと胸を撫で下ろすカケル。そして何気なくルトの方を見てみると、あちらも心底安堵したように終始強張らせていた表情をふっと緩めて一息吐いていた。いや、何でだ。自分を吹っ飛ばした張本人だろうが。
と、カケルの怪訝な視線に気付いたのか、ハッとした様子で再び表情をキリッと引き締めた後、
「ク、ククク。よくぞ我が猛攻を防いだ勇者よ。正直、これでもう終いなのかと呆れるところだったぞ。うん、いやホントに」
と妙に取り繕ったような不自然さの残る言葉を呟きつつ、ルトは掲げていたままの片手を下げて魔法障壁を解除した。
ひとまず攻撃の手を休めたらしいルトを見て、カケルはゆっくり立ち上がりつつ、「はんっ!」と聞こえよがしに鼻を鳴らし、威張るように胸を反らして言う。
「あの程度の攻撃、屁でも何でもねぇじょ!」
噛んでもうた。
「……屁でも何でもねぇびょ!」
「言い直したのにまた噛んでる……」
「う、うっせバーカバァーカ! ちょっと噛みマミっただけじゃねぇか!」
ルトにツッコまれて何故か逆ギレ(しかも頭を喰われた魔法少女みたいな噛み方で)するカケルであったが、
「つか、こまけぇこたぁどうでもいいんだよ! そんな事よりさっきの続きだ続き!!」
と無理やり仕切り直し、床に刺さったままの剣を片手で引き抜いて、中段の構えを取った。
「へっ。ちょっと遅れを取ってしまったが、ここからがオレの真の実力をだな──」
ボキリっ。
と。
話の途中で、何かが折れるような音が、不意にカケルの耳朶を打った。
あまりにも嫌な予感に冷や汗が頬に垂れつつ、元凶となった音の正体を静かに見やる。
足元には、カランカランと硬質的な音を立てて、やがてバウンドを止めて静かになった刃の破片が。
そして手元には、完璧にどうしようもなくどうやっても直せそうに無い、ポッキリと途中で刃が折れてしまった、どう見ても使い物にならない愛用の剣が。
一時の静寂。
そして、瞬時の動揺。
「ああああああああああああぁぁぁぁぁ折れたああああぁぁぁぁぁっ!」
いっそ見事なまでに折れ果てた剣を見て、カケルはあらん限りの声を腹の底から絞り出して絶叫した。自分で叫んでいて、頭にキンと響くほどの叫びだった。
「折れたぁ! オレの剣がぁ〜! オレの剣〜っ! ひぐうぐふぇうふぐぅ〜!」
「す、すまぬっ。泣くほど大切な物とは知らずに壊してしまって…………」
ショックのあまり、折れた剣を抱き寄せて泣き崩れるカケルに、ルトがいたく申し訳なさそうに謝罪を述べた。何と言うか、何で魔王なんてやってんの? と疑問を持たざるを得ないほどに優しい子だった。いや、根本的な原因はルトにあるのだが。
対する
「ごめんで済んだらポリスメェンはいらないんだよぉ! もう先生に言いつけちゃうんだからぁ!」
と、ご覧の有り様だった。人によっては世も末だと天を仰ぎたくなる光景である。あと、先生って誰だ。
そんなみっともない姿を晒しているカケルは、やがて頬を滴る涙を袖を拭い、折れた剣をそっと床に起き、キッと双眸を眇めて立ち上がる。
「この恨み、タダで済ませると思ったら大間違いだぞ魔王!!」
と、そこまで言って。
不意にカケルはスッと片手を突きだし、それまで感情を剥き出しにしていたのかが嘘のように瞳を静かに閉じた。
「『我ここに、聖遺物召喚の儀を取り行う』」
詠唱。それと共に、カケルの足元から光が溢れ始め、次第に魔法陣を形作って浮かび上がってきた。
「『
紡がれる詠唱に呼応するように魔法陣は煌々と光を増し、大気を震わす。魔法陣から浮かび出る光の渦はカケルを包むように周りを囲い、激しさを増していく。
「『愚かなる罪人に裁きの鉄槌を』──」
その言葉を最後に。
突き出されたカケルの手から凄まじい光の奔流が生まれた。
「来い! 『デュランダル』──!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます