第9話 合宿
練習試合の翌日、小山先輩と矢城先生と春谷さんと私で作戦会議。
「昨日の試合結果から、5月は守備練習の量を増やしたいと思います。練習試合が無い時の練習スケジュールは、こうなりますね。6月末の抽選会まで後2ヵ月を切っていますが、頑張っていきましょう」
春谷さんが立って、ホワイトボードに練習予定表を書きながら説明する。机の上には昨日の成績を纏めた紙が置いてあったので、何枚かある内の一枚を手に取って見てみる。
湘東学園対和泉大学付属川越高校 試合結果5対8
打撃成績
打順 名前 打数-安打 内容
1番 鳥本奈織 4-2 右2 一飛 三振 中安
2番 鳥本美織 3-1 四球 ニゴ 投飛 遊安
3番 小山悠帆 4-2 右安 中飛 中安 三振
4番 実松奏音 1-1 左本(4) 四球 四球
5番 梅村詩野 2-1 右安 三振 投犠
6番 西野優紀 2-0 三振 遊ゴ 右犠(1)
7番 大野球己 3-1 右飛 左安 三振
8番 伊藤真凡 3-0 投ゴ 一併 ニゴ
9番 江渕智賀 2-0 三振 三振 四球
……昨日の試合で、最終回である7回表にはツーアウト満塁というチャンスで小山先輩に打順が回って来ている。一発が出れば逆転だったけど、もしその一発が出ても、裏の西野さんが無失点で終わるとは思えないから、サヨナラ負けになっていただろう。
打撃は、わりと良い。先輩方もそうだけど、梅村さんが打てる感じだし、西野さんはきっちりと犠牲フライを打てている。打線として、機能はしている。
一方で、守備の方はわりと壊滅的だった。
まず投手陣だけど、大野さんは4回に2失点、5回に3失点と、5回を投げて打者28人を相手に被安打9、与四球3、失点5という成績。西野さんは、1回を投げて打者7人を相手に被安打4、失点3だ。
そして守備では西野さん、奈織先輩、智賀ちゃんがエラーをしている。西野さんは、失策数2かな。チームとしてはまだまだだけど、春季神奈川県大会ベスト16を相手によく頑張ったと思う。というか、和泉大川越の去年の夏はベスト8だったらしいし大健闘だろう。
……でも、激戦区神奈川で優勝して甲子園に行く道のりの険しさもよく分かってしまった気がするな。神奈川県186校の頂点に立つのは、本当に至難の道のりだ。
会議では先生が投手2人の欠点を指摘し、合宿の日程を決めて解散となった。私が会議にいた意味は無かったかな。
「合宿!?やったー!」
「場所は学校ですが、日程は3泊4日で、最終日は練習試合をします」
「相手は去年の東東京代表の城西高校と、静岡の三島東高校ですよ」
合宿の知らせに西野さんは喜び、春谷さんが説明をして藤井先生が補足する。ちなみに去年の東東京代表だった城西高校はBチームが来るそうだけど、何人かレギュラーも連れてくるようだ。1軍2軍の混成メンバーかな?
正直に言って、対戦相手としてはレベルが高すぎる。三島東高校も静岡で8強には常に入る古豪で、甲子園の出場経験がある高校だし、普通に戦ったらボロ負けしそうだ。
そうして迎えたGWの合宿当日。矢城先生のノックを内野陣が受ける。私よりもいやらしい打球と言うか、ギリギリ捕れるという打球の打ち方が上手い。
私の場合、打球の速度を上げて難易度を上げているから、それよりかは緩い打球ということでみんな食らいついている。特にサードの西野さんは初めてサードの守備練習をした時より、一歩目が速くなったお陰で守備範囲が拡大した。
……それでもギリギリの球はグラブで弾いたりしてるけど、たぶん回数は減っているから成長しているだろう。
「野手の面談をしたいので奈織先輩から順番に来て下さい」
私も智賀ちゃんや真凡ちゃんと一緒に小山先輩のノックを受け、休憩に入った所で春谷さんによる面談が始まった。何をするのだろう、と思っていたら、更衣室の方から奈織先輩のキャッ!!という叫び声が聞こえる。
いや、本当に何をしているのだろう?美織先輩も「きゃー!?」という叫び声を上げたし、小山先輩の時も「うわっ!?」という驚いた声を出している。
「きゃぷてん、何をされたんですか?」
「……行けば分かる。次はカノンの番だろう?早く行って来い」
少し不安になって来たところで、私の順番が来たので更衣室に入る。そこには、若干興奮している春谷さんがいた。
声をかけようとしたところで、背後を取られる。肩を揉まれて、胸や太もも、お尻まで触られた。先輩達が情けない声を出した理由は、よく分かった。春谷さんによると、投手の適正を見ているらしい。
「ああ、カノンさんの筋肉は凄いです。本当に野球のことだけを考えた、理想の……」
「待って、おっぱいを揉んでそんな恍惚とした表情をしないで」
春谷さんは満足するまで全身を揉んだ後、投手も出来そうですねと結論を出した。一応、マッサージを兼ねていたみたいで身体が軽い。だけど揉まれている間、ずっと春谷さんの息は荒かったので、内心ではかなり怖かった。
その後は西野さんと大野先輩以外、きっちりと適正を春谷さんが見た。投手が2人だけだと、1日で練習試合を2試合する都合上投げすぎるから、3人目4人目の投手が欲しいのかな?
「急にごめんなさい。中で説明した通り、投手の適正を見ていました。現状、練習試合を回すために投手が2人だけだと色々と心配なので。
結果ですが、カノンさんと江渕さんは投手用の練習メニューもこなして貰います」
そして私と智賀ちゃんは、投手用の練習メニューも追加されることになった。捕手も足りて無いので、真凡ちゃんが第2捕手になりそうだ。小山先輩が捕手復帰も考えたようだけど、来年を見越してのことだろう。
1年生5人が、投手3人、捕手2人に分かれるということだ。人数が少ないから兼業は仕方ないけど、投手をやらされることになるとは思わなかった。ちゃんとストライクを、投げられるだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます