第62話 腕試し

8月の頭から、練習試合をする高校は多い。中には夏休み中、練習試合を詰め込むようなチームも存在する。夏の大会が終わり、ほとんどのチームは新チームに切り替わるからだ。


私達も例外では無く、4番の小山先輩とエースの大野先輩が抜けて新しいチームとして生まれ変わった。新チームは9人しかいないし、怪我人や脱落者が出ると凄く困る。


新ポジションは、優紀ちゃんが投げる時は久美ちゃんがセンターを守ることになっているので、私がサードだ。久美ちゃんが投げる時は優紀ちゃんがサード、私がセンターになって、私が投げる時は優紀ちゃんがサード、久美ちゃんがセンターとなる。この3人で、ローテーションをする感じだ。



湘東学園 スターティングメンバー


1番 二塁手 鳥本奈織

2番 遊撃手 鳥本美織

3番 三塁手 実松奏音

4番 一塁手 本城友樹

5番 右翼手 江渕智賀

6番 捕手  梅村詩野

7番 投手  西野優紀

8番 中堅手 春谷久美

9番 左翼手 伊藤真凡



その練習試合の初戦の相手は、前橋徳栄高校。群馬県の学校でここ数年は甲子園から遠ざかっているけど、かなりの強豪校だ。彼女らは今日、私達と練習試合をした後に、東洋大相模とも練習試合をするみたい。


私達も練習試合の日は基本的にダブルヘッダーなので、前橋徳栄高校の後は東京の帝央高校と戦う。合宿で身体をいじめ続けてプールで泳いだ次の日に、甲子園を狙えるような強豪校と立て続けに練習試合をするのは中々にハードなスケジュールだ。案の定、先発予定の優紀ちゃんは調子が悪い。


それでも変化球を切り替え続けながら内外に投げ続けた成果は出て、確実に変化球のコントロールは良くなっている。前橋徳栄のマシンガンのような打線を相手に、5回で4失点なら試合を作れた方だろう。残りの2回は、私がキッチリと0点に抑えた。


一方で打撃陣は初回に私、本城さん、智賀ちゃんによる3者連続ホームランが飛び出る。本城さんは前橋徳栄のエースと対戦経験があるらしく、対戦相手に何故いるのかと驚かれていた。ついでに打撃練習で打っていた時以上に打球を飛ばしているので、本城さんは実戦の方が力を出せるタイプだ。


4番に私が座ることも考えたけど、初回で絶対に打席に立てる3番の方が初回から良い流れは生み出せる。4番は、本城さんに任せよう。この人、1年生の時から城西高校の1軍に居たからか試合慣れもしているし、打撃センスも良い。本当に、期待されていた選手なのだと思う。


智賀ちゃんは、内角のカットボールを強引に引っ張ってレフト線へ運んでいた。変化球を打つ感覚というものはまだ掴めていないだろうけど、それでも強引にスタンドまで運べる力がある。ずっと5番に置いて来たからか、長打が求められる時には長打を打つバッティングがちゃんと出来ている。


初回に3点を入れた湘東学園は波に乗り、13安打8得点と大きく勝ち越した。初戦は、8対4で湘東学園の勝ちだ。


「ここまで強い高校を相手に、私達のペースで試合を出来たのは良いね」

「……うん。優紀ちゃんも、のらりくらりとかわす投球が出来ていたから、次の試合もリードするのが楽しみだよ」


次の相手は、東東京の強豪校の帝央高校。今年は夏の県大会決勝で負けて、苦い思いを経験している学校だ。この時期に練習試合で戦えるのは、基本的にそういう高校ばかりだけど。


2試合目は久美ちゃんが5回を投げて、7失点。智賀ちゃんも1回を投げて3失点と、投手陣が打ち込まれた。強豪校を相手に智賀ちゃんを接戦で投げさせてみたかったのだけど、失敗だったかな。まだストレートもカーブも二級品とすら言えない以上、一級品の打線を相手は荷が重かった。


守備でもミスが出て、真凡ちゃんと本城さんと優紀ちゃんがエラーをしている。6回までで3失策10失点は、ちょっと守備面が怪しいかな。合宿やプールの疲れが出たという言い訳は使えるけど、出来れば使って欲しくないし。


結局、帝央高校との練習試合は9対10で負けてしまった。これで今のところは、1勝1敗だ。秋季大会のブロック予選が始まるまで、練習試合をあと4試合する予定だけど、その結果を見て秋の打順は固定していきたい。とりあえず真凡ちゃんは9打数6安打とおかしな数字を残しているので、1番にしてみようかな。


練習試合が終わったら、甲子園の試合を観戦する。今日から甲子園では2回戦が始まり、注目のカードである大阪桐正と横浜高校の試合は今日の第4試合だ。優勝候補同士が2回戦でぶつかるのも、甲子園の醍醐味だろう。


「どっちが勝つと思う?」

「藤波さんと松池さんの投げ合いだから、投手戦になるんじゃないの?個人的には、横浜高校が勝つと思っているわ」

「私は打撃戦になって、大阪桐正が勝つと思います」


真凡ちゃんと智賀ちゃんに、予想を聞いてみると返って来た答えは真逆だった。まあどちらも総合力が高いチームだし、両校ともに戦力パラメーターみたいなものがあれば全ての項目がカンストしているような高校同士の戦いだ。


私としては、横浜高校に勝って欲しいけど……2年生で137キロを出す藤波さんが化け物過ぎる。松池さんも135キロを出すことは出来るけど、一試合を通じての平均球速が3、4キロは離れてそうだ。


試合は真凡ちゃんの予想通り投手戦となって、6回裏に大阪桐正の4番からソロホームランが出た。これがそのまま決勝点となって、試合は智賀ちゃんの予想通り、1対0で大阪桐正の勝ちとなった。


私達に勝って、神奈川県大会の反対側の山を勝ち上がって来た統光学園に圧倒的な力の差を見せつけた横浜高校でも、甲子園では2回戦で消える。今回は横浜高校のくじ運が悪かっただけかもしれないけど、全国制覇の難しさは嫌でも痛感させられたし、甲子園への想いは強くなった。


秋季大会は、すぐにやって来る。まずはブロック予選、確実に勝って上に行こう。

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