第285話 入れ替え
始業式の日。前日の1軍と2軍の試合結果から、誰を選抜のベンチに入れるかで本格的に悩む。尾崎さんも牛山さんからホームランを打たれていたけど、それ以外は抑えているんだよね。及川さんも浜川さんも、5回1失点と5回2失点で試合を作ったし、打撃偏重な湘東学園打線をあそこまで抑えているのは実力のある証拠だ。
「これに島谷さんが復帰することも考えると、18人の枠は本当に悩ましいよ」
「……だからって、私に意見を求める?今まであまり、チーム編成についての相談は無かったのに」
「御影監督も浜川さんか及川さんかで悩んでいるから、詩野ちゃんの意見も聞いて来いって」
「右か左かね。普通なら及川一択だと思うけど、及川は3人目の左投げ。確かに悩ましいね」
選抜甲子園は、投手の数を増やして戦うことにした。まあ私や聖ちゃんは色んなポジションを守れるし、内野のどこでも守れる関口さんとかが控えにいると野手の控えは極力少なくすることも出来る。
「尾崎は入れないの?」
「今のところ、確定枠は私と優紀ちゃんと久美ちゃんと島谷さんと宮守さんの5人。6人でも多いのに、7人目を考える余裕は無いよ」
「浜川や及川より、尾崎の方が良くない?及川はコントロールの不安があるし、浜川は速球派と言っても、甲子園だと遅い127キロじゃん。それならスローカーブをもう少し練習させて、尾崎をワンポイントで使えるようにした方がまだ出番は多いと思うよ」
「んー、詩野ちゃんは変化球多い投手が好きだもんね。詩野ちゃんとの相性も考えると、そうなるかぁ……」
「いや、速い球を投げる投手も好きだよ。でもリードをしていて楽しいのは変化球の多い投手」
「そういう詩野ちゃんの本音を隠さないところ、私も好きだよ」
そして詩野ちゃんと色々相談した結果、尾崎さんも候補に加えることになった。詩野ちゃんとの相性も視野に入れて、投手は浜川さんか及川さんか尾崎さんの選択になるけど、こうなると御影監督も尾崎さんを選びそう。
一方で野手陣の方は、昨日の試合で宮守さんからホームランを打った桧山さんをどうするか考え中。牛山さんをファースト起用するなら、桧山さんが代打1番手になれるんだよね。チャンスでは使えないかもしれないけど、ランナーがいないなら高確率で打ってくれる代打枠として十分に使えるかもしれない。
後は牛山さんをファースト起用して智賀ちゃんをライトにするなら、桧山さんがファーストの守備固めで出るという手段もある。18人の枠が、狭く感じるね。せめて県予選や関東大会の時と同じように、枠が20人にならないかな。
「御影監督とカノンさんが話し合って、一回で決まらなかったのは珍しいですね?」
「御影監督は、今年は余裕を持って甲子園連覇が可能だと思ってるからね。そしてそれは事実だし、だから来年のチーム作りも意識している。一方で私は、今年100%勝てるチーム作りをしたい。この意識の差が埋まらないんだよ」
「学園長は、来年以降も強いチーム作りをしたいんですよね?……ですが私も、100%が99.9%になるのは嫌です」
「そもそも、野球に100%は無いけどね。……あれ?何で久美ちゃんが学園長のことを知ってるの?」
御影監督と私も、少しだけチーム編成でぶつかっている。御影監督は来年の大砲候補である牛山さんと桧山さんに、経験を積んで貰いたいのだと思う。だけど私は、そのために極端な重量級打線にするつもりはあまりない。総合力や相性を考えて重量級打線にするのは賛成だけどね。
「4月に楽しみな1年生達も入って来るし、夏大までのレギュラー争いは激しくなるだろうね」
「新入生と言えば、統光学園に稲生(いのう)さんが入るって本当ですか?」
「マジっぽいね。またスライダーが得意な投手が友理さんに惹かれて統光学園入りしたよ。他にも有名所の選手が集っているし、二つ下の世代は統光学園に苦戦すると思うよ」
4月に入って来る新入生の質については、事前情報だと統光学園と湘東学園でほぼ同レベル。ネットでは統光学園の方が上のように書かれたりしているけど、それは番匠さん抜きの比較。番匠さんを加えるなら、ほぼ同じか湘東学園の方がちょっと上かもしれない。
……まあ、番匠さんが湘東学園に受かるかどうかはまだ決まってないけど。野球少女達にとって偏差値が地味に高いのは、湘東学園の強豪化の足枷でもある。半年……いや、真面目に勉強するなら3ヵ月でも大丈夫だけど、嫌いなことをやり続けることが難しい人には厳しいかもしれない。
あとは、入ってからも苦労するのが目に見えてるしね。なかやんとか宮守さんとか、ちゃんと授業を受けているのか心配ではある。補習は毎日きっちりと合格を貰ってから練習に参加していたので、根は真面目なのかもしれないけど、それでも授業中に集中して授業を聞くというのは難しいのかな。
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