第168話 川崎立花

小田原学園と川崎立花の試合は4回表を迎えて、三村さんは四球からワンアウトランナー2塁というピンチを迎えた。しかし内外へコントロール良く直球とカーブを放り込み、後続のバッターを抑えて0点でピンチを凌ぐ。試合は0対3と3点差だし、このまま勝負が決まりそうだね。


「秋の時よりも、かなり内外へのコントロールが良いね。高さは気にせず、内と外へのコントロールだけを磨いたのかな」

「かなり上からの、縦投げになっていますし、冬の間にフォームを改造したのでしょう。今までシュートとツーシームしか投げていなかったので、あのカーブは厄介ですね」

「あのカーブは、元エースから教わったという線もありそうだね。今の川崎立花の10番が秋大だとエースだったけど、結構大きく曲がるカーブを投げていたし、変化の仕方は似ていると思うよ」


久美ちゃんが、縦投げになってますねと言いながら三村さんの投げ方を真似するけど、縦に腕を振るようにしても、必ずコントロールが上がるというわけではない。だけど、三村さんの場合は上手く行ったのかな。


三村さんの持ち球は、秋の時も投げていたツーシームとシュートに加えて、大きく曲がるカーブかな。投げ方が変わったし、縦回転が増したように見える。だから重い球では無くなったのかなと思ったら、小田原打線の打球はほとんど外野へ飛んでいない。


1回戦は5点を取っている打線だから、小田原学園は決して打てない高校じゃないはず。それでも体格の良い人の打球がほとんど外野まで飛んでいないことを考えると、三村さんの重い球は健在なのだと思う。今までのヒットは、初回に打たれた二遊間を抜けるセンター前ヒットと、サードへの内野安打だけ。


ほとんどを内野へのフライやゴロで打ち取っているから、テンポ良く抑えているのも三村さんの良い所だね。これは来年、さらに成長されたら厄介な投手になりそうだ。


6回裏に1点を追加した川崎立花は、そのまま0対4で小田原学園に勝利。三村さんは最終回まで終始安定したピッチングだったし、生で見ておいて良かった。


ふと掲示板を覗くと、履陰社が延長戦の末、銀光大阪を相手に3対4で負けたことが書かれている。……春の選抜甲子園準優勝校が、初戦で敗退とか何があったのかと気になったけど、純粋に銀光大阪の方が強かったみたい。


U-18日本代表に3人も選出されている高校が、初戦負けとか大阪の魔境っぷりが半端ない。エースの浦田さんが、4回を投げて4失点とか対策されまくったのかな。他にも他県のジャイアントキリングの情報が幾つか流れて来ているので、100回大会に向けて隠し玉を保有している高校は多かったということだね。


「履陰社が負けたの!?えっ?嘘でしょ!?」

「優紀ちゃん、落ち着いて。履陰社の対戦相手は、シード漏れをした強豪校だよ。春の県大会でも大阪桐正を相手に2対1だし、かなり強い高校みたい」

「……銀光大阪は過去に3回、甲子園に出ている強豪校ですね。近年は大阪桐正に蹂躙される側でしたが、100回大会に照準を合わせていたのだと思います。履陰社は、この試合が夏の初戦だったという影響もありそうですね」


春の甲子園で私達に勝った履陰社が負けたことには、少なからずみんな驚いている。七條さんがパッと調べたところだと、履陰社の対戦相手は復活を望む元強豪校で、100回大会に合わせてエースを隠していたらしい。


銀光大阪は履陰社の選抜甲子園決勝戦までの試合を、全て解析したようで、データ班の活躍も大きかったとか。私達も弱点とかは丸裸にされている可能性は高いし、これから先、データ班を持っているような強豪校とも当たるから注意しないといけないね。


……弱点を突かれ続けての初戦敗退、か。一応、U-18代表組は打ったそうだけど、反撃するのも遅かったみたい。何気に銀光大阪は、1回戦をコールド勝ちしている点も大きかったと思う。勢いに乗ったまま、夏の初戦に挑む履陰社と戦うことになったのだから、運も味方したのかな。


次の対戦相手が決まり、今日の試合の反省会をした後はミーティング。3回戦は久美ちゃんが先発で、完投予定だ。万が一があったら、島谷さんに交代する形になるかな。今日の試合を観た限りだと、川崎立花の打線の方は警戒するほどでも無かった。


まあ、久美ちゃんと三村さんの球速は近いし、油断は出来ないんだけどね。どちらかと言うと、課題は打つ方だと思う。去年の秋から、球威もパワーアップしているとなると、真凡ちゃんや聖ちゃんだとヒットを打つのが厳しくなるかもしれない。


パワー型の私、智賀ちゃん、本城さんの中軸がしっかりと仕事をしないとコールド勝ちは難しいかもしれないし、試合展開は三村さんの調子次第かな。そう決まったところで、御影監督から何人かの野球部員に死の宣告が送られる。


「ああ、それと言い忘れてたけどな。期末で赤点取ったら甲子園行けても連れて行かんから勉強せえや?」


その言葉に、悲鳴を上げる1年生はそこそこ多かった。

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