第193話 判断
ワンナウトランナー1塁3塁で、バッターは俊足の1番バッター。スクイズもあり得るし、外野フライ狙いでヒッティングもあり得る。併殺は難しいから、内野ゴロで1点だね。
1塁ランナーが盗塁をしたら、1点を失う覚悟で刺しに行くけど、こちらの思惑は向こうにも伝わっているはず。1塁ランナーは同点のランナーだから、大切にすると思う。
ピンチの場面で、詩野ちゃんは1球目を外す。あの顔は、満塁にしても良いという顔だね。ここで敬遠をすると、ワンナウト満塁となって、守りやすくはなる。だけど、逆転のランナーが出ることになる。
2球目は比較的速いシュートをストライクゾーンに入れて、カウントは1-1。このタイミングで詩野ちゃんは横浜高校が仕掛けて来ると判断して、スクイズ警戒のサインを出した。
運命の3球目。横浜高校の1番バッターはバントの構えをし、3塁ランナーの新島さんはホームへ突っ込む。高めに外されたストレートに、相手バッターのバットは届き、3塁方向への小フライとなる。
この時、サードの聖ちゃんが何を考えていたのかは分からない。ノーバウンドで捕れなかったら、ホームでアウトになるタイミングでは無い。飛び込んで捕って、優紀ちゃんにトスし、3塁へ投げればダブルプレイは成立していた可能性が高い。飛び込んで捕れるかは微妙だけど、普段の聖ちゃんなら捕れたはず。
小フライになって、1塁ランナーの音坂さんが止まってしまったからかな?聖ちゃんは無理せずにワンバウンドで捕球し、2塁へ送球する。その送球を私が捕って2塁はフォースアウトとなり、全力で1塁へ転送するも、1塁はセーフ。新島さんはホームへ生還し、点差は1点差に詰められた。
「……聖さんは、大丈夫でしょうか?」
「……飛び込んで失敗するリスクを恐れて、1塁ランナーが止まったのを見て、安全策に行ったつもりが、バッターランナーの足の速さが飛んでたってところかな。相手の1塁ランナーも1年生で、塁間で止まっていたことも不運だったね」
智賀ちゃんが心配するぐらいには、聖ちゃんは2塁送球後にそのままの体勢で固まっていた。ミスというほどでも無い。普通のサードなら、まず選択肢が生まれなかったからだ。ノーバウンドで捕れなかっただろうから、捕球後はそのまま1塁へ送球して1塁でアウトになっていたはず。
点数状況は一緒でツーアウトランナー2塁になるのが、ツーアウトランナー1塁になったと考えればまだ気持ちは楽になったと思うけど、あの顔は捕れたことに気付いた顔だね。
2対3となり、状況はツーアウトランナー1塁。ここで相手は盗塁を仕掛けて来たけど、これは詩野ちゃんが読んで2塁で刺した。捕ってから2塁へ送球するまでが早すぎるし、何なら詩野ちゃんが投げた球は優紀ちゃんより速いかもしれない。
5回表が終わり、5回裏の攻撃を迎える。相手投手は、背番号12番の森田さんに代わった。身体の大きさは、私と同じぐらい。球速は柳楽さんと同じく129キロが出てるけど、最速は130キロ前後だと思う
「他の強豪校ならエースになれるような投手を、ポンポンと投入してくるのは勘弁して欲しいね。あ、聖ちゃんはさっきの失敗を引きずって、私が投げている時にエラーしたら許さないから」
「……はい」
「いや、あれは捕れないよ。私は近かったから分かるけど、あれを飛び込んで捕るのは無理だよ」
「うん、まあ、ミスじゃ無いんだけど、自分が1番分かってると思うよ?あと優紀ちゃんは、5回までお疲れ様。ナイスピッチングだったよ」
5回裏の攻撃は、3番の奈織先輩から。初見の投手相手でも打ちに行けるバッターではあるけど、外のボールに手を出してファーストフライになる。ワンナウトランナー無しで私の打席だけど、新島さんは座ったままだ。
これは、ランナー無しの時は勝負するって決めてそう。この場面で追加点は欲しいけど、3球続けて未知の変化球を投げ続けられたら私でも苦しい。
今日は後ろの智賀ちゃんが2打数2安打だし、無理せずヒットを打って智賀ちゃんに任せてみようかな?そう思っていると、内角低めのストライクゾーンいっぱいにカットボールが決まる。ボールから、ギリギリストライクになるカットボールは普通のバッターならまず打てない球だろうね。
これは真鍋さんとは逆で、ボールからストライクになる変化球が得意な投手なのかな?2球目は外角にチェンジアップが投げられ、見送ってカウント1-1。ここで少し新島さんと森田さんで、サイン交換に手間取る。
……たぶん、カットボールは柳楽さんのカットボールとほぼ同じ軌道だったね。同じ高校のピッチャー同士、変化球を教え合うことは珍しいことじゃない。このタイミングで迷うなら、森田さんもシュートは持っているのかな。
並行カウントから、1球外に速いボール球を投げられて、2-1とバッティングカウントに。新島さんは慎重な配球をするけど、慎重になるとその分投手のスタミナは消耗するんだよね。
4球目。インハイにまたカットボールを投げて来たので、今度は打つ。先ほどのカットボールよりもキレがあり、芯を外した打球はフェンスに当たってツーベースヒットとなった。
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