第320話 3年目の夏
6月下旬、夏の神奈川県大会の抽選会が行われるため、私と久美ちゃんとひじりんの3人で会場に向かう。毎度の事だけど、抽選会前のこの高揚感は他の何物でも味わえない独特なものだね。そして私達が入るなり、会場の空気は一変する。去年も注目はされていたけど、今年はもうラスボスが来たとでも言いたげな雰囲気だ。
「くじを引くのは、一番最初かな」
「Aシードは湘東学園と統光学園と横浜高校。到着が早かったですから、1番最初に引けますね」
「カノン先輩、どうせなら1番を引いてきて!」
「うん、頑張るよ」
Aシードの高校は、大きなトーナメント表の右上、右下、左上のどこかに入る。1番を引ける可能性は、純粋に1/3。まあ何処でも甲子園までの道のりは変わらないんだけどね。
今年のBシードは東洋大相模を筆頭に、鎌倉学院、平塚高校、向仲高校、川崎立花の5校。どの高校とも、対戦経験はあるね。というか公式戦だけでも全校と2試合以上はやってるのかな?
毎回トーナメント戦を勝ち進んでいるから、対戦経験のある高校というのは多い。甲子園ですら、結構対戦経験が多い高校というのは増えて来たからね。主に宝徳学園とか大阪桐正とか。
「よし、引いてくるよ」
甲子園に出られなかったら、これが最後の抽選会ということにもなる。抽選会が始まり、湘東学園は1番最初にくじを引くことになったので、私が壇上まで行く。すると、記者達が凄まじい勢いで写真をパシャパシャと撮っていた。眩しくて、前が見えないレベルなんだけど。
3枚の並べられたカードの内、左端を取って見ると1番だった。すぐに隣に控えている司会者に渡すと、その司会の人が「湘東学園、1番です」と大きな声を出す。大きなトーナメント表の、左端に湘東学園のプレートがぶら下がり、続いて桐光学園が101番を引いたことから統光学園とは決勝で当たる組み合わせとなった。
横浜高校が最後の1枚、100番を引いてAシードの3校が確定。今年の出場校は199校と奇数だから、こちらの山が1校多い。まあ、この校数だと誤差みたいなものかな。統光学園と準決勝で当たる組み合わせじゃないなら、とりあえず良いや。
「最高の組み合わせとはいきませんでしたが、統光学園が向こうなら問題ないですね」
「本当なら、101番が最良だからね。決勝までに1回しかAシードと当たらないし」
Aブロック、Bブロック、Cブロック、Dブロックと分かれているうち、DブロックだけにはAシードが入らないので可能であればCブロックに入るのが最良だった。続いてBシードの高校がくじを引いて行き、Aブロックの反対側の山へ行ったのは向仲高校。
石戸さんがいる高校で、詩野ちゃんが唯一「千野ちゃん」とちゃん付けで呼ぶ投手がいる高校だ。Bブロックの横浜高校の反対側に入ったのは、東洋大相模。Cブロックの統光学園と反対側に入ったのは川崎立花。
一番楽なはずのDブロックは、鎌倉学院と平塚高校の2校が入り、これでおおよその盤面が固まる。するとあちこちから一般校のひそひそ話が聞こえて来るけど「Cブロックの川崎立花寄りのくじを引いて来なさい」とかそんなピンポイントなクジを引けるのかな。
Cシードの8校がそれぞれの山の中央付近を引き、湘東学園が一番最初に当たるであろうシード校は和泉大川越に決まった。昨年は大槻さんのお蔭で強豪校だったけど、もうCシード校になったのなら、来年はシード校にならなさそう。
和泉大川越の現エースの速水さんは、大槻さんに惹かれて和泉大川越を選んだんだと思うけど、昨年の春は平塚高校相手に投げて炎上してたし、今年の春は横浜高校相手に炎上している。そこまで警戒をする必要もないけど、データ収集は怠らないようにしないと。
「大槻さんは、手強かったですよねえ」
「もうプロ初勝利を挙げてローテに入っている、化け物みたいなピッチャーだしね」
……そういえばプロの方は交流戦に入って、京神ジャガーズに入団した本城さんが1軍昇格を果たしていた。1軍昇格後、すぐにスタメンで使われ、6番ファースト出場。結果は三振2つと単打だけという、何とも言えない感じ。
ついでに同い年に京神に1位で入団した藤波さんは、5月までの成績で7試合を投げて4勝1敗、防御率は2.25と新人王レースを独走している。与四球率も2.76と悪くはない。お蔭様でもう6月なのにも関わらず、京神は最下位じゃなく、5位で現4位と熾烈な4位争いをしている。……AクラスとBクラスの境目がはっきりとしているせいで、どう足掻いてもここからAクラスになるビジョンは見えないね。
「本城先輩、2軍の12試合で34打席33打数9安打2本塁打……打率2割7分3厘の成績で1軍に上がったの?」
「ひじりん、2軍の他の野手の打率も見てみようか。何で本城先輩が1軍に呼ばれたか分かるから」
「え?
2軍の野手の打率、2割前後の人しかいない……」
「1軍でもまだ打数は少ないとは言え3割打ってるし、本城先輩はこのまま1軍で定着するかもね」
本城先輩は肩を壊していたけど、懸命な治療を積み重ねているらしく、最近では鋭い送球も増えて来た。まあ、元投手だし球は速かったそうだからね。ドラフトの1位と2位が久しぶりに1年目から1軍で戦力になっているということで、京神のファン達は喜んでいる模様。今まで、どんなに酷いドラフトだったのかは私もよく知ってます。
抽選会は200校近くがくじを引くから時間がかかったけど、最後の最後の方で2番を引いてくれた高校がいたので、これで対戦相手は川沢高校か厚木農業高校のどちらかだね。どちらが来ても大丈夫だとは思うけど、1回戦の偵察には行こうかな。
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