第83話 乱舞

1回裏の攻撃は、真凡ちゃんのピッチャーライナーから始まった。続く詩野ちゃんは四球で出塁し、ワンナウトランナー1塁という場面で私がツーランホームランを打つ。続く本城さんもレフト線へのツーベースヒットを打ったので、早くも大量得点が出来そうな雰囲気が漂って来た。


5番の智賀ちゃんは敬遠気味に勝負を避けられて、ワンナウトランナー1塁2塁で得点圏打率がイマイチ芳しくない6番の久美ちゃんが打席に立つ。普段ならこういう時にあまり打たない久美ちゃんだけど、今日は先制して気が楽になっているのか、センターオーバーのツーベースヒットを打った。これで、4対0だ。


この後7番の奈織先輩はショートへの内野安打を打ったけど、美織先輩と優紀ちゃんが内野フライに倒れてスリーアウト。結局、リードは4点となった。だけどこの投手が相手なら、多少点を取られても勝てそうだ。


そう思って2回表の守備に就くと、智賀ちゃんは4番の外川さんと5番の今道さんに連打を浴び、1点を返されてノーアウト2塁のピンチを迎える。もう1点を取られることは覚悟の上で送りバントをさせ、犠牲フライを打たせることで何とか向中高校の攻撃は2点に抑えた。


2回表が終わって、2対4と湘東学園は2点のリード。御影監督の采配は、本当によく当たる。智賀ちゃんの2回2失点まで当てているから、本当に野球の妖怪なのかもしれない。既に鳥本姉妹からのニックネームは、野球妖怪婆だけど。


2回裏の攻撃は真凡ちゃんがヒットで出塁するも、詩野ちゃんのショートへの打球が併殺打となってしまい、私は敬遠されて本城さんが外野フライに倒れる。そして3回表には久美ちゃんがマウンドに登り、バッターボックスには2打席目となる栗林さんが入った。




(西野、春谷、江渕、そしてカノン。4人の投手の内、私達が1番打ちやすそうなのはカノンなのに、カノンを引きずり出せるかが怪しいわね)


3回表、栗林は春谷のストレートをカットしながら考える。向中高校のデータ班は分析の結果、春谷の弱点はスタミナと勝負所でのコントロールミスが多いことだと判断した。そのため、少しでも球数を投げさせるようファールで粘る。


途中、栗林はボール球を見送ってカウントは2-2となった。早打ちから一転、じっくりと狙い球を待っていることに気付いた梅村は、決め球であるドロップカーブを枠内に要求する。


(春谷が1番信じられる球は、そのドロップカーブよね!)


しかし、そのドロップカーブを完全に読まれて打たれる。打球はセンター前に飛び、ノーアウトのランナーが出塁した。出鼻を挫かれた形となった湘東学園のバッテリーは、配球の方針を切り替え続けるも、それでも向中高校の打線に捕まる。


ワンナウトランナー2塁の場面で3番の松口、4番の外川と連打を浴び、5番の今道にスリーランホームランを浴びたことで湘東学園は一気に4点も取られてしまう。強力打線の本領が発揮され、春谷はこの回に6失点。3回表終了時点で8対4と、向中高校が4点をリードする試合になった。




……久美ちゃんが打たれ続けたけど、好調な打線に捕まる時は捕まるものだし、久美ちゃんは自省が出来る子なので今は放置。試合は3回裏に入って、この回の先頭バッターの智賀ちゃんによるソロホームランから攻撃は始まる。


投球でのミスを帳消しにするべく続く後続の久美ちゃんがライト前へのヒットで出塁すると、奈織先輩と美織先輩もセンター前に運ぶヒットで続き、ノーアウト満塁で優紀ちゃんの打席に回った。


「よし。満塁ホームランで逆転するね」

「優紀ちゃん、一々フラグを建てなくても良いからね」

「最悪でも、犠牲フライにはするから心配しなくても良いよ」


そんな会話を優紀ちゃんとした後、優紀ちゃんは内野フライに倒れるも、真凡ちゃんがサードの脇を抜く器用なバッティングでランナーを2人返した。


8対7と1点差まで追い上げた後、向中高校は詩野ちゃんに四球を出し、ワンナウトランナー満塁という場面で私を迎える。ここでピッチャーは、3人目の千野さんに代わった。


そして向中高校のバッテリーは、満塁で私を敬遠するという選択肢を選んだ。出来れば千野ちゃんのフォークボールを打ちたかったのだけど、本城さんに任せる形になっちゃった。


同点となって本城さんが、走者一掃のタイムリースリーベースヒットを打つ。続く智賀ちゃんがサードライナーを打ってしまい、併殺に倒れたけど、3回終了時点で8対11って凄い乱打戦だ。


4回以降はランナーが出るも、お互いに点は取れずに迎えた最終回。5回表からマウンドに登っている優紀ちゃんが、7回表のマウンドにも登る。


4回表に久美ちゃんがピンチを背負った以外は、本当に両校共に点が取れそうな雰囲気では無くなった。お互いに最初から優紀ちゃんと千野さんを投げさせていれば、試合展開はかなり変わったと思う。前半戦の雰囲気が嘘みたいに霧散して、投手戦の空気に切り替わったし。


7回表、向中高校は千野さんへ代打を送る。確か1年生の時に話題になった子だけど、怪我をした子だったかな。


ここから上位打線に繋がるので、抑えたかったのだと思うけど、軽々とライトオーバーのツーベースヒットを打たれたので、得点圏にランナーを置いた状態で1番の栗林さんに打順が回る。嫌な流れが出来ていることを、私は肌で感じ取った。

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