第230.5話 秋季県大会
奏音と伊藤がU-18W杯本戦に向け、オーストラリアの地で練習をしている頃、2学期が始まった湘東学園では秋季神奈川県大会の組み合わせ表を2年生部員の4人が囲む。その表を見て、西野が口を開いた。
「綺麗に散った?」
「散りましたね。統光学園と湘東学園が両端にある以上、どのような結果でもある程度は散る感じですけど」
「……例年は甲子園出場枠が1校だけだし、シード枠が絶対に散らばるわけじゃないから波乱は起きやすいけど、今年は甲子園出場枠でシード扱いの高校が2校あるから、必然的に散らばるよ」
西野に対し、答えた春谷の補足をする梅村。キャプテンである奏音が居ないため、秋季神奈川県大会の組み合わせ抽選会には副キャプテンである梅村が1人で行き、96番の札を引いている。先に統光学園の副キャプテンである池田が1番のくじを引いていたため、梅村に選択の余地は無かった。
「順調に行けば、準決勝で和泉大川越か東洋大相模ですか」
「残念だけど、和泉大川越は勝ち上がれないと思うよ。あまりにも大槻さんと大橋さんに依存していた高校だったし、東洋大相模の方が戦力は圧倒的だからね」
「それよりも、4回戦で当たる向中高校の方がヤバいです。北神奈川県大会の準優勝校ですし、決勝で統光学園相手に5対0で敗れたとはいえ、戦力はほとんど減って無いですよ」
湘東学園はDブロックに所属しており、準決勝の相手として勝ち上がりそうな所を江渕が言うと、梅村がそれを否定した。和泉大川越は大槻と大橋というバッテリーが居たからこそ強かっただけで、その2人が抜けた以上脅威ではないだろうと。
そして春谷は、4回戦で当たる向中高校を危惧する。北神奈川県大会で準優勝した高校であり、統光学園相手に5対0で敗れたとはいえ、戦力は充実している高校になる。向中高校は昨年の秋の県大会でも4回戦で当たっており、その時は12対13で湘東学園が勝利している。
「……向こうは千野さんがエースになりました。去年の試合、私達は12点も取ることが出来ましたが、千野さんは敬遠で出たカノンさんをホームに還しただけなので自責点は1点です」
「そう言えば、あの時も満塁敬遠はされてたっけ?でも私達も強くなったし……4回戦って、まだカノンは帰って来ないよね?」
「カノンさんだけじゃないです。真凡さんも帰って来ません。今年のU-18日本代表は、決勝まで行くと思いますよ」
しかしその試合で、向中高校のエースとなった石戸(いしど) 千野(ちの)にはほとんど抑え込まれていたことを春谷は触れた。最大戦力である奏音と伊藤抜きで、湘東学園は向中高校に勝つ必要がある。
「でも合宿に来た強豪校には全勝しましたし、カノンさんと真凡さん抜きでも……って、楽観視してはいけないんですよね?」
「そうだね。関東地区大会では当たらない東京の高校を中心に呼んでいたけど、向こうも県大会前に使える新戦力を試す絶好の機会だったし、全力で来ているわけじゃないしね」
「……あれ?そう考えると帝央高校相手に完封したのは、あまり誇れることじゃないの?」
「それは喜んで良いけど、あまり自信にはしないようにねってことだよ」
キュッキュとマジックで優先順位をトーナメント表に書き込みながら、梅村は江渕や西野からの疑問に答える。ある程度の書き込みが終わったら、それを隣の席に居たマネージャーの七條に渡した。
「七條さん、優先順位は書き込んでおいたから、偵察班の割り振りはお願い出来る?」
「了解です。よく考えたらカノンって、1年生の頃は練習内容や道具の購入、偵察の優先順位まで決めていたんですよね。キャプテンとして超人過ぎる」
「偵察に関しては、マネージャーが増えたことが本当に有り難いし、いつも頼りにしてるよ」
「梅村さんは、お世辞下手だしマネージャー組に気を遣わなくて良いですよ。気持ちは嬉しいですけどね」
キャプテンの代理として奏音の代わりを務める梅村は、七條に気を遣い、逆に気を遣われる。
「……明るい私って、そんなに変?」
「変じゃないですけど、何と言うか……」
「無理してる感が凄いです」
「智賀ちゃん、それは言い過ぎだよ。でも詩野ちゃんは、素のままの方が安心感あると思う」
梅村が他の3人に問いかけると、春谷は言葉を濁し、江渕は思っていたことをそのまま伝える。そんな江渕を見て、言うようになったねと思いながらも西野は江渕を嗜め、普段通りの方が良い事を言った。
湘東学園は秋季県大会でシード扱いのため、試合は2回戦からになる。神奈川県の秋季県大会の参加校数は96校であり、トーナメント表は1回戦がある高校とない高校で綺麗に2対1と分かれる状態になった。
「初戦の相手は、下荻野高校読みですか。試合の方は、キッチリ撮って来ますよ」
「……うん。お願い」
湘東学園の初戦の相手は、下荻野高校対厚木清陵高校の勝者となる。下荻野高校は県大会で1回戦から始動しているものの、地区予選は1位通過をしている高校であり、決して油断出来る相手では無かった。
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