第161話 春季関東地区大会
5月の下旬に春季関東地区大会が行なわれたけど、湘東学園は2回戦で日大産と当たり、見事に負けた。1年生中心のオーダーで、優紀ちゃんが復帰後初先発だったからかそれなりに燃えたけど、それでも6対5と健闘はした気がする。捕手を務めた坂上さんも、優紀ちゃんとの相性は良さそうだった。
「で、一月後には夏の予選が始まるわけだけど、2軍の子達の調子は凄く良いね」
「春の県大会ベスト16級を相手に、合宿後は4戦全勝ですからね。特に、及川さんの成長が凄まじいです」
「島谷さんがいるせいで目立ってないけど、普通の中堅校ならエースとして育てられるような素質だからね。2軍で経験を積めているのは、大きいよ」
「その島谷さんも、載っているわよ。関東大会の初戦で、5回を無失点は凄いって評価だったから」
教室で久美ちゃんと話していると『月刊高校野球 神奈川版6月号』を真凡ちゃんが買って来たので読ませてもらう。主な話題はU-18日本代表候補が集まった合宿で、後は春の県大会の結果や関東大会での横浜高校と湘東学園の活躍ぶりが書かれている。
ちなみに横浜高校は2回戦で芳田さん率いる多久大光陵に敗れて湘東学園と同じく2回戦敗退。向こうは多久大光陵と本気でぶつかり合っているので、良いデータも撮れた。いや、湘東学園もわりと本気だったけどね?
優紀ちゃんが投げられるようになり、久しぶりとなった登板ではコントロールミスが若干あったものの、最高球速は122キロをマークしており、久美ちゃんとの球速差は5キロ差まで迫っている。
ただ優紀ちゃんはこれ以上球速を上げるよりも、変化球を磨いて行った方が良い。そっちの方が伸びやすいだろうし、ツーシームもワンシームも、早くも自分の物にしようとしてるし。
「大槻さんは、関東大会で138キロをマーク。最後の夏の大会は、140キロを出しそうだね」
「日本人高校生の歴代最高球速って、141キロよね?それとほぼ変わらないって、化け物じゃない?」
「その人、日本人最速の146キロも投げているから、大槻さんもいずれは日本最速を狙えそうだね。ただ、北神奈川にはユーリさんもいるからなぁ……」
今年の夏の大会は100回記念ということで、北神奈川県大会と南神奈川県大会に分かれる。普段よりも、夏の甲子園という特別な舞台に立てる可能性は高いし、もう湘東学園は南神奈川の優勝候補の一角だ。県大会で優勝するだけの戦力は、十分に揃っていると思う。
「……結局、大阪の方は履陰社と大阪桐正が分かれるみたいだよ。これで大阪から出て来る2校は、大阪桐正と履陰社でほぼ決まりって見方をしている人は多いし、私もその1人」
「今になって決まるとか、相当協議したんだろうね。……ある程度は、興業重視になるのは仕方ないか」
詩野ちゃんが、大阪からは履陰社と大阪桐正が勝ち上がるだろうと言っているけど、私はそうは思わない。大坂には履陰社や大坂桐正に匹敵するぐらいの高校がひしめいているし、もしかしたら履陰社の方は途中で負けるかもしれない。
……ただ、大阪桐正は勝ち上がって来るだろうな。春の甲子園で、優勝候補が前評判通りの試合展開をして、優勝するということは他の甲子園出場校とは一線を画す実力差ということだ。
今から甲子園のことを考えても仕方ないけど、絶対に甲子園には出たいし、それまでの道中で躓くわけにはいかない。大会直前にも1年生を入れ替える予定ではあるので、2軍で調子の良い子を1軍に上げたいね。
「2軍の投手って、今は浜川さんと尾崎さんと及川さんでローテーション出来てるのか。……春の県大会ベスト16級が相手なら抑えられているし、最近は守備練習が多いからか失点の少なさが目立つね」
「2軍と言えば、水江のあれはどうにかならないの?この前は、牛山を背中に乗せて腕立て伏せをしてたわよ?」
「……過度な筋トレとかは止めてと散々言ってるけど、目に見えない範囲で努力され始める方が厄介だし、怪我が無いように警戒し続けるしかないね。それに私達も、片腕立て伏せとかするじゃん。傍から見れば、どっちもドMだよ」
真凡ちゃんが水江さんの心配しているけど、過剰に練習をするという子は、個人的には嫌いになれない。私達も傍から見ればおかしい量の練習を積み重ねて来たし、今の2年生達に練習を強いたしね。
水江さんの場合は何かが逆転しているけど、野球が上手くなりたいという気持ちも本物だろうし、怪我のリスクが低くて性癖を満たせるような練習に切り替えていく方針。当分は、筋トレに励んで貰うつもりだけど。
牛山さんの方は、将来の大砲枠として高谷さんと争える素質があるし、毎日のように成長している姿を見るのが本当に楽しい。たぶん今の1年生が3年生になる頃には、聖ちゃん、光月ちゃん、高谷さん、牛山さん、中谷さんの並びの上位打線になっているかな。
まだ牛山さんは守備が上手く無いし、水江さんも内野手としてどこを守らせても中途半端と言う状態。及川さんも、島谷さんに敵うレベルでは無い。それでも2軍がこの調子で練習試合を組めるのなら、成長するのは思っていたより早いかもしれないね。
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