第167話 プロアマ規定
2回戦を5回コールドで勝った湘東学園は、勝った方が次の対戦相手となる川崎立花対小田原学園の試合を観戦する。先攻は小田原学園で、マウンド上には川崎立花の背番号1番、三村さんが投球練習をしていた。
「MAX126キロだから秋より速くなってるし、身体も大きくなってるね。このポテンシャルの投手が、今まで無名だったのが不思議だよ」
「三村さんの経歴は調べましたが、中学時代は卓球をしていたようですね。県大会でベスト4に入ったこともあるそうです」
「野球を始めたのは高校に入ってからで、それまではたまに友人達と集まって野球をする程度の野球歴でした。ただその集まりでも、ピッチャーはやっていたみたいですね」
「……久美ちゃんはともかく、七條さんは何処からその情報を仕入れたの?」
同世代ということで三村さんに関しては久美ちゃんと七條さんが調べてくれていたけど、どうやって調べたんだろう?久美ちゃんの情報はまだ簡単に入手出来るものだけど、七條さんの「友人達と集まって野球をしていた」とかは絶対普通の調べ方をしていないはず。
「SNSでのつぶやきとかを辿れば簡単に分かりますよ。アカウントを特定するのは少し時間がかかりましたが、それでも10分もかかってないです」
「……三村さん、本名ではSNSやってないよね?」
「それはそうですけど、結構写真とかは撮っていた人なので……中学の入学式の時に、スマホを買ったところまで捕捉していますよ?」
「えぇ……」
気になったので七條さんに直接聞いてみると、SNSのアカウントを特定したと聞いて、聞かない方が良かったなと後悔した。私や聖ちゃんは本名でやっているけど、三村さんは本名ではやってなかったはずなので、ちょっとしたホラーだ。
まあでも、中学時代は野球をほとんどしていないのであれば知名度の低さは納得だし、卓球をしていたのは意外だった。卓球を続けなかった理由とか、あるのかな?
試合の方は三村さんが立ち上がりにヒットを1本打たれたけど、後続を抑えて小田原学園を0点に抑える。一方で川崎立花は打線が繋がり、4番の三村さんがタイムリーツーベースヒットを打ったことで2点を先制。2回の表裏が終了し、0対3と川崎立花がリードする展開になった。
昨年の秋大会、湘東学園と川崎立花の試合は11対0と一方的なコールドゲームだったけど、今回は簡単には勝たせてくれないだろうね。そう思っていたら、久美ちゃんが上擦った声で話しかけて来た。
「カノンさん、プロアマ規定がトレンド入りしていたので何事かと思ったら、プロアマ規定が今年の8月から改定されるそうです。現役プロ野球選手が、母校の高校生相手にも指導が出来ると話題になってますよ」
「本当!?あ、もしかしてU-18のためなのかな?」
「その可能性は高いですが、1つ言えることはOGにプロ野球選手が多い古豪は幾らでも選手を呼べるので、歴史のある高校ほど恩恵は大きいですね」
「……湘東学園にはプロ野球選手のOGなんていないし、神奈川で恩恵が大きいのは横浜高校と東洋大相模だろうね。でも、ようやくプロアマ規定が解除されるのなら嬉しいことではあるね」
前世では私が死ぬまでプロアマ規定はあったはずだけど、女子野球の知名度が世界的に高いから、こういうこともあるのかな?理由に関してはU-18W杯で日本が1回も優勝していないことや、プロ側の要望が多かったこと、日本の野球レベルを底上げするために改定すると書いてある。
「あの、すいません。プロアマ規定って何ですか?」
「あ、私も気になる。言葉だけは知ってるし、何となくは分かるけど、詳しい内容までは知らないのよね」
「んー、簡潔に言うと、今まではプロがアマを指導出来なかったんだよ。プロ野球選手は退団後も、高校生や大学生の指導は出来なかったの。その制限は段々と解除されていったんだけど、まだ『許可があれば交流することが出来る』という決まりがあるから、逆に許可が無ければ交流すら出来なかったんだよね」
「それが今回の改定により、指導まで出来るようになります。母校に里帰りするついでに、野球部員へアドバイスをしたりノックをすることが可能になりますね」
智賀ちゃんと真凡ちゃんがプロアマ規定について聞いて来たので、一応掻い摘んで教えておく。とにかく今までは引退したプロでもアマを指導するには条件が必要だったけど、それが今回の改定によって無くなるということだね。
まあ、湘東学園にはプロ野球選手になったOGなんて居ないんだけど。湘東学園がこの恩恵を授かれるのは、私達の世代がプロになってからかな。一方でプロを多数輩出して来た古豪や強豪校は、夏からかなりの恩恵を受けられる。
特に今年の夏、甲子園に行けなかった高校とかが夏合宿から元プロ野球選手を制限無く呼べるのは大きい。8月の下旬からU-18W杯が始まるから、8月開始というのはそのためなのかな。現段階での湘東学園にとっては有り難いような、有り難くないような話だけど、日本の野球レベルが上がるというのは素直に喜ばしいことだね。
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