第228話 検査
U-18W杯アジア予選6試合目のマレーシア戦は、中4日で先発をした藤波さんが7回までを無失点で抑え、8回からは私が登板して完封リレーを成し遂げた。良い投手が揃っていたタイとは違って、マレーシアはどちらかと言えば打撃寄りのチームだったから、相手にとってこの完封リレーは痛かったと思う。
試合自体は23対0と、タイ戦の時よりも圧勝だった。この試合で私はサイクルホームランを達成したため、6試合で18本と1試合当たり3本のペースでホームランを打っていることになる。
「血液検査の結果、赤血球が平均より少し多いだけで、特に何の異常も無いですって言われた。採血したから、薬物検査のついでに色々と検査もしてくれたみたい」
「……本当に、災難だったわね。でも、白だって証明出来て良かったじゃない」
「良かった、かなぁ?」
薬物検査についての結果や、何故かついでに行なわれていた血液検査の結果も届いており、私が白だということは証明された。そして今日は、6連戦と6連戦の間の中日だ。プロになったらこの試合間隔で試合をするんだよねと思いつつ、今日はしっかり休む。
検査の結果、白という結果が出たことでこの騒ぎはあっという間に収束した。あまり良かったとは思えないけど、とりあえずこの件で騒ぎ立てたマスコミに関しては、謝罪があったか無かったで選別する基準が出来たから良かったかもしれない。
掲示板とかだと「お薬使ってないならマジでただの化け物じゃん」「薬使ってた選手がアレはそういう次元じゃないって言ってた」みたいな書き込みが散見される。いくらレベルの低いアジア予選とは言えども、打率10割キープは異常だしね。
「8割近い打率を残している真凡ちゃんも、十分に凄いと思うけどね。というか出塁率だと、ちょうど8割だっけ?」
「ピッタリ8割よ。全部単打だけど、次からの6連戦は上位にするって、岡沢監督から直接言われたわ」
「次からの6連戦は、もう下位の国としか当たらないからね。隠し玉がある可能性は、1次予選があったお陰で高くはないし」
「シード国って、相手がノーシード国なら1次予選のデータを見れるからその点では有利よね」
「いや、シード国だとネットに選手の情報も多いし、その辺は国によるよ」
明日行なわれるイラク戦は、最早芳田さんのナックルを大橋さんが捕れるかの勝負になっている。日本代表のキャッチャー陣は森友さん、篠宮先輩、大橋さんの3人だけど、森友さんも篠宮先輩も打つことが本職なキャッチャーだし、大橋さんが1番後逸の少ない捕手なんだよね。
その大橋さんでも、本番ではナックルのキャッチングに苦しんでいた。まさか国際球になることで、芳田さんのナックルが進化するとは誰も予想していなかったことだと思う。代表合宿の時の芳田さんのナックル動画、100万再生を優に超えているし。
大橋さんは身体を張って受け止めると言ってたけど、少し心配かな。怪我の恐れもあるし、そうなった場合は本格的に芳田さんが投げられなくなってしまう。篠宮先輩も、それなりにナックルの捕球は出来るけど、大橋さんに比べたら捕逸が多い。
「……向こうは合宿、頑張ってるかな」
「今日の朝に『何でイメージを鍛えていることを教えてくれなかったんですか?』って高谷から連絡があったわよ」
「あー、それは理由を聞きたい人が出て来るとは思っていたけど、高谷さんからか。別に、意地悪で教えなかったわけじゃないんだけど、そもそも真凡ちゃんはイメージを鍛えている自覚はあった?」
「自覚?……言われてみれば、確かに私はイメージして打っているけど、意識的に鍛えようと考えたことは無かったわね。むしろ言われてから、初めて気付いたぐらいよ?」
ふと、合宿に行っているメンバーが無事か心配になった。ベストの着脱をして意図的に絶不調を作り出すことで、その窮地から脱する、みたいなトレーニングをしているはずだけど、向こうから連絡がほとんど無いから不安になる。
でもまあ、9日目なら合宿所での生活にも慣れて来ただろうし、練習量が少しずつ増えるとは言っても余裕が出て来る頃なんじゃないかな?
「これは持論になるけど、意識して鍛え上げたイメージ力と、無意識下で身体が勝手に求め続けたイメージは違う気がするよ。だけど今まで、真凡ちゃんが無意識的にやっていたというのは意外だった」
「意識的に、イメージしようと思ったこともあるわよ?でもそれって、普段みんながしていることじゃない?」
「残念ながら、していないと思うよ。精々打席に立った時、相手ピッチャーのボールの軌道を軽く思い浮かべるぐらいだと思う」
真凡ちゃんと話していると、打てるイメージ作りに関して真凡ちゃんは本当に天才的だと思った。打つことに関して、ひたすら努力を積み重ねて来た結果でもあるけど。
本当の野球の天才は、その辺を感覚でクリアするけどね。根岸さんとか大村さんとか、純粋に野球の才能がある人達は、例えば変化球に対して『このぐらい落ちる』と感覚で分かってしまう。守備でも感覚でボールが捕れるし、詩野ちゃんはその最もたる例じゃないかな?
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