第279話 冬合宿初日(中編)

トスバッティングは練習の中でも体力を消耗する方だけど、交互に投げ役を行なうのでその投げ役の時間が休憩時間となる。牛山さんと交互にボールの入ったケースに跨って、ケースの中のボールを全部消化したら交代だね。


身体が大きくて、バットが軽そうな牛山さんでも連続して打っていると段々とスイングが鈍くなってくるけど、後ろではずっとハイペースで聖ちゃんと真凡ちゃんのペアがトスバッティングを行なっている。牛山さんは高校から本格的に野球を始めた1人だけど、来年にはああなってそう。


トスバッティングが終わったら、今度は短距離のダッシュ。ホームベースからスタートしてダイヤモンドを一周する。御影監督の笛の合図に合わせて各塁をスタートするけど、まあインターバルは短い。


ハムスターのようにぐるぐると回って、20周分のダッシュが終わったらマシンを引っ張り出しての打撃練習。まだピッチングマシンの台数はそこまで多くないから、河川敷で練習をしていた3軍の子達は2軍グラウンドに入っての練習となる。


……でも新しくマシンを買う前からあったマシン2台も含めると、かなりの数になるんだよね。1軍は5台のピッチングマシンを使っていて、4人で1つのピッチングマシンを使う。打席に入っていない間は、ボールを入れる係か、素振りの時間だね。


打席に入っていられるのは、1人10分を2回で20分かな。変化球も投げられる最新鋭のピッチングマシンだけど、1軍面子はどんどん打っているし、フェンスまで飛ばすパワーのある子も増えて来た。


「……何よ」

「いや、面白いことしてるなーって。今日はやたらと打球がベースに当たっていたから、狙ってたよね?」

「別に良いわよね?狙えるようになって、損することじゃないじゃない」

「上手いサードやセカンドならベースに当たっても冷静に対応するけどね。ただまあ、私の影響かなぁ……」


そのマシン打撃で真凡ちゃんが、私の真似か今日はベースを狙って打っていた。私も当てようと思えば当たると思うけど、見慣れているとはいえマシンのわりとえげつない変化球を狙ってベースに当てるのは人外の所業です。


しかも命中率、5割は超えていたと思う。実戦でも使えそうな手だし、真凡ちゃんはどんどん成長するね。一方で智賀ちゃんも、増設されたフェンスを越えそうになっているので私と同じように力を抑えて打つようになった。


後は牛山さんも、地味にフェンスの最上段には届いたことがあるんだよね。最上段のフェンスと言っても、そのフェンスでは1番下の部分だけど。……フェンスの増設をこれ以上するよりかは、ネットを張ってボールが外に出ないようにしたいけど、幾らでも全力を発揮できる屋内練習場も出来るから別に良いかな。


マシン打撃が終わったら、またランニング5キロを走って昼食の時間。今日のお昼ご飯は豚丼と、豚汁。豚丼はご飯がてんこ盛りで、その上に大量の甘辛いキャベツと豚肉が折り重なっている。普通の女子高生はこの半分でお腹いっぱいだろうけど、私達は大きな具材が盛り沢山の豚汁が追加であって、おかわりまでする。


食欲魔神50人分の食事を作ってくれる寮のお姉さん達には、感謝してもしきれない。彼女達は私達に昼食を出した後、すぐに夕食の用意を開始した。どうやら夕食は焼き鳥のようだけど、鶏肉は今から仕入れに行くらしい。


前に業務用スーパーへの買い出しに付き合ったけど、その時は本当に凄まじい量の牛肉を買っていた。確か10㎏弱の牛肉の塊を、2つ買っていたかな。それを捌くだけでも重労働だし、あっという間に焼肉タレ炒めになったのは凄かった。


午後は少し休憩した後、各グラウンドでのノックから始まる。私はサードの定位置で、矢城コーチのノックを受けた。私の時だけバントが多いのはそういう練習だからだけど、何度もダッシュして距離を詰めるのは普通にノックを受けるより大変だ。


「熊川さん、さっきのは無理に回り込まなくてもバックハンドで捕って良いからね?ゲッツーにしたいならバックハンドで捕っていたら間に合わないけど、今の打球だとどう頑張っても併殺は無理だし」

「わかりました!あ、でもバックハンドで捕るのは少し苦手で……」

「合宿中に、克服しようか」

「はい!」


同じサードの守備位置についている熊川さんに、三塁線への打球処理について少しお話しておく。熊川さんの守備能力は1年生の中でも上の方だけど、中学時代の指導者にバックハンドで捕るなと散々言われたようで、無理に回り込むことも多い。


堅実な守備は有り難いけど、無理して回り込むぐらいならバックハンドで捕ってしまった方が早いし、そっちの方が楽だと思う。熊川さんは私が登板する時に守備で出場する機会が多いし、この合宿でもう少し守備面が伸びてくれれば良いかな。

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