第7話 合宿にて
あれは確か、大学2年目の季節は初夏の頃だったか……
自分の通う大学と同じ系列の大学の、研究施設も兼ねた宿泊施設が道南にあった。
同じ系列とはいえ全く同じ大学という訳でもないので、具体的にはそこが何をするための施設なのかは知らない。
というか、その施設……立地が凄すぎた。
見える範囲内に何も、コンビニどころか他の建物すらなく、少し離れた場所に海岸があって海が見え、反対側には片側一車線の道路が、その奥にはJRの線路が通っていた……あれは生きている線路だったのだろうか?
そういえば、あの線路を走る電車を見なかったような……
そんな場所にポツンと建つ平屋プラス小さめの体育館……そこで自分が通う大学の研究室による「合宿」が行われたのだ。
ちなみに言っておくと、自分が通っていたのは美術研究室である。
そして、合宿中にやる授業は「美術理論」である。
…………合宿とは?
誰もが疑問に思うだろう……まあ、合宿といっても、体育館に併設された宿泊場所で、ビデオの映画を小さなテレビで観せられて感想を書くというだけの、一泊二日の小旅行みたいなものだった訳だ。
むしろ、映画を見る時間より大学からここまで来る時間の方が長かった。
授業の後は何があるでもなく、晩飯は各自で持ってきたヤツで済ませ、夜は自由時間となった。
いや、自由時間言われましても……何をしろと?
結局、おおよそでチームは3つに分かれた。
女性だけで構成された「早いけれど布団と寝る場所を確保して寝るまでダベろう」派と、男だらけの「小さいとはいえ体育館があるので体を動かそう」派、そして自分も参加した男女混合「せっかくのシチュエーションだし季節先取りで怪談しようぜ」派である。
体育館から少し離れた食堂なら使ってもいいとの事だったので、体育館の灯りが廊下と窓越しに入って来ていてそこそこ明るかったのもあって食堂の灯りは点けずに、たった4人で大テーブルを囲んで怪談を始めた。
自分の番では、自分の体験談など怪談のうちに入らないので、小中学校の先輩でかつ大学でも先輩だった寺生まれの人から聞いた話を話した。
幸い、その先輩は合宿に来ていなかった。
確か、他にも数名の先輩が来てなかったはず。
で、一通り、全員が話し終わった時だ。
ゴトン!
ビビるくらい大きな音が食堂に響いた。
誰かの椅子の音なんかではない。
何か硬くて重い物が床に落ちたような音だった。
全員がその音を聞いたらしく、驚いて立ち上がってる人もいれば、音のした方向を向いて固まってる人も、椅子ごと身を引いている人もいた。
自分は音のした方向を見て立ち上がったパターン。
それから音はしなかったのだが……実際に自分が怖いと思ったのはそこからだった。
先程、大テーブルを5人で囲んでいた、と説明したが、もう少し詳しく説明すると、食堂には大テーブルが2つ、間を空けて並んでいて、外に通じる窓側にあったテーブルの短辺に厨房を背にして1人、テーブルの長辺で外に通じる窓を背にして2人、その向かいの長辺で廊下に通じる窓ともう1つの大テーブルを背にして1人、残った短辺に厨房に向かって自分が座っていた。
音が聞こえて少しして、もう音が聞こえないな……となった時点で、外に通じる窓側に座っていた人が「今の、聞こえた、よね?」と尋ねてきた。
全員が頷いた。
「音……そっちから、したよね?」
聞いた人が、廊下を指さした。
「え?」「え?」「え?」
厨房を背にした人と、廊下を背にした人と、自分が思わず疑問を口にした。
「え?」
それを聞いて、音の出どころを尋ねた人が驚いた。
皆の意見をまとめると……外に通じる窓を背にした2人は廊下の方から音がしたと言い、厨房を背にした人は外に通じる窓の方から音がしたと言い、廊下を背にした人は厨房の反対側、つまり自分の後ろから音がしたと言った。
そして自分は、厨房の奥から音が聞こえたと思っていた。
ほとんど全員がおそらく同時に同じ音を聞いたにもかかわらず、他の人のの背後から音を聞いたと思ったのだ。
その結論が出た時点で、沈黙がおりた。
そして、全員が黙ったまま立ち上がり、食堂を後にして、宿泊場所へ戻って、寝た。
他の誰にも何も言わずに。
翌日、無事に大学へ戻れて、ホッとしたのだが……
その後で合宿に行かなかった何人かの先輩に聞いたら、そこの施設……どうやら見える人には出ると言われてる場所らしいと言われた。
何でも、部活の合宿でそこを利用した先輩は、夜の体育館で遊んでいたら、見えるという人に体育館の窓……天井に近い辺りの一番上の窓から何人もの顔だけがニヤニヤ覗いていると言われたのだとか。
あ、この人、だから行かなかったんだな?
そんな噂のせいかどうかは分からないが、翌年からその施設に合宿授業で行く事はなくなった。
ちなみに、観させられた映画は「ポゼッション」でした。
これ、サイコスリラーというかホラーじゃね?
修授業で見せるモノではないと思うんですが?
尚、感想で「海女と蛸」を引き合いに出したら先生にウケてましたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます