第64話 リーグ戦
「うわ、統光学園が初戦で26対0だって」
「どこも、初戦は本気度が違うわね。向中高校も21対0で勝っているわよ」
「向中高校って、県内最速の渡辺さんが引退してからもバッティングピッチャーを務めているんだっけ?
打撃陣は鍛えられてそうだし、対戦が楽しみだね」
「うちと戦ったら、打撃戦になりそうね」
秋の初戦が終わって、有力チームの試合結果はネットで記事にもなっていた。当然私達の紹介もされていて、9人で選抜出場をすると史上初の快挙らしい。甲子園に出場した高校の中で最少の部員数は、10人らしいので確かに記録は更新することになる。
といっても、夏休みが明ければマネージャー希望の子が入ってくれるだろうという淡い期待がある。マネージャーをベンチ枠が空いているのに選手として書かないわけにもいかないので、県大会からは10人以上になるだろう。
甲子園では3回戦が始まり、大阪桐正は仙台育徳に2対1で敗れた。春の甲子園の優勝校が、夏の甲子園では3回戦で消える。大阪桐正は1回戦2回戦と連続して強豪校と当たったというのもあるだろう。真ん丸と太った大阪桐正の有名なおばさん監督は、哀愁漂う顔で泣き崩れるチームメンバー達を抱き締めていた。
その仙台育徳も、次の準々決勝で広島の広稜高校に勝てるかは分からない。横浜、智伝和歌山、大阪桐正、広稜、仙台育徳などの優勝候補が1つのブロックに固まってしまったから、本当の意味で死のブロックとなっている。
これに比べれば、湘東学園が所属する地区予選のBブロックが死のブロックとは言いたくないかな。夏の県大会ベスト8、ベスト16クラスが固まったブロックだけど、そこまで混戦模様じゃないし。
「Bブロックは、順当に日大茅ヶ崎と鎌倉学院かしら?」
「たぶん、その2校だね。両方とも5回コールド勝ちだし……他のブロックも、大波乱は起きて無さそうかな」
真凡ちゃんと一緒に、他の対戦カードの結果をスマホで確認する。こういう時、スマホは便利だなと思いつつ、試合結果を頭に入れておく。ブロック予選で勝ち抜いた後、秋の県大会で当たる可能性は高いからだ。
ブロック予選は1試合目2試合目と連日で行なって、1日の予備日の後に3試合目を行なう。同じCブロックの藤沢商業高校と川沢高校の試合は、0対8で川沢高校が勝利していた。
次の藤沢商業高校に勝つことが出来れば、県予選出場は確約されたも同然だ。こうなってくると心配事は怪我だけになるので、デットボールには常に注意しておくことと、無理にランナーと交錯しに行かないことを伝えておく。
「滑り込みも、する必要が無いからね。野球は怪我が多いスポーツだから、注意していても仕方のない時はあるけど」
「……怪我をしたり、痛めたりした時は迷わずに申し出て。試合が続行不可になっても、7点差しか付かないから」
私が怪我の注意をして、続けて詩野ちゃんも身体を痛めた時は絶対に言うようみんなに伝える。途中で試合を棄権しても、7対0で負けになるだけだ。ちなみにこれを利用すれば、66対0が7対0で処理されたりもする。あまり褒められた行為では無いけど、戦略的に敗退するのも手段の1つだ。
今日の試合の結果、川沢高校が湘東学園以外の高校の中では強いということが分かった。もしも万が一、残りの2試合を棄権するようなことになっても、1勝2敗で得失点差が+5になる。川沢高校が3勝して、茅ヶ崎南陵が藤沢商業高校に勝った場合、得失点差で湘東学園が勝ち上がるだろう。
まあ、他力になる時点で敗退しているのと同じだけど。茅ヶ崎南陵が藤沢商業高校に勝てるとは限らないし、茅ヶ崎南陵が残り2試合に勝つ可能性だってある。
ひたすら怪我の心配をしながら迎えた2試合目。相手は藤沢商業高校で、1試合目に負けたからか士気は低い。この試合に勝てれば県大会進出は確定したも同然なので、当然勝ちを狙いに行く。
……藤沢商業高校のエースは1年生で、110キロ前後のストレートを投げている。変化球を投げている様子も無いし、たぶん、ストライクが入るからという理由で投手をやらされているような状態だと思う。それでもベンチ入り枠が埋まりそうになるぐらいには、野球部員がいるけど。
今回は後攻を相手に取られたので、先頭バッターの真凡ちゃんが最初に打席へ立つ。初球、緩いストレートを引っ張って、ファーストの頭を超える打球になった。真凡ちゃんは2塁まで進んで、2番の詩野ちゃんが打席に立つ。
この1番と2番が左打ちなのは、結構大きい気がする。やっぱり高校野球は右投げの方が多いし、左打ちは有利だ。私も一時は両打ちに挑戦していた時期があるけど、打率が5割を切るので諦めた。右で打つ方が、圧倒的に打率は良いし。
詩野ちゃんはフォアボールを選んで、ノーアウト1塁2塁で私が打席に立つ。また昨日の試合と同じような状況になったけど、今回は勝負してくれるみたいだ。
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