第314話 調子
3対0で2回表を迎えて、優紀ちゃんは先頭バッターにツーベースヒットを打たれる。東洋大相模の4番は、3年生の中北さん。昨年の秋の県大会で、久美ちゃんからホームランを打ってるし、今大会でも5割を超える打率と4本塁打というパワーを見せつけている。
私達とは違って春季神奈川県大会は2回戦からの出場だったけど、ここまでの5試合で4本塁打は普通に凄い。そして今のは、完全にナックルを狙い打ってたね。東洋大相模は芳田さんのナックル対策をよくしていたっぽいし、その副産物なのかな。芳田さんほど完璧なナックルじゃないし、今後もナックルは打たれる可能性のある球と思わなくちゃね。
そうでなくても、選抜甲子園の決勝で5回まで大阪桐正をシャットアウトしたんだからマークは厳しいし、かなり綿密な分析をされていると思う。……湘東学園でも有力投手のストレートの回転数や、変化球の軌道をかなり詳細に分析しているし、有名になると警戒されるのは仕方ない。
ノーアウトランナー2塁から、続く5番は送りバントをしてくる。バスターエンドランを警戒したけど、普通に送って来たので優紀ちゃんが処理し、1塁へ送球。ワンナウトランナー3塁に状況が変わる。
東洋大相模はスクイズもありなチームだけど、警戒しすぎてフォアボールは一番不味いし、3点のリードがある今は1点ぐらい与えても良い。そういう思考でバッター勝負に出た詩野ちゃんだけど、案の定スクイズを敢行され、ボールは一塁側へと転がった。
「4つ!」
「はい!」
そのボールを処理した智賀ちゃんはホームへ送球するけど、中北さんの躱し方が非常に上手くて詩野ちゃんが追いきれなかった。1塁もセーフとなり、1点を返されてワンナウトランナー1塁。突発的に4つと叫んだ詩野ちゃんの判断ミスなわけだけど、中北さんが上手く躱さなかったらアウトだったことを考えると、間違いでもないから難しい。
続く7番の石川さんの打席で、優紀ちゃんは盗塁を決められる。優紀ちゃんの最大の弱点ともいえる球速の遅さ、変化球率の高さを見事に突いてくるね。大阪桐正も、ランナーが出れば揺さぶりをかけるために積極的な盗塁はしてきたはず。そのランナーが出なかっただけだ。
詩野ちゃんの肩と送球の早さがあれば、優紀ちゃんの低めに決まる変化球でも並みのランナーなら刺せるけど、東洋大相模は強豪校なだけあってベンチ入り全員の足が速いからなあ。
……7番の石川さんは、投手だけど今は外野に入っている。それはバッティングが良いからで、高校野球ではバッティングが良い投手は外野手として使われやすい。何気に今大会ではホームランを打ってるし、油断できない相手だ。
その石川さんに、レフト前ヒットを打たれる。レフトを守る真凡ちゃんが処理をするけど、若干もたついた隙に2塁ランナーはホームへ。真凡ちゃんの送球は間に合わず、2点目を与えてしまう。
ワンナウトランナー1塁から、再度石川さんが走って来るけど、これは流石に詩野ちゃんが刺してツーアウト。石川さんも決して遅くはなかったけど、変化球でも捕球してからの送球が早い詩野ちゃんは刺せる。
2回表が終わって、3対2と接戦気味だ。2回裏の攻撃は、8番の詩野ちゃんから。2球目、130キロのストレートを打ってセンター前へのヒットにすると、優紀ちゃんは送りバントを決めてワンナウトランナー2塁。1番の高谷さんはフォアボールを選び、ワンナウトランナー1塁2塁のチャンスになったけど、ここで東洋大相模が動いてライトとピッチャーを入れ替える。
要するに、柏原さんと石川さんを入れ替えるということだね。左バッターのひじりんは、左投手が割と苦手。そして石川さんは、変化量の大きいスクリューを投げて来る。そのスクリューを捉えきれず、ゴロになったため、最悪のセカンドゴロなった。
4-6-3のゲッツーになるかと思ったけど、ひじりんがなんとか1塁でセーフになったのでツーアウトランナー1塁3塁に。続く真凡ちゃんもスクリューを打つけど、ショートの好守に阻まれてアウト。2回裏の湘東学園の攻撃は、無得点に終わる。
「左バッターには左投手を、右バッターには右投手をぶつける算段かな。
優紀ちゃんは、スタミナ気にしなくて良いからね。宮守さんと島谷さんは、いつでも行けるように用意しておいて」
「……そっか。坂上と塩野谷がいるから2人まで投球練習できるんだ」
「宮守さんと島谷さんの2人で2イニングは持つだろうから、優紀ちゃんは最悪この回まででスタミナを使い果たしても問題ないよ」
「流石に3イニングでスタミナが切れるようなことにはならないけど、宮守さんに島谷さんに、カノンもいるなら後ろが頼もしいよ」
向こうが2人の投手をぐるぐると入れ替えるなら、こちらは持っている投手の駒を全部使ってでも抑える構えだ。……勝っても負けても、関東大会には行けるんだけどね。戦力として宮守さんと島谷さんは置いているんだから、使う時には使う。
3回表の東洋大相模の攻撃は9番の柏原さんから。柏原さんは優紀ちゃんと同じぐらいの打撃力で、要するに楽にアウトは取れる。優紀ちゃんのカーブ、シンカー、ナックルに翻弄されて、三振でワンナウト。ここから東洋大相模の攻撃は2巡目に入るけど、1番と2番を連続してサードゴロに抑えてくれたので、私が処理して三者凡退に。
3対2のまま、3回裏の攻撃は私の打席から。マウンド上に戻って来た柏原さんは、私の敬遠を始める。……こうなってくると、エース格が2人いるチームが交互に投げて来るのは厄介だし、大崩れはしなさそうだね。
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