第69話 潰し合い

9月上旬のとある日に、秋季神奈川県大会の組み合わせ抽選会が開かれる。キャプテンがくじを引くので、当然私が参加するし、ついでにと真凡ちゃんと智賀ちゃんを連れて来た。


会場には早めに着いたにも関わらず、既に多くの人がいて、熱気が凄い。今年の秋季神奈川県大会に進んだのは、地区予選に参加した184校中86校となった。その内、予選ブロックを1位で勝ち抜いたのは46校。全勝だったのは39校とのことで、この数なら全勝であればシードだ。3校ブロックなら、2勝で全勝になる。


「えっと……42+44÷2で64だから、42校が2回戦からですか」

「1位通過でも、今回の場合は4校だけ1回戦からになるのね」

「そうなるね。だから、全勝の高校からくじを引いていくよ」


席に座って一段落したいところだけど、湘東学園がくじを引く順番は早いようなのでさっさと準備をする。勢いよく立って周りを見渡すと、大槻さんのいる和泉大川越の面子や、夏に戦って負けた横浜高校の一団も見えた。


……それと同時に、周囲の高校から、そして前方で座っている記者の方々から注目を集めた感じだけど。さっさと、主将が並ぶ列に並ぼう。


「良いくじをお願いね」

「頑張って下さい」


2人から一言だけ声をかけられて、気合いが入ったところでくじを引く。まだ先に引いた高校は少ないので引いた時点では判断が難しいけど、私達はDブロックに入った。横浜高校がCブロックにいるので、当たるとしたら準決勝か。東洋大相模はAブロックだから、今回は決勝まで当たらない。


まあまあ良い位置かな、と思いながら席に戻ったところで、会場が騒めく。何事かと振り返ると、私の次にくじを引いた統光学園が湘東学園のすぐ隣のくじを引いた。


すぐ隣と言っても、すぐに戦うわけじゃないけど……順当に2回戦をお互いに勝てば、3回戦で当たる。直後に向中高校もくじを引いて、Dブロックに入った。これは順当に行けば3回戦で統光学園、4回戦で向中高校か。


「……良いくじ、でしたね」

「智賀ちゃん、過去形にしないで。

どの道、県大会本戦は強い高校としか当たらないからこれはしょうがないよ」


和泉大川越は、準々決勝で横浜高校と当たるCブロックに入った。夏の大会で私達と投手戦になった平塚高校や、同地区で目立っていた鎌倉学院はBブロック。残った強豪校は、大体Aブロックに入ったかな。


やぐらを写真で撮って帰ろうとしたところで、見知った人に絡まれる。


「久しぶりだね。まさかカノンが、神奈川に来るとは思って無かったよ」


やけに馴れ馴れしく話しかけて来たのは、統光学園の生徒だ。私はこいつを知っているし、向こうもよく憶えていると思う。


「……伊東(いとう)友理(ゆうり)は、統光学園に入ってたか」

「え、何でフルネームで呼んだの?呼び捨てだったじゃん」

「いとうだとややこしいからだよ、この子も伊藤(いとう)なの」

「伊藤真凡よ。あなたはカノンの、知り合い?」


中学で有名な野球選手とか、真凡ちゃんは知らないからずけずけと聞けるけど、こいつはガールズの準優勝チームのエースだ。神奈川代表のチームで、友理さんはわたしと真っ向から5打席も勝負をしている。


そしてその試合の私の成績は、5打数3安打2本塁打。この成績を見れば私の勝ちだけど、要するに私は決勝戦で2回も凡退した。ガールズの試合で、1試合に2回凡退したのはこの試合だけだ。


「知り合いというか、ライバル?」

「私に2本もホームランを打たれて、ライバル宣言するの?」

「2回抑えたじゃないか!それにカノン以外、パーフェクトピッチングだったし。

……まあ言いたかったことは3回戦、よろしくねってことだよ。2回戦で、負けないでね」

「2回戦はどっちが来ても、負ける気は無いよ。ユーリはエース番号、貰ったの?」

「秋からは、ずっと1番だよ」


2回戦が待っているのに3回戦の挨拶をこの場でする時点で、友理さんは相当な自信家だ。それに加えて実力も伴っているから厄介だし、高速スライダーの対策はしておいた方が良いかな。


……あの試合で、結局友理さんの高速スライダーは私でも捉え切れなかった。気持ち悪い変化をする高速スライダーに、チームメンバーは手も足も出なかった。私が全打席で敬遠されていたら、試合がどうなっていたのかは分からない。


グループラインにやぐらを貼り付けると、3回戦で統光学園や東洋大相模に当たるのは、3回戦に呪われているからだとか、散々な言われようだった。でも今回統光学園と当たるのは、予選で半分が消えていることを考えると、実質4回戦なのでは?


でもまずは、2回戦をしっかりと戦わないといけない。両方、2位通過の高校なので警戒し過ぎるのも良くないけど、両校ともに夏の大会は3回戦まで勝ち進んでいる。どちらが勝ち上がっても、予選で戦った高校よりか強いはずだ。


「抽選会は、結構楽しいでしょ?ただ組み合わせが決まっていくだけなのに、色々と妄想出来るし」

「私は楽しいというより、ドキドキしました。……夏は、倍以上の高校が参加していたんですよね」

「そうだね、秋は予選があるから実質半分だし、夏は倍以上の時間がかかったよ」


次の試合相手は、1回戦の川崎市立立花高校と厚木清陵高校の試合で決まる。どちらが勝つか、試合内容を把握するためにも偵察には行かないといけない。入って来たばかりのマネージャーだけだと不安だし、私も一緒に偵察に行こうかな。

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