第301話 動画
「新入生達と2軍の試合、2年生になったマネージャー組が録画してくれていたから動画で見れるよ」
ホテルの部屋に戻ろうとした時、マネージャーの七條さんが新入生達と2軍の試合の動画を編集してくれたらしいので、それを3年生組で見ることにする。
問題の新入生組が1点を取ったシーンだけど、4回裏に塩野谷さんが粘って四球を選び、北条さんがヒットを打ってノーアウトランナー1塁3塁。そこから番匠さんが犠牲フライを打って1点をもぎ取っていた。
「……北条って子、大きいわね」
「このバッティングセンスに、内野の守備は全般的に得意だし、とりわけショートでの守備は中学生でトップクラスと言われていたからね。まあ私より、ひじりんの方が詳しいと思う」
真凡ちゃんが北条の背丈を見て大きいと言うけど、1年生にしては大きいだけで、他校の3年生とさほど変わらない。打撃センスはかなりのものだけど、現2年生のショート勢を押しのけてレギュラーになれるかは今後の努力次第かな。
そして番匠さんは、相変わらずのパワーだ。片手で私の130キロをセンター後方まで弾き飛ばした力は、今の智賀ちゃんに匹敵するかもしれない。まだまだスイングが荒いから芯に当たってないけど、夏までに打撃練習を中心に努力すれば、2年生達を押しのけてベンチ入りする可能性は十分にある。
番匠さんは、投手としても活躍できるだろうけど……最速132キロって、入学したての1年生の球じゃないよ。4回表の途中から投げ始めた番匠さんだけど、5回表はランナーを出しながらも0点に抑えている。コントロールが悪いせいでその後は散々だったけど、園城寺さんが打ち込まれた後でのこのアピールは目立つし印象に残る。
「……セカンドの子、誰?」
「木場さんだね。番匠さんと同じ中学校出身だから、経歴も同じ。昨年の神奈川県大会で4回戦負けだね」
「聖がいるからこの子は3年生までレギュラーになれないことが確定しているけど、3年生になったらレギュラーになるんじゃない?足速いし」
「エラーしまくっているのは経験が浅いからだろうし、エラーしないように色々と工夫しているのは伸びる証拠だね。まあ、セカンドはひじりんがいるから色々と難しいけど……」
詩野ちゃんが気になった子は、セカンドを守る木場さん。初心者丸出しの動きと圧倒的エラー率で園城寺さんの大量失点を招いた原因でもある。園城寺さんの球が、打ち分けしやすいのも問題だと思うけどね。最高球速と比べると、明らかに平均球速が低い。
長いイニングを投げようとすると力を抑えてしまうのかもしれないけど、最高球速が126キロなのに実際の試合でのストレートの平均球速が120キロに到達しないのは少々問題かもしれない。そして120キロ弱は、2軍にとっては1番タイミングを取りやすい球速だったんじゃないかな。ただ変化球の変化量は多いし、素材として一級品なのは変わりない。
番匠さんと園城寺さんのどちらかは、将来的に湘東学園のエース番号を引き継ぐことになると思う。7回に登板した3人目と4人目の投手は、それぞれ打者一巡と勝負して滅多打ちにされており、ラストアウト1つという状況で出て来た5人目の投手は、打者1人を相手にまぐれかどうかは分からないけど、ショートゴロに打ち取っていた。
「さて。言っちゃ悪いけどここにいる3年生6人は今年の夏のベンチ入り確定枠だよ。怪我して試合に出られなくても、甲子園まで連れて行くから。そして甲子園だと枠が18人で、残りの枠の12人の内、島谷さん、ひじりん、光月ちゃん、高谷さん、なかやんの5人はほぼベンチ入りが確定している」
「つまり、あと7人は別に1年生でも良いということですか?」
動画を見終わった後、ここにいる5人に対して3年生はベンチ入りが確定していることを告げ、残りの枠についても告げる。すると智賀ちゃんから質問があったので、それに対して回答する。
「いや、いざという時に2人目のキャッチャーは確保しておきたいから坂上さんか、原田さんはどちらかが確定枠になるね。……この動画を見る限り、塩野谷さんでも別に良いけど。
だから、1年生のための枠を作るとしたら6人になる」
「……今、意図的ショートを空けたよね?なら、北条さんのレギュラーも視野に入れてるんだ」
「まあ、2年生のショートの水江さん井原さんと比べても今の段階で守備の動きは良いから当然視野に入るよ。問題は1年生を、何人甲子園まで連れて行くか。出来ればこの1年生枠は、湘東学園の伝統にもしたい」
1年生のために、枠をいくつ用意するか。後々の伝統にする事柄を、ここにいる6人で決める。私の頭の中では北条さんをレギュラーとして使ってみたいから、もうショートの1枠はほぼ確定しているようなものだけど、番匠さんや園城寺さん、塩野谷さんのような1年生の中でも目立つ存在を、何人ベンチに入れるか。
選抜甲子園を優勝した今、今年だけじゃなく、来年以降も甲子園優勝を狙えるような、そんな強豪校に私はしたいと思った。私を湘東学園に呼んだ、伯母にもそのような意図があったと思う。
もしも1年生で甲子園の舞台に立てるなら、それは何物にも代えがたい経験になると私は考える。代打での出場やワンポイントでの出場でも、きっと良い影響を与えるんじゃないかな。
ひじりんの世代は投手の駒数が揃っている上に外野の選手層が厚いし、ひじりん自身がセカンドとして凄まじい守備範囲を持っているから心配してないけど、その下となると推薦組の実力も一回り劣るし入部部員数も若干減った。
再来年以降の湘東学園がどうなるか、私にも分からない。でも残り少ない高校野球生活、少しでも種を蒔いて卒業したいね。
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