第162話 甲子園に向けて

夏の甲子園は、春よりも特別な印象を受ける。春の甲子園は途中で負けても甲子園に出られる可能性があるけど、夏の甲子園は途中で負けるとその時点で脱落するからかな。最後まで負けなかった高校が、甲子園に出場する。


今回は、64校が甲子園に出場するので神奈川からは2校が甲子園に出る。湘東学園が属する南神奈川県大会の組み合わせ抽選会の日がやって来たので、詩野ちゃんと久美ちゃんを引き連れて会場へと向かった。


「うわ、カノンさんがいる」

「湘東学園って、Aシードよね?どの山に入るんだろう……」

「カノンだ!生カノンだ!」


すると昨年とは別の意味で、私達は注目を集める。久美ちゃんは去年の抽選会にも来ていたから憶えていると思うけど、あの頃は完全なイロモノ扱いだったんだよね。それが1年でここまで変わるのだから、ちょっとした優越感とかも感じてしまう。


「Aシードは湘東学園、横浜高校の2校?」

「そうなりますね。ですから湘東学園と横浜高校は、1番と99番のくじしか引きません。代わりにBシードが6校ですね」

「というか、カノンが最初に引かないといけないんじゃないの?早めに行っておいたら?」


群雄割拠と言われる北神奈川大会とは違い、南神奈川大会は横浜と湘東学園の2強という見方をする人が多い。この2校が山の両端に入るので、大きな事故は起こらないと思う。地味にBシードの鎌倉学院がどこの山に入るのかは、大きい気がする。


詩野ちゃんに急かされていると、湘東学園が呼ばれたのでくじを引きに行く。2枚しか伏せていないパネルの前に立つと、一斉に記者達が写真を撮り始めた。春季県大会に優勝したから仕方ないけど、1番最初にくじを引くのは緊張するね。


それでもどこに入るか分からないくじを引くよりか、気持ちは幾分か楽だ。何となく右の札を選ぶと、1番のパネルだったので幸先は良い。私に続いて、横浜高校のキャプテンである柳楽(なぎら)さんが残ったもう片方のくじ、99番を引く。


……確か、柳楽さんはガールズの中国地区大会で活躍をしていた投手かな。右投げ右打ちで最速129キロの直球に、変化球はカットボールとドロップカーブ、縦スラと久美ちゃんの持ち球とよく似ている。


関東大会では多久大光陵戦で投げていて、あまり弱点らしい弱点は見れなかったけど、ストレートはシュート回転気味かな。横浜高校がくじを引いた後は、シード校のキャプテンが次々と列に並ぶ。南神奈川県大会は99校もの高校が出場するけど、去年の夏の抽選会とかは凄く時間がかかったから、これでも少なく感じるね。


湘東学園の入ったAブロックは、藤沢高校ぐらいしか強い高校はいない。一方で横浜高校が入ったDブロックも、強い高校は慶凰大付属藤沢高校だけかな。その慶凰大付属藤沢高校も私達が春の県大会4回戦で9対3と圧勝した高校だし、横浜高校が勝ち上がりそう。


BブロックとCブロックは、どこが勝ち上がるのか予測が出来ない。Cブロックは鎌倉学院が勝ち上がりそうだけど、こういう時はノーマークだった高校が勝ち上がって来ることも多いし、どこも100回記念大会は狙い目にしているから、隠し玉を用意している高校も多いと思う。



カノン:1番引いた

カノン:【やぐら全体の写真】

久美:Aブロックの写真です【Aブロックの写真】

詩野:カノンの写真文字潰れてて読めない

カノン:え、うそ

西野:大体分かるから大丈夫だよ

真凡:何か、去年を思い出す位置ね

カノン:去年は1番に東洋大相模の、3番に湘東学園だったからね

詩野:とりあえず初戦の相手が決まるまでは気楽に構えよう

久美:初戦の相手は平塚商科と平塚江洋の勝者ですね

久美:どちらも春の大会は地区予選敗退です

ちか:了解です!

真凡:どっちが勝っても似たような感じだし、初戦は島谷が投げるの?

カノン:夏の大会だし、初戦は優紀ちゃんが投げるよ。だから優紀ちゃんはそのつもりでいてね

西野:分かった



夏の大会は、基本的にコールド勝ちを狙う方針で、4回までに10点差を付けるよう戦うつもりだ。最後は連戦になるし、試合が詰まっているから、投手陣は少しでも楽にさせてあげたい。


それでも夏の初戦だけは、優紀ちゃんが先発かな。関東大会での復帰戦は若干燃えたけど、以降の練習試合はツーシームを取得したこともあり、どんどん厄介な投手に成長している。ゴロを打たせて取るタイプの投手は、球数を節約できるのでスタミナの消費も少なくなる。


島谷さんの登板機会はあるだろうけど、宮守さんはあるか微妙。だけど宮守さんと入れ替えで浜川さんや尾崎さんを上げるぐらいなら宮守さんの方が良いだろうし、及川さんを上げると左投げが3人と偏るから投手の入れ替えは見送った。


一方で、野手の方は練習試合で結果を出せて無かった外野手の上田さんを外して、同じく外野手の高谷さんを1軍に上げている。大会前の入れ替えは1対1で守備と打撃のテストをしたけど、どちらも高谷さんに軍配が上がったので入れ替えとなった。


……高谷さん本人は2軍に居たかったようだけど、2軍も大会期間中は練習試合を組めないし、1軍に居た方が良いと思う。1年生は聖ちゃんがサードで、光月ちゃんが守備固め。高谷さんとなかやんは代打で出ることになりそうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る