第160話 お持ち帰り
合宿最終日の入れ替え戦は、1軍対2軍が4対1で1軍の勝ち、2軍対3軍が5対1で3軍の勝ちとなった。この結果から2軍の降格ライン上メンバーと3軍の昇格ライン上メンバーが総入れ替えとなり、牛山さんや水江さん、及川さん達は2軍となった。
一方で1軍と2軍メンバーの入れ替えは、1番結果を残してなかった下田さんが2軍へ降格となり、代わりに2軍の捕手だった原田さんと内野手の関口(せきぐち) 賢美(さとみ)さんの2人が昇格。捕手は元々3人目が欲しかったし、関口さんはファーストも守れる走攻守が揃った選手だね。
これで1軍が20人になったし、2軍は19人になったけど、試合に出なかった3軍選手にチャンスを与える方針のようで、後日に2軍監督の萩原監督が独断でショートの平口(ひらぐち) 勝代(かつよ)さんを2軍に昇格させた。
この時期の1年生の子はちょっとしたことでコツを掴んだりもするから、極力入れ替えは激しくしていきたいね。
そして合宿が終わって春期関東大会に向け日常に戻ったとある日のこと。唐突に私は襲われたのでそのことについて隣の部屋の詩野ちゃんに話す。
「……襲われたってどういうこと?相手は誰?」
「近所の中学生、かな?」
「え、この辺の中学生に知り合いがいたの?」
「初対面だよ?」
すると詩野ちゃんが頓珍漢なことを言い始めたので、スパイクを買いに行ったついでにコンビニに寄って、その時に不良グループに絡まれたことを話した。中学生っぽかったけど、たぶん中学3年生かな?
「ああ、中学生の不良グループは幾つかあるね。……カノンはよく無事だったね?」
「最初はお金を出せ、みたいなことを言っていたんだけど、なんやかんやあって野球を教えて来たよ」
「そのなんやかんやが気になるけど、暴力は振るってないよね?怪我は無い?」
「金属バットを素手で受け止めたけど、怪我はしてないよ。……で、そのまま金属バットを相手から取り上げたんだけど、いつの間にか持って帰って来ちゃった」
コンビニにはスマホのゲームに課金するためのあっぷ券を買いに行ったんだけど、結構な額を支払い時に払っていたから、お金持ちに見えたんだろうね。高校生が相手でも、囲めば何とかなると考えていたっぽい。最近の中学生は、考え方が物騒で困る。
一悶着あったことはあったんだけど、相手側が持っていた金属バットを取り上げて柄にもなく説教していたら、いつの間にか野球を教える流れになった。その後、仲良くなって別れたらそのまま金属バットを持って帰ってしまっていたという事案。名前も書いてないし、連絡手段は無いからどうしようもない。
「カノンは有名だし、とりあえずその不良達が湘東学園に来た時にでも返したら良いんじゃない?たぶん、近所に住む子でしょ?」
「あ、それもそっか。しかしまあ、スパイクを買いに行くついでに普段とは違うコンビニであっぷ券買ったのが不味かったのかなぁ」
「どう考えても、それが原因ですよね?それで今回は、何万円突っ込んだんですか?」
「ディーの為に9万課金した。……聞いておいて引かないでよ。この前の天井×3の時よりはマシだし」
詩野ちゃんと話していたら、同室の光月ちゃんが冷静に突っ込んで来た。私は普段の運は良い方だけど、ガチャ運は無いようなので天井頼りになっている。モングラへの課金は今回のガチャを引き終わったらしばらく自粛するつもりだけど、次は水着ガチャで引くんだろうなぁ。
「1年生の間でも、話題になってますよ。湘東学園野球部ギルドが全鯖5位とか、カノン先輩は何をしているんですかという気持ちになるんですけど」
「いや、結構1年生にもやり込んでいた子が多いし、野球部内で募集かけたらあっという間に30人に到達したし……」
「カノンが七條にギルド入ってってお願いしていた姿は、たぶん一生忘れないだろうね」
「忘れてよ!七條さんも完全にガチ勢だったから、お願いするのは仕方ないじゃん」
七條さんは私が始めた時期にこっそりと始めていたようで、トップギルドの一員だったのをお願いして私のギルドに入って貰っている。私の課金の力も相まって、全鯖5位になっているからモングラ界隈でも話題になっている。
……こっちの掲示板では「カノン練習しろ」とか書かれているけど、放置自動周回ゲーだから練習はちゃんとしてるよ?
「でも野球を教えたってことは、その絡んで来た子は、才能のある子だったんでしょ?」
「え?うん。番長って呼ばれてた子、私より背が高かったからね。体格も良かったし、スポーツをしていないのが勿体無いぐらいだった」
「……来年、湘東学園に入って来るんじゃない?」
「……うーん。優紀ちゃんでも入れたことを考えると、今の時期から本気で勉強すれば入れるかもね」
彼女が持っていた金属バットは、少し折れ曲がっている。……改心して野球に打ち込むのなら、それはそれで良い事だと思うな。
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