その青の向こうへ
たけぞう
1
メタクリル樹脂の覗き窓の向こうで、水面が空になった。揺れながら迫っていた海も、ハッチの向こうに厳重に切り離された空も、青い理由は同じ。波長の短い青い光のほうが散乱しやすいからだ。無色透明の正体を見せた偽りの空はただ明るくて、青い世界の美しさが少しだけ軽薄に見えた。
「『よこすか』どうぞ、こちら『しんかい』。ベント開、
「『よこすか』了解」
通信機の向こうへ、潜航の開始が告げられる。バラストタンクへ注水すると同時、開かれたベント弁から空気が押し出される。そうして水で重くなった船体は、シンタクティックフォームの生み出す浮力に打ち勝って、深い青へ落ちていく。
『しんかい6500』。
「UQCチェック。こちらの感明どうか、どうぞ」
船長の
そんなやりとりを、手元のマニュアルとにらめっこしながら聞いていた副操縦士の
「ここも、雪が降ってるのね」
うずくまるようにして窓外を見ていた籐條が、ぽつりと言った。相島もちらと足下の窓を見やる。
「マリンスノーですね。籐條さん、どちらからいらっしゃったんでしたっけ?」
「昨晩、岩見沢から。大変だったのよ、飛行機が雪で飛ばないかもしれないって言われて」
疲れを滲ませながら、籐條が笑った。北海道教育大学の助教授である彼女は、キャンパスから直接むつ市に向かったのだろう。
「海の中も、冬なのね」
「ここの雪は、夏のほうが強いですけどね」
相島が生真面目に言うと、籐條はまた控えめに笑った。柔らかな人だった。ただ、どこか翳のある冷たい印象も拭えなくて、彼女こそ雪のようだと相島は思った。
「相島、そろそろ切り離すぞ」
竹本の声で、あわててマニュアルをチェックする。毎分四〇メートルで潜航する『しんかい』は、十分で予定深度に達してしまうはずだった。着底する少し手前でウェイトの半分を捨て、浮力と
「主推進、垂直、水平、海水DSオン」
そう伝達すると、竹本は復唱しながら一つずつスラスタのスイッチを入れた。電動機の唸りが振動として伝わってくる。重力に従った落下ではなく、自らの意志による潜航。雪景色を追い越して、それを見送っていく。緊張した面持ちで窓外を見ていた相島は、それでも、
そして、太陽を失った青の底に、津軽海峡の最深部が姿を現す。
「『よこすか』、『しんかい』。着底した、異常なし。深さ
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