第280話 冬合宿初日(後編)

守備練習は延々と続き、疲れ果てた後に迎える間食は大きなおにぎり2つとプロテインドリンク。それと昼の残りの豚汁。今日のおにぎりの中身はツナマヨと辛子明太子で、これは朝に各個人が複数ある選択肢の中から中身の希望を出している。


昼にあれだけ食べたのに、夜にまた大量に食べるのに、この間食でもおにぎりはしっかりと食べる。まあ湘東学園は1日4食で、回数だけなら他の強豪校より少ないかもしれない。


強豪校の中には、1日6食や7食の高校もある。私達の中にも、夜食で勝手にラーメン作って食べる人とかいるけど、それでも太らないのだから消費カロリーが凄い。たぶん1番食べている牛山さんも、太って無いしね。


間食を挟んだ後は、筋トレを行なう。腕立て100回とかスクワット200回とか、全体での明確なノルマというものがこの筋トレではないけど、3軍はマネージャー組が筋トレメニューを個人毎に管理して筋トレをサボって無いか見張っている。2軍はある程度萩原監督がメニューを組んでいて、1軍は完全にフリー。


フリーとは言っても、私を頼ったり、御影監督や矢城コーチを頼って筋トレメニューを組む人の方が多いけどね。私はジムの方に行って、久しぶりにベンチプレスに挑戦する。


「っふ、っく!」

「……え?久美、それ何キロなの?」

「カノンさんが今持ち上げているのは、130kgですね。自重の約2倍です」

「……それをクリアするってヤバ過ぎない?智賀でも確か、110kgでしょ?」


127.5kgまでならクリアしたことがあるので、今日はとうとう大台の130kgに挑戦。ベンチプレスのバーの重りは最少で1.25kgのものがあるので、重くなってくると2.5kgずつ刻むことになる。


このベンチプレス、体格が良くてパワーのある智賀ちゃんが部内2位で100kgだね。3位がなかやんの95kgで、そこから下は混戦になってくる。隣で私の補助をしてくれている久美ちゃんが60kgで、私に化け物を見たかのような視線を送っている詩野ちゃんは45kg。


詩野ちゃんの体格を考慮すると45kgでも十分なんだけど、1軍だとほぼ全員が40kgは持ち上げられると思う。入学当初、20㎏が限界だった真凡ちゃんは真面目に筋トレと身体作りをした結果、今では50kgを持ち上げられます。


ベンチプレスの記録がそのままイコールで野球のパワーに繋がるわけじゃないけど、一種の目安にはなる。持ち上げられる数字が増えて行くのは、個人的に凄く楽しい。


筋トレが終わった後は、またランニング5キロを走り切って夕食。湘東学園の野球部員達はおにぎりを間食で食べたのにも関わらず、すぐに燃料を欲する身体になってしまった。


夕食後は重りを持ってのランニングで、この重りの重さも各個人の体格や筋量によって変えている。私の場合は両手に2.5キロの重りと、夏の合宿で使っていた加重ベストを10キロまで増やして走っている。


「高谷さんは、身体壊すから重りの重さを減らそうね?何キロ入れたのそれ」

「……最大の、20キロです」

「ここから引き返して、距離の方を減らそうか。たぶん限界超えて重りを入れてる水江さんも、一緒に帰るよ」

「私は大丈夫です。この状態でタイヤ引きもしてましたから」

「自分の限界を超えている状態を楽しみたいなら、水江さんだけジムの利用時間伸ばそうか?」


そして途中で高谷さんと水江さんを連れて引き返し、私だけ全力疾走で再走する。夕食後、お風呂に入るまでに走ることになっていて、スタートのタイミング自体はバラバラ。コースは決まっているけど、別に5キロ走って無くてもばれないし、逆に超過しても良い。ここら辺は、サボる人はサボるだろうね。


「47、48!49!50!51、52、ごじゅさあああ!

ああああ……100は無理だよぉ……」

「お、はやぶさ50回は超えたね。もしかして今なわとびで1番上手いの、優紀ちゃんじゃない?」

「はぁ、はあ……カノンは後ろ二重跳びを涼しい顔して100回するじゃん」


重り付きで5キロを完走した後は、大浴場に入って自由時間。本来は勉強時間に充てて貰いたいのだけど、初日の今日はまだ体力に余裕のある人がいたので、投手組で集まってなわとびでもする。


「なわとびは良いですよね。自分の重心のズレがよく分かります」

「重心がズレていたら、どんどん移動していくからね。まあでも最初は二重跳びにも苦労していた優紀ちゃんが、はやぶさを楽々としているのを見ると成長を感じるよ」


なわとびは回数という明確な物差しがあるから、成長を実感しやすい。それと、久美ちゃんの言う重心も野球をする上では大切な話だ。重心がズレていればいるほど、イメージとの差異も出て来る。


1日中身体を酷使して、疲れ切った身体は布団にダイブするなり眠気が襲う。特に抗う理由も無いので、初日は早目に寝ることにした。

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