第313話 春大決勝

準決勝、横浜高校との試合は11対5とそこそこの打撃戦になったけど、無事勝利したのでこれに関しては何も問題はない。問題は試合中に動けなくなった北条さんの怪我の具合だ。下手すれば、今後の野球人生にも関わる怪我をしたかもしれない。


寮に戻り、すぐに見舞いに行こうとしたら、北条さんが帰って来る。どうやら試合中に診察は終わったようで、結果はただの筋痙攣だった。セーフ。でも癖になると非常に困るし、今日明日明後日ぐらいは運動しない方が良いね。


「とりあえず、試合中の怪我はそんな感じです」

「うん、分かった。まあ、3日ぐらいは安静にしときなよ。……ん?試合中の怪我?」

「あの……右膝の半月板が損傷してました」


安心し切ったところに、ぶち込まれる北条さんの半月板損傷。結構な野球選手が泣かされる怪我で、北条さんは運良く軽度な時に発見された。湘東学園が食トレに力を入れているのもこういう怪我を回避するためだけど、北条さんの半月板損傷には間に合わなかったみたい。


とりあえず北条さんの今後の長期的な計画は、全部白紙だね。1年目の夏から県大会、甲子園と出て活躍してもらいたかったけど、今年の夏まではしっかりと治療に専念してもらった方が良い。ただ半月板損傷はかなり厄介な怪我でもあるので、万全を期すなら秋の大会まではスタメン起用をしない方が良いかな。


半月板が損傷しているということは、相当中学時代も練習したはずだし、だからこそのあの実力だ。夏の甲子園に使いたかったなという気持ちはあるけど、切り替えないと。こうなるとショートのレギュラーはほぼ水江さんで確定するけど、井原さんや関口さんもチャンスはあるって感じ。


光月ちゃんは満塁ホームランを打った打席で、たぶん復活したとは思う。あれはひじりんが発破かけなかったらそのまま潰れていたかもしれないから、ひじりんにはナイスとしか言いようがない。かなり追い込まれている状態の時に、試合に出した私や御影監督には責任があるしね。


あのイージーなフライをエラーをした回、私も声をかけに行こうとしたけど、ひじりんがお尻を蹴りに行ったのを見てひじりんに任せた。光月ちゃんに関して言えば、私よりもひじりんの方が仲は良いからね。次の回の打席で、光月ちゃんがフォームをリメイクしたのを見て安心したよ。


明日は決勝戦だけど、相手は東洋大相模。統光学園がまさかの県大会準決勝敗退という結果に終わったのは、東洋大相模の先発柏原さんが出来過ぎていたからだね。


最速132キロの速球に、緩急の付けられるカーブとシンカーを低めのコースに決められるのだから打ち辛いし、四球は0と2年前の夏大会と比べると雲泥の差だ。そして決め球は、右バッターの内角低め、ストライクゾーンからボールになる高速シュート。


「……統光学園の右バッター、全員が空振りかゴロって、相当厄介な決め球だよ」

「左バッターも、結構な数が三振してますよ」

「この柏原さんに加えて、2年生で左の石川さんがいるから投手陣は結構な駒が揃ってるね」


詩野ちゃんと久美ちゃんと一緒に、今日の反省会をしつつ柏原さんのビデオを見る。今日の試合、調子が悪いながらも5回4失点だった久美ちゃん。光月ちゃんのエラーが無ければ2失点だったことを考えると、ちゃんと試合を作っていた。


ちなみに私が2回を投げて1失点をしている。四球の後、失投がど真ん中に行ったのを叩かれて、タイムリーツーベースだった。失投でも136キロだったわけだけど、ちゃんと捉えられる人が相手だったのが運の尽き。久々の失点となった。


「石川さんのスクリューも、ほとんど打たれていませんね」

「……石川妹は、姉以上に才能あるよね」

「その姉が、智賀ちゃんに打たれた場面をスタンドで見ていたんだろうね。……スクリュー以外の変化球も、結構大きく動いてるよ」


統光学園の打線は強打ではあるけど、東洋大相模の柏原さんと石川さんに躱されまくった挙句、友理さんが四球から失点をして、2対1で東洋大相模の勝利。まあ、こういうこともあるのが野球だし、どちらも元々強い高校なので東洋大相模が勝ち上がる可能性もそれなりにあった。


決勝戦では、優紀ちゃんが投げる。県大会が終わった後の、関東大会ではベンチ入り枠を弄ることが出来るので、怪我をして離脱した北条さんの代わりに誰か1軍へ上げることが出来る。私としては、番匠さんを出したいかな。


選抜甲子園で優勝しているので、春の神奈川県大会を勝ち進まなくても関東大会には出場出来るけど、ここまで来たら最終年は全部勝って行きたい。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 右翼手 高谷俊江

2番 二塁手 木南聖

3番 左翼手 伊藤真凡

4番 三塁手 実松奏音

5番 一塁手 江渕智賀

6番 中堅手 勝本光月

7番 遊撃手 水江麻樹

8番 捕手  梅村詩野

9番 投手  西野優紀



春の県大会中、ちょくちょく出す面子を変えたりもしたけど、決勝戦では選抜甲子園の決勝戦の時のスタメンと一緒になった。1回表、東洋大相模の攻撃を3人で抑えた優紀ちゃんは、今日も調子が良さそう。というかあまり調子が悪い時、というのがないね。


1回裏、東洋大相模の先発は柏原さん。左バッターにとって、柏原さんの高速シュートは外へ逃げるような変化だから打ち辛いのかな。右バッターにとっても打ち辛そうだけど、基本的には決め球として投げないということは連投が難しいのか、負担がかかりやすいのか。


先頭バッターの高谷さんは、追い込まれる前にカーブを打つけどセカンドゴロに倒れる。相変わらず、東洋大相模の守備の動きは良いし、穴らしい穴もないから東洋大相模の投手陣は安心して投げられそうだね。


湘東学園も穴らしい穴はなくなったけど、どちらかというと打撃偏重だし、真凡ちゃんや智賀ちゃんの守備の動きが若干悪いのは目を瞑っている。この2人が湘東学園打線から消えたら打線の破壊力が3割減するからね。冗談でも何でもなく、3割減る。守備の動きの悪さを差し引いても、十分過ぎるお釣りが出る。


2番のひじりんが、追い込まれてからレフト前へ高速シュートを流してワンナウトランナー1塁。ここで真凡ちゃんの打席を迎えるわけだけど、あっさりと2球目のストレートをレフト線に落とし、ワンナウトランナー1塁2塁に。私は敬遠されて、ワンナウトランナー満塁で智賀ちゃんの打席。


早くも満塁のピンチで冷や汗を流す柏原さんの高速シュートを、智賀ちゃんは芯では捉えきれなかったものの、左中間に飛ばしたため、走者一掃のタイムリーツーベースヒットに。この2人がいるからこそ、湘東学園のクリーンナップは強い。

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