第149話 1年生対決

春季神奈川県大会準決勝、統光学園対湘東学園の試合は、両先発が1年生ということもあり、注目を集めた。準決勝まで進出した時点で、統光学園も湘東学園も既にAシードを獲得していて、夏の本番に向けて情報は隠したい状態になったからだね。


だから両校ともに、新戦力を試す場にもなっている。こちらの先発は、宮守さん。縦に落ちるスライダーを2種類持っていて、ストレートもMAXで117キロと1年生のこの時期なら速い方だ。この時期の優紀ちゃんとか、MAXが110キロも無かったし。


宮守さんには、スタミナを気にせずに全力で投げてと伝えてある。後ろに控えるのは、左腕の島谷さん。今日の試合は、1年生リレーだね。


宮守さんにとっては1軍の初マウンドが春大準決勝の先発という、緊張しかしないような場面だけど、宮守さんのこれからを試す場でもある。今日の経験は、必ず活かされると思いたい。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 左翼手 伊藤真凡

2番 捕手  梅村詩野

3番 三塁手 木南聖

4番 中堅手 実松奏音

5番 右翼手 江渕智賀

6番 一塁手 本城友樹

7番 遊撃手 鳥本美織

8番 ニ塁手 鳥本奈織

9番 投手  宮守瑞輝



まずは初回、先頭バッターを宮守さんが四球で出してしまい、盗塁も間に合ってノーアウトランナー2塁という場面を迎える。詩野ちゃんの肩でもアウトに出来なかったというよりは、宮守さんのクイックが遅かったかな。


動きも固いし、公式戦初登板はあまり良い思い出を持って終われそうに無い。まあ、良い思い出を持ってマウンドを降りられたら困るんだけど。


勝つ必要性は薄い、なんて都合の良い公式戦は数が少ない。この機会を活かして、宮守さんと島谷さんには強豪校の打線を経験して貰いたい。


宮守さんは2番をセカンドゴロで抑えるものの、ランナーは3塁へと進み、3番の広沢さんを迎える。秋では4番を打っていた、注意をしないといけない打者。その広沢さんにタイムリーヒットを打たれて、宮守さんはあっさりと1点を失った。


そして4番には、秋の大会で9番を打っていた池田さんが据えられていた。池田さんは私達と同学年だし、たぶん友理さんと同世代の4番を育てる目的で抜擢されたんだろうね。


確か、久美ちゃんのドロップカーブを初見でライト前へ運べるアベレージタイプのバッターだ。そんな池田さんに、宮守さんの縦のスライダーは通用しなかった。ライトを守る智賀ちゃんの頭を超える、タイムリーツーベースヒット。


続く5番には、秋の大会で2番を打っていた荒井さんが入っている。初球の難しい球に手を出してくれて、サードが聖ちゃんだったからサードゴロになったけど、サードが聖ちゃんじゃなかったらこれも長打だったかな。


ツーアウトランナー2塁という場面で迎えた6番も、センターへの大飛球。それを私が追い付いて、スリーアウトだ。試合は2対0で、湘東学園の攻撃に移る。


「宮守さん、もう1回行ける?」

「えっ……行けますけど、良いんですか?」

「お?頑張れるならもう1回頑張ろうか。島谷さんは、3回から投げる準備をしておいて。今日は可能なら、最後まで行って貰うから」


宮守さんに声をかけると、思っていたよりは消耗してなかった。もう1回行けるかと聞いて「これ以上はチームに迷惑がかかるから止めます」なんて言わない辺りは、度胸があるね。


さて。こちらの新人を打ち込んでくれたからには、こちらも向こうの新人である薮内さんを打ち込みたいところだけど、フォームは友理さんみたいに気持ち悪くない。高速スライダーは、常識の範囲内の高速スライダーだ。


先頭バッターである真凡ちゃんにとって、右投手の高速スライダーは向かって来る球になる。外に逃げるような感覚の右打ちのバッターより、左打ちのバッターの方が打ちやすい。


カウント1-1から3球目、恐らく内に来た高速スライダーを真凡ちゃんは捉えて、センター前ヒットを打つ。続く詩野ちゃんもレフト前へ流して、ノーアウトランナー1塁2塁。3番の今大会打率7割超えの聖ちゃんは、薮内さんの高速スライダーを簡単にセンターへ返して、ノーアウト満塁。


「敬遠する?」

「…………」

「あ、勝負してくれるんだ」


最高の場面で打席が回って来たので、キャッチャーの古谷さんに声をかけたら、見事に睨まれたので大人しくバットを構える。統光学園の方で肩を作っているのは、左腕の新開さんかな。春の大会で131キロをマークした統光学園期待の2年生で、友理さんが居なければ絶対にエースだったと思う。


……ああいう左腕が2番手にいるのは、本当に強い。そんなことを考えながら、カウント1-0から2球目、チェンジアップを捉えてスタンドへと運ぶ。試合は2対4とひっくり返り、智賀ちゃん、本城さんが連打でノーアウトランナー1塁3塁の場面を作ったところで新開さんと交代。


薮内さんは、結局1つのアウトも取れずにマウンドを降りた。それでも最後までコントロールを乱さなかったし、2年後には厄介な投手に成長してそうだね。


新開さんに代わった後は、奈織先輩がヒットを、美織先輩が犠牲フライを打ったので2対6と4点差になる。宮守さんにはこれで、5失点まで大丈夫だと言えるね。超が付く乱打戦になっているけど、それは仕方ないことだと思う。

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