第302話 1年生枠
荷物をまとめた私達は、甲子園を去る。今年の夏、またここに来よう。そのためには、選抜で準決勝まで勝ち上がった統光学園に勝たないといけないけど。
統光学園は準決勝で大阪桐正に8点取られたけど、その最大の理由は友理さんがフォームの改造をしていたからだね。一つのフォームに絞り始めてから、恐らくプロでの活躍を見越してほんの些細なズレを矯正している。
プロの世界で投手として、すぐに活躍できる高卒投手は少ない。それは高校生レベルだと各変化球ごとにフォームの癖がある投手が多く、プロだとすぐに解析されて打ち込まれるからだ。その修正を今からやってくれているお蔭で打ちやすくなっているけど、友理さんのことだから夏には完成しているんじゃないかな。
元々、フォームが2つあるというのは投手としてちょっと大きすぎる欠点だったからね。新開さんもいるし、大阪桐正から4点を取っているから打線も強い。間違いなく、今年の夏の甲子園出場の最大の障害だね。
「春の神奈川県大会は、今週の土曜日に3回戦だね。とりあえず背番号とかは、選抜と変わってないよ」
「……ベンチの枠、2つ空いたけど1年生から入れるの?」
「そのつもり。候補がいないなら2年生から2人選んだけど、もう目立っている存在が何人かいるからね」
春の神奈川県大会は、選抜で怪我から復活した島谷さんを中心に控え面子を試合に出す予定。春はもうどこで負けても夏の大会には影響しないからね。そして選抜の18人をそのまま登録したということは、詩野ちゃんの言う通り2つ枠が余ることになる。春の県大会のベンチ入り枠は20人だから、2人まで追加登録できる。
……2軍対新入生の試合で目立った活躍をした2軍の子を上げても良いけど、その目立った活躍をした上田さんや下田さんは1軍では飽和状態の外野手なんだよね。確かに上田さんは中学生のトップクラスの球をホームランにしたけど、なかやんは高校生でトップクラスの真弘ちゃんの球をホームランにした。
2年生外野手を総合力で比較すると光月ちゃん≧高谷さん>なかやん>>>上田さん≧下田さんぐらいだし、レギュラー確定の真凡ちゃんがいることを考えると外野手のレギュラー争いは激しい。牛山さんがもう一回り成長したら、智賀ちゃんをまた外野に戻す構成もあり得るし……素直に1年生からショートの北条さんと、投手を1人選択かな。
「……投手は島谷と尾崎と宮守だけでも回せるし、塩野谷を入れたら?」
「3人目の捕手?それよりかは番匠さんか、園城寺さんを選択したいかな」
「この2人は、今は1軍に上げない方が良いんじゃないかな?あと番匠か園城寺を上げるよりかは浜川か及川を上げたい」
「詩野ちゃんは、登録する面子に関しては最大戦力にするべきって考え方だよねえ。
うーん……」
御影監督には、上げる面子に関しては好きにしろと言われているし、色々と悩ましい。来年のことを頭に入れながら春の県大会の出場メンバーを考えていると、あっという間に湘東学園に着く。……校門のところに優勝おめでとうの横断幕が掲げられてるし、その前に立っているのは私の伯母、学園長だ。横断幕の後ろには、全校生徒が集まっているのかな?
校門から校舎までの通路に、ほぼ一直線に並んでいる生徒たちとたぶん保護者の方々。その中央を通っていると、拍手と祝福の声が両側から飛んでくるけど、これ歓声を受けている側はただただ恥ずかしいというか、むずがゆい気持ちになる。
ちょうど新学期が始まる始業式の日だけど、私達のお出迎えのせいで始業式の開始時刻が遅れているとか。野球に興味ない人達にはちょっと申し訳ないけど、先に新しいクラスの確認や席の確認をしないとね。
クラス分けについて見ると、3年生組はまた全員1組に固められているけど、2年生組は1組から3組にまばらに分かれている感じ。一学年6クラス240人の湘東学園だから、2年生の野球部員を全員同じ組に集めようとすると人数オーバーするし、前半の組に固めた感じかな。1組から3組と、4組から6組の間に廊下あるし。
始業式では野球部の代表として表彰されて、改めて伯母である学園長に金メダルを首にかけさせられて、シオ姉と2人、含みのある笑いをしていた。寮に戻ると、食堂でこれまた豪華な昼食が出て来たけど、今日から普段通りの練習なのでカロリーは余裕で消化出来るね。
「カノン先輩‼」
ちょっとつまみ食いをしようとしたら、大きな声で話しかけられたので振り返ると番匠さんがいた。長いボサボサの髪はゴムで束ねているだけで、外見は取り繕っていないことがよく分かる。ちなみに合格最低点ギリギリでした。偏差値が高い高校じゃないけど、決して低くはないからね。
「春の県大会、1年生のために枠が空いているって本当ですか!?」
「確かに新入生のために2枠空いているけど、1枠はもう既に埋まってるよ。
だけど、もう1枠は空いている。その1枠に番匠さんが適切だと思ったら、番匠さんをベンチに入れるよ」
私と番匠さんの会話に、聞き耳を立てていた新入生は結構いたけど、気合いが入った子は少なかった。みんな、2軍との試合で傷心状態だね。高校野球を1年間みっちりと取り組んだ高校生と、ここ3ヶ月ぐらいは受験勉強で身体より頭を使っていた元中学生。圧倒的な大差がつくのは当たり前だし、そもそも湘東学園の2軍は同世代でもほぼ敵無しってレベルだし。
今日は始業式の日で、寮生も全員いるし対面式をやるには持って来いのタイミングだね。2つ下にもなると知っている人も少ないし、どういう人がいるかはある程度知っているけど、自己紹介してもらおうかな。
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