第247話 キューバ

U-18W杯も大詰めを迎えて、今日は準決勝のキューバ戦。相手の先発投手は最速138キロと速いけど、球種は少ないし、捉えられない日本打線ではない。と言っても、ヒットを大量に打てるような投手でも無いけどね。



キューバ戦 U18W杯日本代表 スターティングメンバー


1番 二塁手 赤石(山梨学園・3年)

2番 DH  伊藤(湘東学園・2年)

3番 一塁手 本城(湘東学園・3年)

4番 中堅手 実松(湘東学園・2年)

5番 右翼手 大村(大阪桐正・3年)

6番 遊撃手 荻野(宝徳学園・2年)

7番 左翼手 白木(城西高校・3年)

8番 捕手  篠宮(宝徳学園・3年)

9番 三塁手 内河(履陰社・3年)

投手 藤波(大坂桐正・3年)



準決勝の先発は藤波さん。前評判通りの活躍を今のところしているけど、大槻さんや芳田さんが前評判以上の活躍をしているからか相対的な評価は落ちている。それでも1位指名を宣言する球団が複数出て来ていることから、藤波さんがドラフトの大本命であることには変わりない。


試合は日本の先攻で始まり、赤石さんがサードへの内野安打で出塁するも、真凡ちゃんはファーストライナーに倒れてワンナウトランナー1塁。ここで本城さんがレフト前へヒットを打ち、ワンナウトランナー1塁2塁となったところでキューバは投手を交代させる。


……まだワンナウトしかとってないのに先発を代えるのは、あの投手の調子が良くないと見たんだろうね。準決勝にもなると連投規制を気にしなくて良い投手が出て来るから、ガトリングのようにピッチャー交代を繰り返す国もある。


特にキューバは登録選手26人中、12人が投手だしね。日本より2人多いから、それこそ毎イニングの交代も可能だ。


次に出て来た投手は、本戦の予選の2試合目に出て来た左のサイドスロー。絶対数が少ないサイドスローやアンダスローが苦手という私の弱点も、きっちり把握しているらしい。


初球、左のサイドスロー独特の軌道で襲って来るようなシュートを投げられ、見逃してワンストライク。右バッターのインコースを抉るようなシュートだから、捉えるのは難しそう。後続のバッターは右バッターが多いし、この回の私で点が取れないとしばらく点は取れなさそうだ。


……これからは、絶対に打てるとは言い切れない投手が出て来る。それなら今の内に凡退しておいて、決勝で10割が崩れるという事態を防ぎたい気持ちはあるけど……もうここまで来たら、最後まで10割にこだわるべきだろうね。


2球目、外に外すボール球に手を出して一二塁間を破る。赤石さんはホームに突入し、1点を先制。一方で3塁を狙った本城さんはアウトになってしまう。キューバのライトの肩が、予想以上に良かった。


……本人もビックリするぐらいの、ストライク送球だったから仕方ない。そもそも本当に肩が良いなら、バックホームをしているはずだからね。それでも今の送球はサードの構えたグラブが動かず、ノーバウンドで納まっていたから凄い。


ツーアウトランナー1塁になって、大村さんはセンターフライに倒れる。試合は1回裏に移り、マウンドには藤波さんが登った。初球で日本人高校生として最速タイ記録となる141キロを出し、調子が良い事もわかる。


それでも内野安打を打たれ、盗塁も決められてノーアウトランナー2塁。2番にはフォアボールを出し、ピンチの場面でクリーンナップを迎える。


ベンチにいる岡沢監督を見ると、動く気配はない。キューバみたいに、先発の状態が悪いからと言って即座に代えるような戦法は取らないということだろう。続く3番バッターは一二塁間を抜きそうな打球を打ったけど、これは赤石さんの守備範囲で4-6-3のダブルプレーになる。


日本の二遊間の守備力は、世界的に見ても高い方だ。特にショートの裕香ちゃんの存在は大きく、赤石さんも定位置じゃなくて少し1塁側で守っている。それだけ、裕香ちゃんに任せられる守備範囲というのは広い。


ツーアウトランナー3塁になって、キューバの4番にはレフト前のヒットを打たれたのでキューバは同点に追い付く。その次のバッターは大きなフライになったものの、私がフェンス際で捕球してスリーアウト。1回の表裏が終わって、1対1か。


「キューバは、強いわね。あの時も、こんな雰囲気だったかしら?」

「うん。初回は1点ずつ取ったけど、2回以降は投手戦になりそうだし次の1点が欲しいね」


2回表の攻撃は、6番の裕香ちゃんから。バッターボックスに行く前に一言、裕香ちゃんはあの時と言ったけど、U-15W杯の決勝トーナメント1回戦の時かな?


あの時のキューバ代表の投手陣も変化球が多彩な投手が多かったし、1回に1点ずつを取って以降、0進行が続いた。それを打ち破ったのは、私のホームランだ。


……少しだけ、プレッシャーも感じる。裕香ちゃんも、投手戦になる気配は感じているんだ。それを打ち破ることが出来るのは、一発を持つバッターだけになる。

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