第230話 西野優紀
「お、優紀ちゃんが完封してる」
「……2日連続で完投とか、肩壊さないわよね?」
「速球派でも、2日連続完投ぐらいなら大丈夫だけどね。合宿中はあまり投げ込まなかったみたいだし、肩は大丈夫だと思う」
U-18W杯アジア予選が終わり、日本のBブロック1位通過とタイの2位通過が確定した。タイもマレーシアも2敗同士だったけど、タイとマレーシアの直接対決だとタイが勝っていたから規定によりタイが通過している。
一方でアジア予選のAブロックは1位が韓国で2位が中国という結果に。大方の予想通りに本戦出場国が決まって、私達はオーストラリアのシドニーに飛行機で移動した。
オーストラリアは8月まで冬なので、9月に入ったばかりのオーストラリアは少し寒いぐらい。と言ってもシドニーはそこまで寒くないし、これから暖かくなっていく季節は野球をするのにちょうど良いんじゃないかな?
「それに甲子園決勝で延長再試合になって、結果的に同じ人が2日続けて完投、なんてこともあるし。優紀ちゃんももうスタミナなら県内でもトップクラスだよ」
「それなら良いけど。それにしても、帝央高校相手に完封って優紀もやるわね」
「優紀ちゃんは合宿中、集中力とコントロールの強化を中心に色々とやったみたいだよ」
空港で歩きながら、真凡ちゃんと喋る。合宿の方は無事に終わり、野球部のみんなは始業式を迎えているはず。合宿の最後の3連戦も全勝していたけど、特に優紀ちゃんが帝央高校を完封したのは良い結果だ。
「そう言えば、私ってかなり才能あるのよね?普通の人がコップサイズの時、私はドラム缶サイズって言ったそうじゃない」
「ん?あー、あの時あの場に真凡ちゃんは居なかったね。それがどうかしたの?」
「……優紀の才能って、どれぐらいあるの?」
「……優紀ちゃんに関しては、断言が出来ないね。そもそも私の感覚もアバウトなものだし、気にしない方が良いよ。真凡ちゃんに関しては、才能関係なく努力の方が大きいもん」
真凡ちゃんが優紀ちゃんについて聞いてきたので、少し考えてみる。……優紀ちゃんだけは、才能が計り知れないと前に結論付けている。だからあの場で触れなかったし、触れられなかった。間違いなく優紀ちゃんに、速い球を投げる才能は無い。最速はもう少し伸びるとしても、125キロの壁を突破するかも怪しい。
それでも幾つもの変化球を投げ分けることが出来て、それが同じフォームなのは大きい。コントロールも少しずつ良くなって来ているし、強豪校相手にも通用するようになって来た。大阪桐正戦も、何だかんだ言って5回2失点だしね。
1試合を投げ切るスタミナも手に入れ、まだまだ成長する余地が幾らでもある優紀ちゃんは、この先ずっと未完成なんじゃないかな。何と言うか、完成形が見えない投手ではある。
「というか自分に才能があると思うとか、ちょっと調子に乗ってない?これから始まる本戦は、今までとはレベルが違うよ?」
「分かってるわよ。それに、自惚れるほど実力があるときゃ!?」
「おっと『連れが申し訳ありません』」
『いえ、大丈夫よ。……あなた達、日本代表?』
一応真凡ちゃんに、自惚れたら駄目だよとか喋っていると、真凡ちゃんが前方不注意でぶつかった。慌てて英語で謝ると、向こうはこちらを日本代表かと聞いて来る。……というか真凡ちゃんとぶつかった人、身長190センチ近くあるね?
『ごめんなさいね。小さ過ぎて視界に映らなかったの。まさか、こんな小さな子も日本代表なの?もしかして中学生?……ふふふ、時代に逆行している国は本当に面白いわね』
『喧嘩売ってるなら買いますよ。イングランドのお姫様』
『あら、英語がお上手。でも日本が時代に逆行している国という評価は取り下げないわよ。だってあなた達、夏の暑い時期に屋外で』
『おいコラお嬢様。どこに喧嘩吹っ掛けてんだ。さっさと行くぞ。
えっと、迷惑をおかけしてごめんなさい』
英語でのやり取りに関して、私は出来るけど真凡ちゃんは出来ないから当事者なのに右往左往している。向こうの知り合いの人が、ぶつかって来た人を引っ張って行ったから無事に収まったけど、わりと喧嘩腰な人だった。
「あの人達、イングランド代表の人達?」
「そうだよ。確かぶつかって来たのは、イングランド代表のエースじゃない?連れて行った方は分からないけど」
「……凄く、背が高かったわね」
「あのお姫様、身長189センチだからね。ビッグプリンセスで有名だよ」
「えっ?お姫様!?」
「別に、イングランド王家の血を引いているとかそういうのじゃないから安心して良いよ。お金持ちではあるそうだけど」
イングランドは世界ランク5位の国で、毎年優勝候補に上がる国だ。今年は欧州予選のCブロックを1位通過していたはず。日本を時代遅れ扱いしていたけど、お前の国もそうだろと言い返したかったかな。
英語のテストは出来るけど、実際に喋ることは出来ない真凡ちゃんに会話するコツを教えながら、チームと合流する。ペラペラ喋れる必要は無いけど、少しぐらいは話せるようになった方が今後も苦労しないだろうからね。
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