第2話 マネージャー

入学式の翌日。オリエンテーションが終わったら、中学時代のユニフォームに着替えてグラウンドに向かう。


昨日の自己紹介の時に、似た顔の2年生2人は双子だということが伝えられた。


セカンドを守る鳥本(とりもと) 奈織(なお)先輩と、ショートを守る鳥本(とりもと) 美織(みお)先輩だ。内野手が揃っているのは、幸運としか言い様がない。


「去年は外野手だったんだけどね」

「上級生は内野をすることが多い感じなんだよ」

「……もしかして、高校から野球を始めたのですか?」

「えへへー」「そだよー」


そして私と同期になる1年生だけど、まずはキャッチャーの梅村(うめむら) 詩野(しの)さん。小柄で可愛い女の子だけど、目が死んでいる。ガールズ出身で、キャッチングには自信があるみたい。


「何でこんなに野球する人少ないの……」

「不思議だよねぇ。こんなに野球をする人が少ない学校だとは思わなかったよ」


一応、ガールズで有名なチームの正捕手だったらしい。立派なグラウンドとトレーニング設備を見て、近所だからと進学を決めたみたいだけど、ご愁傷様としか言えない。


残りの2人は出身中学が一緒とのことで、見事な凸凹コンビ。長身の方が江渕(えぶち) 智賀(ちか)ちゃんで、低い方は伊藤(いとう) 真凡(まなみ)ちゃん。2人とは同じクラスだったので、関わり合いが増えそうだ。


「あの、有名な方なんですよね?よろしくお願いします」

「いつも思うけど、何でその図体で怖がりなのよ。

あ、私は普通にため口を使うけど、別に良いわよね?」

「もちろん。2人ともよろしくね」


先輩4人と、同級生が3人。私を入れて、たった8人の野球部が始動する。まず最初にやるべきことは、最後の1人を確保することだろう。




昨日の状況を思い返していたところで、また1人可愛らしい女の子がグラウンドに来ていることを目視する。


私の方をちらちらと見ているので、入部希望の人かな?と思って話しかけたら、マネージャー志望の人だった。


「カノンさんのお世話をさせて下さい!」

「……ぇえっと、マネージャー志望?」

「はい!」


一言目がかなりアレな発言だったのでびっくりしたけど、グラウンドにはまだ私以外来ていなかったからセーフだろう。私のファンだったらしく、野球は上手く無いけど近くで応援したいとのこと。


「春谷(はるたに) 久美(くみ)です!カノンさんを追いかけてこの学園に来ました!」

「ひぇ」


ガチの初心者でも、部員が足りないなら外野手として出て貰おう。そんな考えを伝えると、非常時には試合にも出ます、という言質をとった。これで、9人揃ったかな。


部活紹介が3日後に行われるので、そこでも何人か確保することは出来るかもしれない。世界中で女子野球がサッカーやバスケットボールよりも人気な世界だ。1人ぐらい、レギュラーを餌にすれば釣れるだろう。


1年生組が揃ったので、梅村さんとキャッチボールを行う。キャッチャーとしての素質である肩は良い方なのか、凄く投げやすいし受け取りやすい。


「梅村さんは、バッティングも良いの?」

「んー、たまに凄く良い。普段は4打数1安打がデフォ」

「ええ……でも、たまにでも良いなら主軸も打てそうだね」

「そりゃ、8人しかいないなら私も上位候補でしょ」


梅村さんは普段、ものぐさな態度だけど、正直者なのかな。というか、キャッチャーをする人って基本的に変な人しかいないから、私基準だと凄くまともなキャッチャーだ。


そんなことを考えていると、隣からボールが飛んで来たのでキャッチする。結構な速度で飛んで来たので危なかった。


「ご、ごめんなさい」

「あはは、別に良いよ。2人はキャッチボールとかしてたの?」

「はい。よく力いっぱい投げるキャッチボールをしてました」


伊藤さんから江渕さんに投げられたボールが私の方に飛んで来たけど、伊藤さんは既にかなり遠くから投げていた。2人とも中学は帰宅部だったそうだけど、遠距離でのキャッチボールが出来るなら初心者では無いだろう。


そして江渕さんが凄く申し訳なさそうにしていたから、別に良いよと笑って伊藤さんに投げ返す。思いっきり高く上げたボールを、あわあわしながらもキャッチした伊藤さんを見て、外野手として最低限のことはこなせそうだと思った。


梅村さんと大野先輩でバッテリーを組んで、伊藤さん、江渕さんが外野手。小山キャプテンがサードで鳥本姉妹がショートとセカンドを守るなら、残る枠はファーストと外野になる。


……これなら私がファーストをして、春谷さんは外野手をする感じにすれば試合は出来そうだ。


まだ新入部員が増えないと決まったわけじゃないから、気楽に待とうか。そう思って力いっぱい高く投げると、梅村さんは慌てずに一歩も動かずキャッチした。


流石に経験者は違うなぁと思っていたら、剛速球を梅村さんに投げられたので、しっかりとグローブで捕球。この肩なら、臨時のピッチャーも出来そうだ。


……ポジションをコロコロと変えるのはあまり良くないことだと思うけど、人数が少ないのだからある程度は仕方ないか。

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