第159話 入れ替え戦
合宿最終日。1軍対2軍の試合と2軍対3軍の試合は同時に行なわれるけど、投手が基本1人だから、試合は5回までとなった。最初は、1軍対2軍の試合に注目する。1軍の先発は宮守さんで、2軍の先発は浜川さん。
どちらかと言うと浜川さんの方が投手としての総合力は高いし、浜川さんの中学時代は弱いチームに居たけどエースだったんだよね。一方で宮守さんは優紀ちゃんと同じで、弱小校の控え投手だった。マウンド度胸というステータスがあるなら、浜川さんの方が上かな。
湘東学園 1軍 スターティングメンバー
1番 左翼手 下田海里
2番 三塁手 井原美琴
3番 ニ塁手 鳥本奈織
4番 一塁手 勝本光月
5番 右翼手 中谷雅子
6番 中堅手 上田香衣
7番 遊撃手 熊川茉莉
8番 捕手 坂上清香
9番 投手 宮守瑞輝
……1軍のセカンドには、聖ちゃんじゃ無くて奈織先輩が選ばれた。これで2軍が勝つと総入れ替えになるので、奈織先輩は夏の大会直前まで2軍ということになる。
これに対しては真凡ちゃんが文句を言ったけど、勝負の世界は実力が第一だ。そもそもセカンド単体で見た時、選手としての力量は贔屓目で見ても奈織先輩より聖ちゃんの方が上になる。
二遊間の守備は選手間の相性もあるし、ショートに美織先輩を置いた時の連携は流石に奈織先輩の方が上だけど、別に聖ちゃんの守備連携が悪いわけでもない。
こういう時は、本当に複雑な気持ちになる。そしてこれから先の湘東学園では、よく見られる光景になる可能性が高い。試合は1軍の先攻で始まり、浜川さんの調子は好調そうだから、2軍が勝つ可能性は十分にあるね。
しかしツーアウトから、3番の奈織先輩が意地を見せてツーベースヒット。この1年間、130キロ超えの超高校級投手とは対戦し続けたし、今さら120キロ前後の球に手古摺る奈織先輩では無い。
続く光月ちゃんもヒットを打ち、奈織先輩はホームへ還る。あっさりと1軍が先制して、少し緊張していた1軍メンバーの気持ちは楽になったのか、なかやんと上田さんも連打で続き、1回表が終わって2対0となった。
そして2軍を相手に投げる宮守さんは、初回の3人を三者凡退で抑える。宮守さんが三者凡退で抑えたの、初めて見たかもしれない。あの縦スラは1年生らしくない変化量だし、2軍で捉えられる人は居ないかな。
そう思っていたら、3対0の2回裏に高谷さんがホームランを打って3対1になる。2軍の4番には、高谷さんが居座っているんだよね。高谷さんには納得するまで2軍に居て良いとは言ったけど、こうも打っている姿を目撃すると普通に1軍で使いたい気持ちになる。
「3軍戦の方はどうなってる?」
「……3回を終わって、3軍側が3対0とリードしてるわよ。カノンが言っていた牛山って子、ホームランを打ったし、パワフルな子ね」
「そっちは入れ替えが起きそうなんだ。2軍対3軍で投げているの2軍ピッチャーは、尾崎さんか。7回までスタミナが持つかも怪しいし、5回終了で正解だね」
3軍戦の方を見ていた真凡ちゃんは、1軍が勝ちそうなことを伝えると1軍対2軍の試合の方へ観戦に行った。今こっちの2軍対3軍の試合を見ているのは、私について来た智賀ちゃんと久美ちゃんと聖ちゃんか。
「……次は、あの牛山さんがカノン先輩のお気に入り選手です?」
「え、何?怖いんだけど。
私が注目してるの、水江さんの方だよ」
「あのドMちゃんですか。カノンさんは、Mっ気のある子の方が好きなんですか?」
「久美ちゃんは、私の好みを知ってるでしょ?あと流石にドMちゃん呼びは可哀想過ぎるから止めてあげよう?」
牛山さんと水江さんの守備の動きに注目していると、少し嫉妬の感情が混ざった声で聖ちゃんに話しかけられる。なんか私が節操無しみたいな物言いだけど、単純に伸びしろのありそうな子を育てようとしているだけだからお気に入りとかそういう訳では……あるのかな?
ドMちゃん呼びをされた水江さんは、とにかく過度の負荷をかけて身体をボロボロにするまでトレーニングするのが好きな子で、タイヤ引きの量なら湘東学園で1番じゃないのかな。……ロープが身体に食い込む感覚を好んでいるようで、よく無茶な練習をしている。牛山さんと、よくペアにもなっている子だね。
その負荷トレーニングのお陰か、水江さんの基礎体力や身体能力は1ヵ月という短期間でかなり伸びた。野球の上手さという面ではまだまだだけど、足は速いから守備範囲も広いね。
3軍の先発ピッチャーは、最初の体力テストで1番最初に脱落した及川(おいかわ) 若菜(わかな)さん。最初は陸上部かよという走り込みの量に付いて行けて無かったけど、ちゃんとみんなと同じ量の練習はこなすように頑張っていたし、根性はある子だ。
久美ちゃん、島谷さん、及川さんの3人が、湘東学園の左投げの投手だ。及川さんはスライダーしか使えないけど、最速は123キロなので楽しみな1年生ではある。最も、コントロールは島谷さんや宮守さん以上に酷い。最初の1軍試験に志望しないだけの、理由はあった。
その酷いコントロールを修正はし切れてないけど、勢いのある直球はそれだけで打ち辛い。4回を迎えてスタミナが切れてきたようだけど、根性で投げている。将来的には、島谷さんのライバルになりそうだね。
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