第150話 馬鹿試合
2回表、統光学園の攻撃。宮守さんは、3失点という致命傷で済んだ。2回を投げて5失点は、去年の今頃の優紀ちゃんを思い出すような成績だね。
相手が統光学園だから仕方のない面はあるけど、宮守さんは力不足を痛感したはず。ツーアウト満塁という場面で迎えた3番の広沢さんに、走者一掃のタイムリーツーベースを打たれて、3失点。それでも折れずに4番の池田さんを今までで最高の変化の縦スラで打ち取ったから大した1年生だ。
2回裏は、左の新開さんに対して左打者の詩野ちゃんと聖ちゃんが打ち取られて簡単にツーアウト。そして私に対しては、一段上の気合いの入った球を投げて来た。球速表示は、132キロ。去年の秋の、私の最高球速と一緒かな。
速いことは速いし、秋の頃よりも制球がかなりマシになっている。私との勝負を選択してくれるのは、素直に嬉しいね。まあ私を敬遠して、後続の本城さんや智賀ちゃんに友理さんが打たれた過去もあるし、ランナー無しならダメージも少ないからかな。
2球目、内に食い込むようなカーブを捉えて引っ張る。打球は左中間に飛び、ツーベースヒットとなった。流石に5対6の1点差でこのまま勝てるとは思えないので追加点が欲しいけど、ここで智賀ちゃんが凡退。2回裏の攻撃は0点で抑えられて、島谷さんがマウンドに上がる。
「これから5イニング。よっぽどの火だるまにならない限りは投げて貰うから、覚悟してね」
「火だるまって……全く同じ単語を御影監督も使ってましたけど、打ち合わせ済みですか?」
「そりゃそうだよ。中学時代はねじ伏せて勝って来たみたいだけど、高校野球じゃそれで通用しないことの方が多いから、今日はバックを信じて投げてね」
これまでの島谷さんは、実力で抑えられていたけど、今日はそうもいかないはず。新開さんを始め、速球派の左腕が何人かいる統光学園の打線が、島谷さんを捉えられないとは思えない。5回を投げて、4失点はしそうかな。
高校野球は、基本的に打者有利だ。130キロを打つバッターはゴロゴロいるけど、130キロを投げられるピッチャーはそんなにいない。強豪校の強力打線を完全に抑えきるというのは、難しい。
……まあ、芳田さんや大槻さんみたいにねじ伏せられる投手というのもいるんだけどね。
試合は5番の荒井さんが早速ツーベースヒットを打ち、続く6番と7番にも連打を浴びて1失点。しかし島谷さんは後続を三振と併殺に抑えて、何とか1失点で3回表を終える。試合は6対6と、同点になった。
「あれ?宮守さんは?」
「……顔を洗って来るゆうて、トイレの方に行ったわ。しばらくはほっとけ」
「宮守さんを、今日の試合で使うのは早かったんじゃない?」
「……今日の試合の経験は、絶対に普段の練習だと得られないから必要なことだよ」
湘東学園の守備が終わり、ベンチに戻ると宮守さんが居なかったので、監督に聞いたらトイレに行ってると言われる。これは時間が経って、悔しさが込み上げて来たパターンかな。
真凡ちゃんが、まだ宮守さんを実戦で投げさせるのは早かったんじゃないかと言って来たけど、今日の宮守さんの登板は必要だったと私は思う。私は1年生達を、純粋培養するつもりは全くない。それに今日の試合は、宮守さんのためでもある。
最初の頃からあまりに打たれなさ過ぎると、いざ打たれた時の動揺が大きくなる。そして1番嫌なのは、それが観客席まで伝わって球場全体まで嫌な雰囲気になること。
打たれ続けるのもそれはそれで問題だけど、初っ端のこの時期だからこそ投げさせたとも言える。そして島谷さんの方は、想像以上に抑えている。
「お!」
「行った!?」
真凡ちゃんと話していると、カキンと良い音が鳴った。3回裏の先頭バッターである本城さんが、新開さんから本塁打を打ち、試合は6対7と勝ち越す。続く鳥本姉妹が連続ヒットで出塁するも、島谷さんはバント失敗でランナーが入れ替わったワンナウトランナー1塁2塁。
そしてここから左投げが苦手な左打者の1番2番に回るけど、真凡ちゃんは上手く一二塁間を抜いてヒット。6対8となってから、詩野ちゃんが併殺でスリーアウトチェンジ。
地味に、詩野ちゃんの併殺は多いんだよね。たぶん、チームトップの併殺率だったと思う。2番だから併殺が多い様にも感じるのだけど、詩野ちゃん以外に2番に相応しいバッターはパッと思いつかない。
可能なら光月ちゃんを2番に置きたいのだけど、外野枠が埋まっている上に光月ちゃんの内野守備はそれほど上手く無いのが辛い。私の4番縛りが無ければ、私を1番に置いて真凡ちゃんを2番に置くのが1番効率の良い打順になるのかな。
4回表は、島谷さんが援護して貰った2点分をキッチリ吐き出して上位打線を切り抜ける。4回表終了時点で8対8って、観ている方は凄く面白い試合だと思う。
向こうは友理さんが肩を作り始めたので、こちらが大きく勝ち越さ無かったら、友理さんが出て来そうだね。たぶんこの回か、次の回辺りで登板するかな。
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