第329話 予定調和
1回戦のあるところから試合がどんどん行われるけど、大阪桐正も宝徳学園も1回戦を突破したので2回戦でこの2校が激突する。ライバル同士が潰し合うのも、甲子園ではよくあることだろうね。去年の夏の甲子園は、3回戦で大阪桐正と湘東学園が当たったわけだし。
「宝徳学園と大阪桐正は、毎年のように当たってますよね」
「秋は近畿大会でも戦っているし、練習試合も何回かしているようだから、相当戦ってるね。
……久美ちゃんは、どちらが勝つと思う?」
「どちらもエースが強いですけど、それ以上に打線も強いので……エースのその日の調子次第でしょうね」
「真弘ちゃんと、根岸さんの投げ合いになるのは分かるんだけどね。2人とも1回戦で5イニング投げているとはいえ、休養期間は十分だし、2人とも行けるところまで投げるだろうね」
そして湘東学園の初戦の相手は、群馬の強豪前橋徳栄高校。スタメン9人の内5人が2年生という2年生中心のチームだけど、エースは3年生で一昨年対戦した経験のある人。大事な甲子園の初戦、相手も強いところではあるけど、たぶん私がいなくても勝てるだろうね。
湘東学園 スターティングメンバー
1番 二塁手 木南聖
2番 左翼手 伊藤真凡
3番 三塁手 実松奏音
4番 一塁手 江渕智賀
5番 中堅手 勝本光月
6番 右翼手 高谷俊江
7番 遊撃手 水江麻樹
8番 捕手 梅村詩野
9番 投手 春谷久美
野手の方は今年の春の選抜甲子園で優勝した面子が、そのまま出場している。先発は久美ちゃんだけど、久美ちゃんも久美ちゃんで甲子園で完全試合とかできそうなポテンシャルは秘めている。
初回、前橋徳栄の攻撃は三振2つとセカンドフライで終わる。立ち上がりで若干コントロールに苦しんでいた久美ちゃんは、相手の方が緊張しているからか助けられているけどたぶん相手が全力でも打たれてなかっただろうね。
もうこれで、3年生世代は4回目の甲子園出場だ。もう甲子園での試合は慣れているし、過度な緊張をしている子はいない。2年生世代も3回目の甲子園で、流石に慣れて来たのか昨年の夏の時のように浮かれている子はいなかった。唯一顔が強張っているのは、元々顔が怖い番匠さんだけだね。
「さて。全員、遠慮せずにどんどん打って良いよ」
あまり甲子園で点を取りすぎると、相手が可哀想だと言う人もいるし、過剰に点を取りすぎると警戒もされやすくなるけど、もう湘東学園はどの高校も対策を万全にしてきていて、最大級の警戒をしている高校だ。少なくとも来年がない3年生達は、出し惜しみすることなく全力でプレーすることが出来る。
1回裏、ひじりんの打順から始まった湘東学園の攻撃は、ひじりんが四球を選んだのを見て止まらないだろうなと思った。続く真凡ちゃんはヒットを打って、ノーアウトランナー1塁3塁。向こうは諦めているのか、もう私を敬遠してもしなくても取られる点は同じだと思っているのか、勝負をしてくる。
初球、外へ大きく外れたところへカットボールを投げられる。結構曲がるし、甲子園に出て来る高校のエースなだけはあるけど、コントロールはそこまで良くないし、最速も130キロを超えてない。
2球目。私は内角低め、ボール気味の球を捉えてバックスクリーンにまで運ぶ。最後の夏、湘東学園全体が力を付けたために、圧倒的な戦力差になったために、私は勝負されるようになるかもしれない。
続く智賀ちゃんはライトフライに倒れるも、光月ちゃんと高谷さんが連続ヒットでまたワンナウトランナー1塁2塁のチャンスを作ると、水江さんが走者一掃のタイムリーツーベースヒットで5対0。続く詩野ちゃんもライト前へヒットを打って、6対0と6点差になった。
詩野ちゃんと投手陣は打率が低いけど、今日は詩野ちゃん打つ日のようだし久美ちゃんも投手陣の中では打率が良いので打線が止まらない。久美ちゃんにまでヒットを打たれた相手投手は、降板することも出来ずに投げ続ける。
ツーアウト満塁、6点差で迎えた私の第2打席。今度はライト方向のポールに当てての満塁ホームランで10対0。結局この回、1イニングで湘東学園が取った得点は10点だった。本来野球と言う競技は、実力差があっても初回から強い方が大量得点を取って10点差をつけるのは難しいし、特に甲子園では珍しい。何せ相手側も県予選を勝ち上がって来た、3年間必死に野球をやり続けた人達だからだ。
それが可能になっている理由は、あまりに実力差が離れているというか、格下には滅法強いだけだ。ただ点を取るだけの競技なら恐らく湘東学園は大阪桐正や宝徳学園にも負けてない。所謂良い当たりが、野手の正面を突くことが少ないからかな。
2回表の相手の攻撃は4番からだけど、この状況でも笑顔で立てるのは素敵なことだと思うよ。それで一矢報いてくれたらカッコいいけど、久美ちゃんのドロップカーブにバットを合わせただけで、智賀ちゃんの守備範囲内。ファーストゴロでワンナウトを取った後は、ピッチャーゴロと三振でこの回も三者凡退で切り抜ける。
久美ちゃんがこの試合で、初めて乱れたのはここから対戦相手の打順が一巡した5回表。2打席目の前橋徳栄高校の4番に高いバウンドのショートゴロを打たれ、それが内野安打になった。既に点差は27対0と、甲子園では早々見られない点差になっている中、完全試合のムードも漂っているのにヒットを打った4番の子はメンタルが強い。しかし後続が続かず、久美ちゃんは6回までを投げてヒット1本という成績。
そして最終回の7回には、宮守さんがマウンドに上がる。33対0、どうあってもひっくり返らない点差で御影監督は宮守さんの経験を優先したいと言い出し、私はそれに素直に従った。
絶対に勝てるという状況ではあるけど、向こうも1点だけは返そうという気持ちで打席に向かうため、変に競っている時よりも抑えるのは難しい。しかし前橋徳栄高校の2番、3番、4番を相手に、宮守さんは縦に落ちるスライダーを駆使して三者凡退に打ち取った。
終わってみれば、最早虐殺劇としか言いようがない試合展開だった。湘東学園は私が4本のホームランを打ってサイクルホームランを達成した他、智賀ちゃんや光月ちゃん、水江さんにもホームランが飛び出し、計7本のホームランで打線の破壊力を示した。
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