第6話 姑が世界の中心にいる夫
マザコン野郎は自宅の一部を使って塾を開いていた。駐車場にゆとりがなく、親御さんが子供たちを送迎するにあたって自宅付近に車を停車しており、近隣住民から一度苦情を受けていた。
「それでね。近所の土地が売りに出されたから、買い取って駐車場にするの。しばらく工事でうるさくなるだろうけど、これで安心ね」
ある日、姑はさらりと言ってのけた。
姑が土地を買い、マザコン野郎が月々少しずつ代金を返済していくことにしたと。
マザコン野郎と姑の間だけで話し合い、決定事項となってから、私に事後報告したのだ。
駐車場はどのみち必要だったし、買わないという選択肢はなかったから、相談しなかった。する必要もないでしょう? そんな空気を感じた。
姑とマザコン野郎の笑顔が不気味だった。
彼らには、結婚して新しい家庭を作ったという自覚がまるでない。
数年前、マザコン野郎が、かつて姑の一族が暮らした古い家を引き継いだ。そこに私が嫁入りしてきた。
この家は初めから姑側の家と地続きで存在し、外から来た嫁は部外者なのだ。決定権も何も持ってはいない。そう強く主張された気分だった。
後日、生理痛で伏せっているのを理由に姑に「今週は来ないでくれ」と連絡した時。マザコン野郎は自分が応対するわけでもないのに不機嫌だった。
せっかく会いに来てくれるのに、気分転換がしたいと言っているのに、寝たままなんて失礼じゃないか。
姑自身にそう愚痴っていたと後から聞いた。
月に一週間も体調を崩しているなんて普通じゃない。パート帰りから夕食作りを始めるまで2時間ほど寝て休憩するのもおかしい。
マザコン野郎は妻への不満を実母へ声高に言っていた。妻には無言を通して、ひたすら対話を避けていた。
ほぼ全てを姑の口から伝えさせておきながら、必要最低限しか話さない歪な生活が続いた。
神経が参った私はマザコン野郎との関係改善を願い、箇条書きでマザコン野郎の不満への返信をLINEに送った。
・私の生理痛はピルを飲まない限り根本的解決はしない。子供を望まれているから飲めない。
・パート帰りに休憩する人はいくらでもいる。寝室で休んで怒る方が理不尽。
・(家に帰ってすぐパジャマに着替えるなという意見に対し)塾に関わるわけでもないのに何故?
・疲れやすいとしたら、ブラック企業を経験して精神を病んだ経験があるから。今は治っている。
そんな内容だった。
数日後の日曜日、午後9時の就寝前。
マザコン野郎はようやく私に直接言ってきた。
「貴方が遠い実家を行き来するのは疲れるだろうし、お互いに距離を置こう」
最初、何を言われたのか理解できなかった。
仕事始めの月曜日が間近に迫った最悪のタイミングで、一方的に離婚を切り出したのだと遅れて気付いた。
重大な一言すら自分からは言い切らず、におわせて、こちら側に気を遣ったように見せかけて察してもらいたがる。
責任を取る気がまるでないクソ野郎に絶望して、悔しくて、泣いた。
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