第63話 秋の初戦

秋季神奈川県大会の予選はリーグ戦で、4校で1つのブロックを形成する。勝てば勝ち点3、引き分けなら勝ち点1を得て、勝ち点でブロックの上位2校が県大会に出場できる。


秋の県大会は土日を利用する形の大会になるから、あらかじめ予選で出場校を絞らないと試合数をこなせない。ちなみに3校のブロックは1位通過だけなので、中々に厳しいルールだ。3校のブロックの数によって、2位でも通過出来たりするけど。


基本的には4校のブロックで、参加校の数によっては、3つまで3校のブロックが出来ると書いてある。湘東学園の所属する地区は27校なので、3校のブロックは1つだけだ。


この3校のブロックが2つなら、3校のブロックの2位同士で代表決定戦が行われるなど、ルールはちょっとややこしい。3校のブロックが3つの場合は、最初の2つのブロックによる代表決定戦は行なうけど、3つ目のブロックは1位通過のみ。まあ、勝てば良いだけの話だし今年の私達には関係の無い話だ。


今日は大事な、秋季神奈川県大会地区予選の初戦だ。相手は茅ヶ崎南陵高校で、部員数は1年生14人2年生15人の29人。相手の投手は右投げで115キロのストレートと大きく曲がるカーブを投げるけど、智賀ちゃんとよく似た感じかな。コントロールはさほど良くない。


試合前の守備練習の時でも、ミスが頻繁に見られるような高校が相手だけど、得失点差が重要になるかもしれない以上、手を抜く必要は無いし、抜くつもりも無い。可能なら、大量に点を取って勝ちたい。今日は先攻を取ったので、まずは1番の真凡ちゃんからだ。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 左翼手 伊藤真凡

2番 捕手  梅村詩野

3番 三塁手 実松奏音

4番 一塁手 本城友樹

5番 右翼手 江渕智賀

6番 遊撃手 鳥本美織

7番 二塁手 鳥本奈織

8番 中堅手 春谷久美

9番 投手  西野優紀



打順は、練習試合の成績を加味して1、2番を打率重視にした感じだ。打率が異様に良くなった真凡ちゃんを1番に、小技も出来て勝負強い詩野ちゃんを2番に置いて、大砲3人がランナーを返す。本城さんに関しては早速噂になるぐらいだし、智賀ちゃんは練習試合の6試合で3発もホームランを打った。


調子の良い人を上位に固めたと言ってしまえばそれまでだけど、1点を争う時も点取り合戦になった時も、機能する打順になっている。まずは初回、立ち上がりに苦しむ相手のエースに8球投げさせた上で、真凡ちゃんがレフト前へクリーンヒットを打った。


真凡ちゃんは左打ちだから、流し打ちをするとレフト方向へ転がる。合宿で足とスタートが速くなった真凡ちゃんは、内野安打もかなり狙える打者に成長した。元々、サード方向へ転がして内野安打というのは多かったけど、狙えるようになったということは大きい。


続く詩野ちゃんもセンター前に運んで、ノーアウトランナー1塁2塁で私を迎える。バントで手堅く行くかと思ったけど、その必要も無いと矢城監督は判断したのかな。


……1番2番が連続して出塁すれば、相手にとって嫌な選択を強いられる。ノーアウト1塁2塁で私と勝負するか、ノーアウト満塁で本城さんと勝負するか。どちらも、相手にとっては嫌なんじゃないかな。


というか本当に、本城さんは転校先に湘東学園を選んでくれてありがとうとしか言えない。怪我にありがとうは、流石に不謹慎過ぎるから言わないけど。




(何で、初戦で夏の県大会ベスト4と戦わないといけないのよ。しかも、メンバーはほとんど変わって無いし)


茅ヶ崎南陵のエースは新チーム結成時に1番を託された、まだ試合経験の少ない2年生投手だ。3年生がスタメンで出る以上、2年生以下はあまり経験を積めないということも多い。3年以上夏の大会で1回戦を勝っていないチームは、自然と公式戦での勝ち方さえ忘れる。


それでも今回は同レベルの相手が2校もいる以上、県大会への出場は希望がある。そのため、なるべく得失点差がつくような負け方は避けたかった。1校が飛び抜けて強いチームで、残り3校が団子状態の時、3勝の高校が1チームと1勝2敗の高校が3チームという状況になりやすいからだ。


本城がホームランバッターだという情報は、茅ヶ崎南陵でも掴んでいた。早くも噂になるほどのバッターと満塁で勝負するか、奏音とノーアウト1塁2塁で勝負するかを選択しなければならない。そして茅ヶ崎南陵のエースは、奏音との勝負を避けた。


ノーアウト満塁で、4番の本城が打席に立つ。江渕よりも大きな体躯で、バットを軽々しく振る姿はまさしく強豪校の4番だった。城西高校でも代打で着実に成果を残していた彼女の勝負強さは、この場面でも遺憾なく発揮された。


カウント2-0から、ストライクゾーンに置きに来た球を本城はかっ飛ばす。勢いのある打球は左中間を抜け、タイムリーツーベースとなった。1塁ランナーの奏音もホームへ帰り、3対0と湘東学園が勝ち越す。


そして続く江渕にはホームランが飛び出し、初回に湘東学園は7点を獲得した。ひたすら打ち続けた湘東学園は、秋の初戦を19対0で勝利する。途中から敬遠をしなくなったことで、奏音は3打席連続本塁打を記録した。

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