第232話 イングランド
世界ランク3位のドミニカと世界ランク5位のイングランド相手に、どちらかは勝ち切る必要が生まれた日本。しかも本戦トーナメントの1回戦で当たることになるCリーグの面子も強いため、優勝への道はかなり険しい。
「アジア勢は、日本以外予選突破は難しそうだって評価だったよ」
「……あら?日本はわりと評価されているのね?」
「日本は有名な、個の力が強い選手は多いという感じだからね。ただ、それでも初戦は重要だと思う」
イングランド戦のスタメンも発表され、真凡ちゃんはDHで出場することになった。
イングランド戦 U18W杯日本代表 スターティングメンバー
1番 二塁手 赤石(山梨学園・3年)
2番 DH 伊藤(湘東学園・2年)
3番 一塁手 本城(湘東学園・3年)
4番 中堅手 実松(湘東学園・2年)
5番 右翼手 大村(大阪桐正・3年)
6番 遊撃手 荻野(宝徳学園・2年)
7番 三塁手 内河(履陰社・3年)
8番 捕手 森友(大阪桐正・3年)
9番 左翼手 白木(城西高校・3年)
投手 大槻(和泉大川越・3年)
真凡ちゃんの守備力の低さは、わりと問題視された。平均的な高校球児ぐらいには守備力も肩力もあるけど、U-18W杯で外野手として求められる守備力には至ってない。しかし単打だらけとはいえ、打率が8割近い真凡ちゃんを使わないわけにも行かないということで、DHとして起用されることに。
せめてもう少し肩が強ければ、問題は無かったんだけどね。大村さんとか白木さんとか、体格の良い人と比べると真凡ちゃんは弱肩だし、小学生や中学生の時から野球をしている人と比較すると打球の判断も遅い。これでもかなり、良くはなっているんだけど……。
……例えばレフト線や左中間に飛んだ長打コースの球を、回り込んで捕る時とかは経験の差が出るね。これがもたつくと、ツーベースヒットがスリーベースヒットになるし、真凡ちゃんもまだまだ練習をしないといけない。智賀ちゃんをファーストへコンバートしたのも、そういう経緯があったからだ。
外野の守備のミスは失点に直結するし、大事な試合だからこそ守備力を重視した感じかな。ファーストも簡単という訳じゃないけど、背の高い智賀ちゃんはファーストへの適性が高い。
「この人が、ぶつかった人ね」
「そうそう。ジェニファー・テレス・フレッチャーさん。イングランド代表のエースだし、日本戦で先発すると思うよ」
「最速は136キロで、持ち球はスプリットとカーブ?……1次予選も2次予選も、7回まで投げて奪三振14ってどういうことよ」
相手のイングランドの選手を調べていると、空港で真凡ちゃんとぶつかった人の情報も出て来る。ジェニファーさんは、189センチと高身長だしイギリスで有名なピッチャーだね。
「それだけ、三振を取れるピッチャーってことだよ」
「そんなことは分かってるわよ。でも芳田さんより奪三振率が高いって、異常じゃない」
「あー、それはヨーロッパでも高身長だからじゃない?智賀ちゃんが打撃投手をしていた頃に智賀ちゃんの球を打って、打ち辛いと思ったでしょ?高身長で、リリースポイントが高いのにコントロールが良いと必然的に三振が取りやすい球になるんだよ」
調べてみると、異常な奪三振率の高さが目に付くけど、ジェニファーさんは自分が高身長であることを最大限に活かしている。低めにストレートが決まると、マウンドの高さも相まって相当な角度になるから打ち辛そうだ。
「三村さんのストレートを、さらに打ち辛くした感じで良いのかしら?」
「あー、感覚としては近いかもね。三村さんもかなり背が高かったし、角度のある球だったよ。だとしたら、球質も重いかもね」
「……ジェニファーさんを打ち崩さないといけないのに、後続の投手も良いというのは辛いわね」
「日本も継投のレベルは高いし、その条件自体は同じだよ。……投手戦に、なりそうだね」
角度があると、線では無くて点でボールを捉える必要がある。通常なら多少振り遅れてもバットには当たるけど、角度がある球はバットに当たってくれない。その上、落差のある変化球を2球種持っているから、奪三振率の高さも納得ではある。
試合までの短い期間でオーストラリアの空気に慣れつつ、マシンの球を打ち込み、投球練習もする。国際球のせいでコントロールが悪くなっている以上、国際球にも慣れたいしね。
そして、イングランド戦を迎える。この試合を落とすと、日本は後が無くなってしまうし、何よりDブロックを通過するにしても2位通過の可能性が高まってしまう。Cブロックはほぼ確実にアメリカが1位通過になりそうな事を考えると、2位通過も出来れば遠慮したい。
……1位通過をしてもCブロック2位はドイツか韓国だろうから、冷静に考えると日本はとんでもないくじを引かされた感じはする。でも優勝を目指す以上、強い国はいずれ対戦することになるし、仕方ないかな。
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