第7話 いじめを生む"いじり"一族
タイトルでも宣言している通り、私がマザコン野郎の家で暮らしていたのは半年間だけだ。マザコン野郎の親戚一同と関わったのも、ほんの数回。結婚式や引っ越し後の挨拶回り程度の軽いものでしかない。
だが、そのわずかな接点の中でも、彼らが『関わりたくないタイプの人間』だとは感じていた。
結婚式では着慣れない和装をしていた者が裾を踏んでつまづいた時、心配するでもなく一斉に爆笑していた。
法事では住職のお経が小声すぎて聴き取れないと陰でクスクス笑っていた。
誰かの失敗や特徴を笑いの種にするのが、とにかく好きだった。教職に就いている者が多いせいか、学生のようなノリをいつまでも保有していた。
そして最もタチが悪かったのは、小さな失敗を笑い話にするために事実に尾ひれ背びれをつけて盛る癖があったことだ。
ある時、住職が寺で飼っている猫が擦り寄ってきて、マザコン野郎のズボンに毛を付着させた。
住職の妻が「ごめんなさい、コロコロを持ってきましょうか」と尋ねると、マザコン野郎は「ではお願いします」と答えた。
するとマザコン野郎のきょうだいはいきなり笑い転げた。お気になさらずと返せばいいものを、コロコロを持ってこさせようとしたのが面白かったと言うのだ。
「毛がついちゃったよ〜なんて、わざわざ言うことでもないのに!」
甲高いわざとらしい言い方で、元ネタの存在しない声真似まで始めた。それがさらなる笑いを生んでいた。
私は先ほどの短いやりとりに少しも面白さを見出せなかったし、無いセリフを捏造してまで滑稽な男に仕立てようとするきょうだいの発言にめちゃくちゃ引いた。
なぜならそれは、いじめを作るメカニズムだからだ。集団で標的をからかい、大げさにはやしたて、目立たせて笑い物にしている。
マザコン野郎の身内、特に親きょうだいはそんなつまらないイジりしか共通の話題がないようだった。
真実はどうあれ、私の前ではとにかく身内ネタしか話そうとしなかった。過去の失敗談など、知っても得をしない個人情報を一方的に聞かされてばかりだった。思えば、あれも部外者扱いの一端だったのかもしれない。
外から来た嫁に一族の思い出話を熱く語っても困らせるだけだと少しも考えず、当然共感して笑うものだと静かに強要する、あの空気。胸くそ悪い空間だった。
余談だが、姑が突然死した夫に降りた保険金を「お父さん宝くじ」と呼称していた。
性根の下品さが伺える真似のできないセンスだと思った。わざと明るく言ったのだとしても、故人をいたむ気持ちがそこには見えなかった。
「こう言っちゃ悪いけど、ボケ始めてきてたから……」
マザコン野郎も実父を軽んじていた。
その言葉の続きは口では言わなかったが、言わずとも最悪のフレーズが浮かぶ。
死んでくれて金も落としてくれて、ラッキー。
そんな、うわべだけ取り繕ったクソ野郎たちと私は『離婚の話し合い』をしなければならなかった。
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