第169話 定期試験
1学期の期末試験は3回戦の後に行なわれるけど、御影監督の「赤点を取ったら甲子園に連れて行かない」発言を受けて、尻に火が付いた1年生は何人かいたみたい。元々、赤点や赤点ギリギリなら練習よりも補習優先とは言っていたけど、思っていたより現実を見ていない子は多かった。
「で、1軍で全体的にヤバいのは島谷さんと、宮守さんと、なかやんか。3人は私が面倒みるから、詩野ちゃんは文系科目がヤバい子を、久美ちゃんは理系科目がヤバい子を見てあげて」
「1年生の中で、頭が良い子はいるんですか?」
「聖ちゃんは中間テストで全体的に平均を少し超える程度だったし……光月ちゃんは?」
「……平均点より、下だったとは言ってたような気がする」
とりあえず、2年生の成績上位組が1軍メンバーの勉強を見ることに。島谷さんと宮守さんとなかやんは、2年生と同室だけどその利を活かして無かったみたい。というか2年生の練習時間に釣られて2年生と同室の子は練習時間が伸びた可能性もあるし、純粋に1年生の外野組は全体的に頭が良く無かったのもある。
中間試験で特にヤバい結果だった子を私が受け持って、残りの1軍面子は久美ちゃんが理系科目を、詩野ちゃんが文系科目を担当することに決める。智賀ちゃん、真凡ちゃん、優紀ちゃんに関しては1年生の面倒を見る余裕が無さそうなので、相互に教え合う形で勉強して貰おうかな。
私が受け持つ1年生に対しては試験期間までに、試験範囲の内容だけでも叩き込もうか。2回戦と3回戦の間は5日の空きがあるので、試験までには出来るようになるはず。
「……まあ、覚悟はしていたけど3人とも中間試験は学年ワースト10に入ってるね」
「あの、勉強できないとそんなにヤバいんですか?久美先輩には、ワースト10には入るなと言われてましたが」
「そもそも湘東学園の1年生は240人前後だけど、3年生は220人になると言われて察しない?赤点だらけだとわりと容赦なく留年させられるから、スポーツ推薦の島谷さんも赤点だけは避けてね?」
入学当初の湘東学園の1学年の人数は、240人ほど。1クラス40人で、それが6組まである状態だけど、3年生になるとこれが1クラス36人から37人程度になる。運動部は多少の考慮をされるし、教師によってはお情けで赤点を回避することは出来るけど、赤点が3つ溜まったらその時点で容赦なく留年させられるから注意しないといけない。
……一先ず、この3人は私が面倒をしっかり見ないと留年しかねないね。湘東学園に一般入試で入れた時点で宮守さんもなかやんも馬鹿では無いと証明されているけど、島谷さんはちょっと怪しいかな。
「最悪、島谷さんは留年に関して大丈夫かもしれないけど、監督がああ言ったからには赤点を回避しないと試合に出して貰えないよ。というか、島谷さんは久美ちゃんに勉強を教えて貰ってたんじゃないの?」
「たまに教えて貰ったりはしていましたが、途中で授業の言語が異世界語になりました」
「私も授業中に1回寝ちゃって、それから全く分からなくなりました。以降、授業中は睡眠時間です!」
「……なかやんは、今日は寝かさないからね?特に数学44点と英語41点は、優紀ちゃんよりヤバいんだから」
1年生の1学期の中間テストは最下位でも50点付近を取れるテストだから、なかやんの成績はかなり不味い。というか数学と英語は、学年最下位じゃないかな?赤点は40点未満なので、デッドラインが迫っている状態。未来の大砲候補をここで失うわけにはいかないので、しっかり1から教えることにする。
「……カノン先輩って、勉強を教えるの上手いですよね?」
「出来ない人が躓くポイントというのは、知ってるからね。そこを解消できるように教えるのは、得意な方なのかな?」
勉強している途中に、島谷さんが私の教え方が上手いと言って来たけど、単純に私も勉強が出来ない側だったので躓くポイントというのをよく知っているだけだと思う。前世の大学時代は、高校の復習になるような講義も多めに取っていたし、地味にそれが大きい気もする。
単純に単位が取りやすいから、その講義を取っていただけなんだけどね。あと勉強が分かるようになってから挑む高校の授業と言うのは、案外退屈しない。先生がどのようにして指導する内容を教えようとしているのか、分かるからかな。
3回戦までの間は、三村さん対策に智賀ちゃんの球を打ったり、勉強の面倒を見ながら過ごす。三村さんのカーブと智賀ちゃんのカーブは変化量が違うけど、カーブの球速は同じぐらいだろうし、良い練習になる。智賀ちゃんは公式戦で投手として投げなくなったけど、こうして練習に協力してくれるのは有り難い。
あとは1年生投手の中で、右利きかつカーブを投げられる子にも打撃投手をお願いする。投手側はカーブを投げる練習にもなるし、シート打撃は個人的に練習の中で一二を争うぐらい良い練習だと思っている。実戦形式だからこそ、学ぶものも多いしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます