第192話 2点差
ツーアウトランナー無しという状況で、奏音に対して初球、真鍋は全力でストレートを投げ込む。その球速は134キロ。例年であれば、この球速だけでドラフト候補に挙がる。
(カノンと1打席も勝負せずに試合に勝って優勝、なんてことは出来ない。それならランナー無しの場面では敬遠しない、という結論になったけど……)
(低めのボール球から、か。ストレートを投げて来るなら、打ちに行っても良かったかな)
奏音は打ちに行けば良かったと思い、低めを意識して軽くバットを振った。対する真鍋は奏音を睨みつけ、絶対に抑える意思を示す。
(何で私が!打たれる前提なの!)
(スプリット?……これも、ボール球か。今の高さをホームランにするのは、ちょっと難しいね)
2球目は、ワンバウンドするスプリット。コントロールミスでは無く、横浜高校の捕手、新島(にいじま)のサイン通りの球だ。コントロールの良い真鍋は、ほぼ新島の要求通りの球を投げることが出来る。
(次は、ストライクからボールになるシュート……。勝負しているように見せかけて、結局歩かせることも視野にいれるのね。……出来ればこの球で、打ち損じて欲しい)
(どうせ次は、ストライクからボールになる変化球。持ち球を既に全部出しているなら、外だとカーブで、内ならシュート。2球続けてスプリットは無い。新島さんの性格的に、内の低めにシュートを要求しそうだね)
運命の3球目、真鍋はサイン通りに内へシュートを投げ込む。その球を奏音は読み切り、左足を外に踏み込んで引っ張った。弾丸のように打ち出されたボールは、一切落ちることなく、レフト側のポールに当たる。
奏音のホームランにより、湘東学園は3点目を獲得した。1対3と、湘東学園と横浜高校の点差は2点差になる。
「ナイスバッティングです!今のは、シュートを打ったんですよね?」
「あー、うん。読みに自信があったから、ボールになるシュートを打ちに行ったよ。……思っていたよりもダメージを受けてそうだし、たたみ掛けるなら今だよ」
ツーアウトから私がホームランを打ち、続く智賀ちゃんが私の真似をして内のシュートをツーベースヒットにするも、ここで真鍋さんが降板して、エース番号を背負った柳楽さんにピッチャーが変わった。球速は真鍋さんより速くないけど、リリーフで出て来るなら嫌なピッチャーだね。
ツーアウトランナー2塁の場面で、柳楽さんは敬遠気味に本城さんとの勝負を避ける。ツーアウトランナー1塁2塁で、7番の高谷さんが打席に立った。深呼吸してから打席に立ってと言ったけど、フォームが少しぎこちないからかなり緊張してるね。
高谷さんは1打席目に真鍋さんからヒットを打ってるから、今までの今大会打率は4打数4安打で10割。そんな高谷さんに代打は出せないし、打ってくれることを祈るしかないけど、高く上がったフライはセンターの守備範囲内。落とすはずもなく、スリーアウトでチェンジ。
結局この回は1点だけ取った形だけど、1点差が2点差になったのは大きいと思う。4回の攻防は互いに0点で終わり、迎えた5回表。優紀ちゃんは5回までの予定だけど、ナックルを見せ球に投げているから球数が嵩んでいて、思っていたよりも消耗が激しい。
「優紀はこの回までだけど、流石にナックルが使い物になってないレベルなのはバレたから、スライダーとシュートを中心に揺さぶって行く。だから外野陣は、特に長打を警戒しておいて」
「りょーかい。何とかして、リードは守りたいね」
守備位置に就く前に、詩野ちゃんの言葉に外野陣の私と智賀ちゃんと高谷さんは頷く。ナックルはもう投げないらしいけど、賢明な判断だと思う。スローボールになったら、ほぼ確実にホームランになるからね。横浜高校の打線は、その1球を見逃さないから強い。
5回表は7番の新島さんからで、下位打線だけど安心は出来ない。そして案の定、ナックルを一切使わないということも読まれているみたいで、初球からシュートを打たれてライト前へのヒットになる。
……横浜高校の打線って、打球も速いんだよね。次にセンター前ヒットを打って来たら2塁で刺したいとか思ったけど、全員足も速いから無理そうだ。
続くバッターは送りバントをして来たので、ワンナウトランナー2塁となる。ここで横浜高校は柳楽さんへの代打として、1年生を出して来た。
背番号は、18番か。名前は確か音坂(おとさか)さんで、詩野ちゃんはこの人の名前を見て1年生の警戒をすべきだと言ったはず。
音坂さんはカウント1-1からスライダーを打ち、3塁方向へゴロとなる。2塁ランナーの新島さんのスタートは早く、3塁へのアウトは難しい。だから打球を処理した聖ちゃんはファーストへ送球するけど、音坂さんはヘッドスライディングを決め、1塁はセーフとなった。
ワンナウトランナー1塁3塁と最悪に近い状況で、打順は上位に戻って1番へ。1点までなら許容範囲だけど、1点で抑えられるかは微妙かな。
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